#にのじゅうよん
あの宣戦布告の後。
血圧上がったらしい先生は書斎に篭った。
翌朝、前方を見失ってる編集さんが来たときには原稿は上がっていて、編集さんは喜色満面原稿を持っていった。
こっそり聞いてみたら、元リスカ・現ピアス少女は作中ホンの端役だそうな。出番は二回、二言三言メインキャラと会話する程度。どう考えてもイメージ違ったからって締め切りぶっちして書き直すほどの重要人物ではなさそうだ。
なのに編集さんは、より良くなった、とホクホク顔してた。数時間前は死にそうな顔してたくせに。
そうして、こっちのお仕事の一押し、ホネホネでベリーショートのピアス少女は、当然使えなくなった。
……結果、今またデザイン起こしてるとこなんですが。
「生易しいですね。常軌を逸するほどの迫力がない」
「ヌルいですね。もっと鬼気迫る何かを表現できませんか」
「全くなっていない。狂気がまるで感じられないですよこんなモノ」
…………キャラ違ってませんか先生。敬語キャラは貫くみたいだけどね。ちょっとぞんざいな敬語だけどね! 余計腹立つ敬語だけどね!!
ダメ出しの鬼と化した先生サマが踏ん反り返っていらっしゃいます。
「だってだって、ラノベで萌えキャラなんでしょう? いくらなんでもこれ以上は」
「あなた、表現者が自ら枠に嵌ってどうするんです。私は逸脱しろと言っているんです。言葉は精確に理解してください」
うがぁああああ!! ……と叫びたい。
何なんですか大作家先生サマってば、今まで餌のいらない猫十匹くらい被ってたんですか、急に化けの皮剥いだんですか。
「先生。今からでも紳士の仮面被ってください。この際、あの胡散臭いイケメンスマイルでも我慢しますから」
はん、と鼻で笑うこの人は、一体誰だ。
「あなたにはコレくらいでちょうどいいでしょう」
ちょうど良くない。逝け面にも程がある。
「……じゃあ、どこがダメでどう直せばいいのか教えてくれたら……」
「手取り足取り教えてもらおうなんて小学生ですかあなたは。バツ付いた答案直すくらい小学生でもできそうですけどね」
ムっかぁああああ!!! ……と叫んでも罰は当たらないと思う。
言ってくれるじゃないですか大作家先生サマ! よーしそっちがそのつもりなら良いんだなどうなっても!!
こうなったら藤埜さんが腰抜かすほどのエッグイのを描いてやる! 良いんだなホントに!!
「……じゃあ、集中して描くんで。ラフを半日後に提出します」
出て行け、とドアを指差したら、先生はニヤリと笑って出て行った。
何だよそのやれるモンならやってみろな表情は。
くっそぅ!! その逝け面、吠え面かかせてやるぜ!!
唸れあたしの黄金の右手!!
東○都で物議を醸してやる!! そして出版社が窮地に陥っても知らんからな!!
集中するためにドアに鍵をかけて、あたしは作業部屋に篭った。