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漫画雑誌の編集部には時々お邪魔していたけれど、連れて行かれたのは初めて踏み入れるフロア。
「籐埜さん、連れてきたわよー」
周囲を見回す余裕も無く、衝立に仕切られたブースに座らされた。
「あ、あの、オネーサン、ちょ、あたしトイレ」
腕を放してくれないオネーサンに訴えてみたけれど、『藤埜さん』と呼ばれた誰かがブースに来るほうが早かった。
「引き受けてくれたんですね!! ありがとうございます!!!」
目の下にクマ飼ってる、いかにも胃に穴が開いていそうな華奢な男の人が、縋りつかんばかりの勢いで突っ込んできた。
おう。ゾンビかと思ったよ。お陰でトイレに逃げ損ねた。
「……オシゴトの詳細をオネガイシマス……」
救世主を拝む姿勢のゾンビを無碍にもできない。
実際、今のあたしは仕事を選べるご身分ではない。絵のお仕事なら何だってやりましょう。
これほどまでに編集さんを追い詰める『小説の挿絵のお仕事』とやらがどんなのもか、あたしには想像もつかないですが。




