#にのじゅうろく
「パパラッチのミナサン……ネタはここに転がってますよ……」
朝というには昼よりな時間、リビングでふっかふかのソファでゴロゴロしながら落書きしてたら、大作家先生サマが書斎から出てきた。
どうやら先生は集中すると一心不乱に書き続ける性質らしい。徹夜明けで無精ヒゲの美形って、妙な色気が……くっそう、ケチつける所があるほうが人間可愛げがあるってもんだ。
つい、『おはようございます』より先に今朝見た夢のイメージが髣髴と。
「パパラッチ?」
その言葉に、超嫌そうに顔を顰める先生に、ピンと来た。
「あ、先生、やっぱり三流写真週刊誌はお嫌いですか」
弱点を見つけたようでちょっと嬉しくなった。
「あんなものを好きな人間の気が知れません。低俗な。しかも推測記事ばかりで正しくすらない」
ほえぇぇ。低俗とな。ゴシップなんだから、それは低俗であることがアイデンティティじゃないか。
「そうですか? 自分に関係なきゃ、面白おかしい噂話程度だと思いますけど」
ねぇ。芸能人の誰某がくっついたの別れたの。毒にもクスリにもならないどうだっていい話。
しかし流石は大作家先生。違うお考えのようだ。
「自分に関係が無ければ、ね」
不機嫌全開で、吐き捨てるように仰る。
「何かあったんですか?」
この毛嫌い様は。
「…………言いたくありません」
珍しくゲンナリと先生が目を伏せるもんだから、つい、これ以上突付いちゃいけないと仏心が。
「あったんですね。追求しないで差し上げますので恩にきて下さい」
優しいなあたしって。
「…………」
その奇妙なモノを眺める眼差しは、どういう意味でしょうか。
「じゃ、先生。コーヒーいかがですか。自分の淹れた残りですけど」
先生は、深々とため息を吐いて、頂きますと弱々しく頷いた。
本当にどうしたんだ。疲れてるのか。
疲れているときには甘い物がいいんだよ。
親切にもスティックシュガー5本投入してあげたコーヒーを、大作家先生は一口飲んで咽た。
何かを訴えている睨みつけるような眼光も、げほんげほん言いながらじゃ迫力不足だ。
「お水、いりますか?」
気を利かせたあたしがキッチンに行くより早く、大作家先生がそれを止めた。
「自分でやります」
……チ。水じゃなくお酢でも注いでやろうとしてたのがバレたか。
まあいいや。第一ラウンドは、判定勝ちってとこだよね。
三流写真週刊誌に頼らなくても、仇は自分で討つもんだ。




