#さんのよん
降りてそのままずんずん歩く。
もー恥ずかしすぎる。
成り行きで見ず知らずの運転手さんにまで暗黒の思い出を晒してしまったじゃないか。
大体あの運転手さんもずっと空気に徹してたのに、なんであそこでリアクションするかな。
「どこに向かっているんですか」
空気なら最後まで空気で居てくれればいいのに、もしくは途中からでも存在主張してくれればいいのに。
「道、わかっています?」
そしたらあたしだってあんな体張ったボケしないよ。
「いい加減止まりませんか?」
あれ、笑ってたよね、絶対笑ってたよね、運転できないくらいにクリティカルしちゃったんだよね。
「……このまま突き進むと、ホテル街ですが」
もーあのタクシー乗れない、いや、あの運転手さんには二度とめぐり合わないだろうけど。
「子供の作り方、教えて欲しいんですか?」
ちょ、うっさいな、なに不穏なこと言ってんだよ大作家先生サマは。
「………て、え?」
ええ? なにか不穏なこと抜かしやがりましたか大作家先生サマ!?
「ああ。やっと止まりましたね」
明るい太陽の下、爽やかに似非紳士スマイルだ。
「この際あなたの人格的成長を願って生命の神秘を教えることもやぶさかではありませんが、ソレはともかく、駅は、あっちです」
……あたし、絶対忍耐強くなったよ。滅茶苦茶スルースキル鍛えられたよ。
そのヤバい発言は聞かなかった! そして今の進行方向から120°くらいの斜め後方が駅だと示されても大人しく方向転換する。
「……早く駅向かいましょう」
もういいから。イロイロごめんなさい。あたしが悪いよあたしが悪いんだよ、謝るからさ。
もーさっきのことは無かったことにして、次行こうよ。
「こっちです。大通りに出れば、直ぐに駅ですから」
あたしの気持ちを汲んでくれたのか、大作家先生は、普通に道案内してくれた。
「……しかし見事な自爆でしたね。感心しました」
……時間差でキタ!!
「自爆してないです!! あれは運転手さん誤爆しちゃっただけです!! 大体先生が大人しく爆撃されてくれないのがいけないんです!!」
「想定内ですから」
平然と仰る。
「ちょ、なんでそんなことまで予測済み? 先生頭ン中どうなってるんですか」
「お花畑でないことは確かです」
「どーゆー意味!?」
「生物多様性を痛感しています」
ちょ、なんか小難しいこと言って誤魔化そうとしてる!?
「あなたにも分かりやすく簡単に言うと、『あなたを見ていると面白い』」
「簡単に言いすぎだそれ!?」
ぎゃあぎゃあわめいている間に、駅についた。
大作家先生サマがさらっとあたしの分も切符買ってくれて、あたしは更なる自爆をしないよう、黙った。