#にのよん
疲労困憊で店員さんに連れられて、ぼんやりとソファに座ったら、隣が大作家先生だった。
「……なんでこんな……」
涼やかにコーヒー飲んでるヘンタイイケメンは、店員にカードを渡した。なんてことだ。この一式お値段どんくらいだ、普段量販店半額セールでしか買い物しない貧乏人には予想もできない。
「綺麗ですよ? よくお似合いです。ここのスタッフは優秀ですね」
愕然としていると大作家先生サマがサラリと仰った。違ぇよ問題が。
「あの。こんなことして頂かなくても」
言え。ちゃんと言うんだあたし!
「気に入りませんでしたか? なら別の店に行きましょうか」
のおぉぉぉ! なんてこと言うんだ、この店員さんの仕事の成果、ケチ付けるなんてありえない残念なのは中身があたしってことだ。
「そうじゃなくて。こんなこと、して頂く理由がありません」
よし言えた! はっきりキッパリお断りしろ!
「理由ならありますよ。私がエスコートしている間に不愉快な目に遭わせてしまいました。そのお詫びです」
何なんだこの男……。
「……あの、今は持ち合わせがありませんが、このお金は是非ゼヒ支払わせてください。男の人に服を買ってもらうのは結婚相手だけだと両親から躾けられています」
いや、嘘だけど。ウチの両親にそんな教えを受けた覚えはないけど。
「それはあれですか。男が服をプレゼントするのはそれを脱がす下心があるから、という?」
そうだよ、とはとても言えない。少なくとも、目の前のイケメンがあたしに、はありえない。
「いやいや、先生がそうだと言うつもりはありません、ええ、全くこれっぽっちも。ですが紳士な先生ならお分かりいただけるかと思いますが、誤解を招くような行動は慎むべきではないでしょうか」
「……紳士、ですか?」
なんでそこで理解できませんってカオしてんだ大作家先生。
「少なくともただの仕事の関係で、服プレゼントはしないでしょう。今回の場合なら、クリーニング代渡すのがスマートな対応ってものです。それだって充分気を遣った対応だと思います。だからこれはやりすぎです」
「ただの仕事の……」
逝け面の微笑みだった。どす黒い何かが見え隠れした。触れたら確実に良くない事が起きる何かを秘めている。
「なるほど。では、これも仕事の一環と考えてください。ちょうど次回作のキャラクターを考えていたところです」
…………。
大作家先生の脳内は、複雑怪奇に捻じ曲がっている模様です。