#にのろく
メイドさん、八つ当たりだけど、恨むよ。
何を思い立ったのか、大作家先生はビラ配りのメイドさんに声をかけた。うれしそうに応じたメイドさんは、大作家先生の質問に快く答えてくれた。
……そしてコスプレ服専門店の存在を知った。
その筋じゃ有名なお店だそうだ。専門店があるとは知らなかった。
大作家先生は、大量のお買い物をなさいました。
先生のお買い物に同行する勇気はあたしには無かった。
店の外で待つ間、ディスプレイのおどろおどろしい鎧兜を観察していた。
へー、これどう考えても腕上げただけで肩の角みたいので自分刺すんじゃないかな、そもそもこの肩のジョイント駆動域がほとんど無いみたいにみえるんだけど実際着た人いるのかな、鎧である以上使用目的は戦闘じゃないのかな、このデザインもうちょっとどうにかならんもんかな、鎧と言うにはコケオドシ感漂っちゃってる気がする、もしこんなキャラクター出てきたら絶対雑魚だと思うよ。
「荷物、持ちます」
両手に紙袋抱えた大作家先生が相変わらず小難しいカオで戻って来て、大変そうだったからそう申し出たら、やんわりと断られた。
「女性に荷物を持たせるわけにはいきませんよ」
でもね。大作家先生サマ。自分のルックス自覚してくれないかな。激しく違和感あるんだよ。
このお店の紙袋、笑顔満面ロリ巨乳が自己主張しすぎだと思うんだ。
「じゃあ、直ぐにタクシー拾いましょう。大荷物ですから電車では大変です」
隣にいるあたしが耐えられません。
ひょっとしてあの場で解散する手もあったんじゃないのか、と気付いたのは、タクシーに乗って、大作家先生が目的地を自宅マンションと告げたときだった。
え。この上自宅までつき合わされちゃうわけですか。
……っつーか、何であたしはのん気にご一緒しちゃってるんだ。
今、大作家先生は何を持っている? 大量のコスプレ服だ。
何で大作家先生はあたしを同行させた? ……………。
いやいやいやいや、まさかね、そんなはずないよね、あたしは着せ替え人形じゃないよ?
あたしは『仕事』でご一緒するわけだから、つまり絵を書くんだよね? 絵、だよね?
今更ながらに、大作家先生のお買い物を見張っていなかったことを後悔した。どんな恐ろしい衣装買ったんだ。サイズはどうだった。
さっき店の外で待ちたいと申し出たときあっさり許可が下りたのはナニユエか。
このワンピースの買ったお店であたしのサイズはバレてると考えていい。
え? あたし今これ何フラグ?