#にのじゅういち
編集さんって、便利屋じゃないよね。誠に申し訳ございません。
藤埜さんはここの管理人さんに顔パスらしい。あたしはうっかり外出てオートロックに締め出されちゃったけど、藤埜さん一緒だと管理人さんがロック開けてくれた。
いつも大変ですね、て挨拶されてた。そうか。いつも大変なんだ。なるほど。
藤埜さん、PCの扱いが非常に丁寧で、接続もスムーズで、そこらの電気屋さんよりもよっぽどだと思うよ。レンチやスパナが意外にお似合いで。今度ボルトとナットのセクシーさについて語り合いませんか。
でもって、荷物やらPCやらガサガサ持ち込んで大型モニター設置するのにフレームガンガン組み立てたり、結構物音立ててるのに起きてこない高尾先生も凄いよ。
「あの。今更なんですが、高尾先生の本名って、なんて仰るんですか」
こそーっと、聞いた。
「呉羽隆生ですが……」
すっげ不審そうに、でもちゃんと答えてくれた。あ、そうだったそうだった。
「あ、えと。ペンネームでなく本名?」
取り繕ってみた。
「はい。本名です。……読み方は、『たかお』ではなく『リュウショウ』が本来らしいですが、先生は『たかお』で通していますね」
え。またお名前まで小難しい。
「ご実家はお寺なんだそうです。一人息子で、やはり寺を継ぐことを期待されていたとか」
うお。お坊さんですか! 似合わない!!
「勘当されたと、聞いたことがあります」
きゃああ。すげー。凄いよ。勘当とか、このご時世本当にあるんだ。
「さて。設置はこれていいでしょうか?」
大型のモニター、微調整までしてくれてありがとうございます。なんか前より使いやすくなったような気がします。
「お手数おかけしました。スイマセンこんなことまで」
「いいえ。コレも仕事ですから」
にこやかに仰る藤埜さんに、後光が射して見えた。
で、高尾先生、まだ起きてこないけど放置していていいですか。
藤埜さんの、これで仕事がはかどりますね、ってプレッシャーとか、気にしない方向で。
リビングで落書きしてたら、低血圧って顔に書いた高尾先生が出てきた。
コーヒー牛乳一気してるお坊さんの落書きの横に、寝起きのドラキュラの落書きも並べてみた。
うん。お坊さんよりドラキュラのほうが似合う。
「高尾先生。主人公のラフ、いくつか描いたんで後で見てください。それでイメージある程度固まってから、コスプレのほうをやりたいです」
ご注文は露出。やっぱりこの場合はロリ巨乳が求められてるんだろうか。
むしろ肋骨浮き出るくらいスレンダーで露出のほうがクる気がするけどな、アタシ的に。
だってね、考えても見てよ、ボン、キュ、ボンなら服着ててもアッピール充分じゃんか。むしろダイナマイツは隠してこその破壊力だ。谷間チラだけでその先を妄想するのが正しい姿勢だ。違うかね青少年諸君。
……スイマセンね個人的主張丸出しで。
そんなこんなで、描き上げたラフ、一押しはホネホネでベリーショートだ。
「ちなみに、その心は?」
あれ。また心読まれた?
「えー、コスプレの自由度が。スレンダーなら寄せて寄せて上げて揚げて盛って盛り付けていけばどうにでもなりますが、ダイエットと一緒で減らすのは難しいので。髪がショートも同じ理由です。ピンク髪とか。どうせヅラ。あとも一つ、女子中学生ってコトですが、ピアスはどうでしょうか。エスカレートの度合いをピアスの数で。臍ピアスとか、コスプレのときだけ見せるような位置に」
痩せギスの娘が痛そうな位置にピアス。常軌を逸してる感じが『露出』じゃなくても出せると思うけどな。ちなみにピアスは普通のアクセサリじゃなくて、安全ピンとか鎖とか釘とかボルトとナットとか。
高尾先生はしばらくラフを睨んで、無言で書斎に消えた。
あ。牛乳ビン掲げた僧侶と寝起き吸血鬼も見られちゃった。
誰がモデルとか、……バレてない、よね?