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萌え絵師への道  作者: 昔昔亭或処@休眠中
にさつめのおしごと
23/59

#にのじゅうご



 先生曰く。コスプレ少女は、自傷ではない自己否定。普通じゃない位置のピアスも大きく括って自傷行為の一種と捉えられないこともない。だから、ピアス案は最初からボツだったらしい。


 ……と、なると。


 敢えて避けていたけれど。


 自分を痛めつけないなら他人を、ならどーだとゆー方向にもってっちゃうよ?


 むしろコスプレ的には、アリだよね?


 常軌を逸してるよ? 確実に逸脱してるよ? ホントーにやっちゃうよ?


 もう、いろんなことどーだってイイやー、な気分で、7枚のラフスケッチを描いた。


 いっそ清清しいまでにドギツイ女王だ。


 ちょっとソフトな革ジャケから始まって、徐々にエスカレートね。途中ド○ンジョサマっぽいの通過してね。仮面も面白おかしくアレやコレ。


 しかしミナサンご期待に背いて申し訳ないが、中身はダイナマイツじゃなくてホネホネなんだよ。肉感的から最も遠いバディでソレやるからむしろ痛々しさ半端無いよ。そーゆー『常軌を逸してる』を描いてみましたよ。




 描いて、自分でもこれは酷いと思った。もしこんなコスプレがイベント会場にいたら自分の上着を着せ掛けちゃうかもしれない。描いてて気分悪くなった。


 そんなのがラノベの主役張るって、最早それラノベじゃない。でも大作家先生サマのはラノベ風と最初から言っている。風、なら良いのか?


 しかし、これがもし本になったとして、読む人いないような気がする。少なくとも本屋で一度手にとってパラパラと中身チラ見して、このイラストが出てきたら、絶対すぐさま棚に戻す。決してレジまで持っていかない。


 ……その前に編集ストップが確実か。




 7枚描いて、その惨さに、逆に頭が冷えた。


 なまじっか自分の画力が高レベルなもんだから(ここは謙遜しない)、この絵は見た人に不快感しか与えない。目を背けるだけだ。


 先生の求めるモノは、多分、そんなものじゃない、はず。


 考えて、描いた7枚、全部バッテンした。


 挑発に乗ったとはいえ、半日後にはそれなりのものを突き付けてやらなきゃ気がすまない。コレじゃダメ。ダメダメ。


 ……一冊めは、既に話があって、それを読んだからイメージが直ぐに固まった。


 今回は、絵が先で、そのイメージで先生が話を書くらしい。絵に、ある程度の自由がある。その自由を最大限最良に生かせってことだ。


 うん。美術の課題であったな。テーマだけ与えられて後は自由。絵とか彫刻とか表現方法すらも自由。


 そーすっと、何をどうしていいかわかりません、なんて学生も出てきちゃうんだな。自由課題って、残酷なまでに学生が試される。


『表現のための技術は学べば良い。下手なら努力すれば良い。でも技術だけで絵はかけない』


 突き放した態度だった油絵の講師の言葉を思い出した。そんなに昔じゃないはずなのに懐かしい。


 必要なのは何かと聞いたら、自分で考えろと言われたっけ。




 集中して描いて、何枚も何枚も描いて、鉛筆がチビてどんどん無くなって、それでも描いて。


 『常軌を逸した露出』


 これならどーだ、と、鉛筆を置いた。


 ふう、と息を吐いて顔を上げたら、先生が腕組してそこにいた。


「…………あれ?」


 今何時だ。半日後っていつだったっけ。


「できましたか?」


 先生が手を出すから、うっかりスケッチブックそのまま渡しちゃったけど。


「……確かあたし、ドアに鍵かけた覚えがあるんですが」


 なんでいるんだこの人。


「そんなもの、ここは私のマンションですからマスターキーくらいあります。ノックしても呼んでも返事が無いので、もしや倒れているのかと」


 それはそれはご心配を。集中してたからね。時計を見たらあたし半日以上篭っちゃってたみたいだし。そこはスイマセン。でもその前に重大な問題があるよね。


「……鍵かかる部屋だからカンヅメもOKしたのに……」


 言っちゃナンだが大作家先生サマよ、人を騙すのもいい加減にしたらどうだ。藤埜さんに訴えたらどうなるかな、どうにもならないかな。むしろ大作家先生が未婚女性手篭めにってスキャンダルでも騒いでやろうかな。その場合あたしのダメージも大きいな。でもお堅い純文学の作家がP--って業界的にはどうなんだろうな。試す価値はあるかな。今に見てろよ大作家先生サマあたしは泣き寝入りするオンナじゃないゼ。


 混沌と暗黒の未来に思いを馳せていると。


「これは」


 スケッチブックを眺める大作家先生サマが説明を求めているらしい。


「ですから、『常軌を逸した露出』です」


 指差されているのは、野暮ったい制服を校則どおりに着たラフスケッチだ。


「等身大の自分自身を、露出」


 コスプレがキャラになりきることなら、究極の露出は、ありのままの『自分』じゃないかな、と。


「…………なるほど」


 だから、その手前の6枚は、ゴッテゴテのコスプレだ。あのコスプレ専門店で見たディスプレイの鎧とか。顔もできる限り隠して、身体も分厚く作り物。中に誰かいてもいなくても同じだってくらいに。


「そこで突き抜けちゃえば、コスプレが逃避じゃなく自己表現になって、将来デザイナーとかそっち方面興味湧いたり?」


 あたしの知人のコスプレーヤーは、貧乏劇団で衣装デザインやってる。だからむしろあたしは、『自己否定でコスプレ』が分からない。あんな明るく楽しくコスプレしてるのに。


「……良くできています。そういうことなら……」


 ブツブツと、先生がアッチの世界に旅立った。スケッチブック持ったまま書斎に直行だ。




 ……どうやら合格点かな。


 とりあえず、飯、風呂。そして睡眠。


 なんかもうイロイロどーだってイイやーの限界点を軽く超えているので、遠慮せず大作家先生の財布で定食を出前してがっつり食べて、バラの香り充満するお風呂でふやけて、誰に見せんだお洒落ナイトウェア着て、結局マスターキーあるなら意味無いじゃん鍵開けっぱなしで良いや、と、寝た。


 三流写真週刊誌で『純文学作家の乱れた私生活!!』のアオリ文句踊る大作家先生の巻頭特集ページ眺めてザマミロと高笑いする夢を見た。


 正夢だといいな。




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