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萌え絵師への道  作者: 昔昔亭或処@休眠中
にさつめのおしごと
20/59

#にのじゅうに

 なんてゆーかさ。


 作家とか漫画家とか、ある意味人間やめてるってゆーか病めてるってゆーか。


 人として必要なものが欠如してるんじゃないかな。


「く、呉羽先生……、お願いです、一文字でも……」


 先生は、他社のお仕事も平行していた。今日はその締め切りだったらしい。


 当然のように、原稿ができていない。昨日一昨日何してたんだ。言わずもがな、一昨日は矯正器具賛美してコスプレ服研究して、昨日は半日以上寝てたよね。


 目の前に、非常時の藤埜さんと同種の生物がいます。あのコスプレ服の山、この編集さんには絶対に見せられない。


 ……にもかかわらず、高尾先生は書斎のデスクで微動だにしない。


 眉間にしわ寄せて、宙を睨んでいます。


「お茶、いかがですか」


 いたたまれないので、せめて編集さんにお茶を勧めてみた。


 漫画家の修羅場は何度も経験しているけど、あっちは追い込みともなればアシスタント入って大人数で半ばパニくりながらひたすら描くのが普通だ。


 編集さんだって、否応無しに手伝わされていた。


 そうか。この場合編集さんは待つしかできないのか。それは精神的にもキツイだろうな。


 そして作家さんは、一人で、書くしかないんだ。


「……恐れ入ります……。あの、失礼ですが、お身内の?」


 うぎゃぁ。そこはスルーしてくれよ。なんて説明したらいいんだよあたしのこと。


「ええと。赤の他人ですが、契約で、とある仕事が終わるまではココに住むことになってます。お気になさらず」


 編集さん、すっげ微妙な顔した。うん。ご自由にご想像ください。


 ラノベ書くの内緒らしいし、他社の人にぺらぺらしゃべって良いのかあたしには判断できない。


 必要なら、高尾先生が説明するだろう。


「ともあれ、まだ何とかなる範囲ではあるんですが。……もっとケツカッチンなんていくらでもありますしね……」


 虚ろな目だ。やばそうな感じだ。


「気を確かに持ってください。崖っぷちまで後何センチか測るより、ほら、前向いてゴール見ましょうよ」


 ばき、と編集さんが固まった。なんかマズいこと言っちゃったのか。地雷か。


「前、……前……、は、はは、前、そうですね。ええ。前、まえ……、前ってどっちですか」


 余計なコト言いました申し訳ございません。




 明日の朝また来ます、と憔悴した編集さんが帰っていった。


 自分の食事はデリバリーで済ませた。先生、声かけても書斎から出てこないし。ここは無理やり食べさせるトコだろうか。でも、あたしそこまでやる義理は無いと思うんだが。でも先生の財布でピザ取った以上、あたしだけ食べるのはいくらなんでもな。


 ……っつーか、ココで手料理作って少しでも召し上がってください、が、少女漫画の常套だけど、それなら尚更、絶対に手料理なんかしないと誓う。


 フラグとかありえないありえない。


 でも、やっぱ気が引けるので、ピザと栄養ドリンクをトレイに乗せて書斎のドアをノックした。


「失礼しま~ス……」


 こそーっとドアの隙間から覗いたら、能面よりも無表情の先生が、天井睨んでた。コワ。


「高尾先生。ご飯、どうしますか」


 恐る恐る、トレイを差し出してみる。


「……いえ、ここで飲食はしないことにしています」


 あ、動いた。生きてた。


 のっそりと動いた先生は、心ここにあらずでもリビングに出てきた。


 多分、条件反射でピザ口に運んでるけど、何食べてるか意識してはいないだろう。タバスコたっぷり振りかけておけば良かったかな。


「あの編集さん、明日また来るって言ってました。あと、あたしのことは適当に言っておいたんで、後でフォローお願いします。それと、こっちのお仕事のほうはどうなんでしょうか。あのラフで進めておいていいですか」


 とりあえず言いたいことだけ。


 高尾先生は片手でこめかみを揉みつつ、深く息をついた。


 タイトル『苦悩の彫像』だな。


 美形って結局どんな顔しても美形なんだ。笑顔が綺麗なのは誰だって当然、怒りや苦悶の負の表情すら鑑賞できてこその美形だ。


 今度高尾先生モデルにネーム考えてみようか。……少女漫画じゃなくなっちゃうか。


「……一つ、お願いがあります。あのピアスのアイデア、あれ、他で使ってもいいでしょうか」


 苦悩のまま、ポツリと先生が言った。


「え?」


「あなたのアイデアですが。あれを見てから、どうしても今書いている話の登場人物にあのイメージが被ってしまうんです。リストカット常習の少女として書きすすめていましたが、リストカットよりもピアスのほうがしっくりくる。どう考えても」


 え。ええと。


「……本当に、あなたのセンスは、……理屈だの理論だの計算だの、到底……」


 ひょっとしてそのせいで筆が止まっちゃってたんですか。


 え? それあたしのせい?


 ……その、スイマセ……?


「……っ全くっ、腹が立つっ!」


 がたん、と高尾先生が立ち上がった。


 ……はへ?


 あ。衝撃で栄養ドリンクのビンが転がった。けど、蓋開けてないから大丈夫だ。うん。


 ……うん。現実逃避だよね。


 なんで苦悩の彫像が仁王像になってんだよ。


 ちょっと待て、それもあたしのせい?


 あたしのせいだっての?




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