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萌え絵師への道  作者: 昔昔亭或処@休眠中
にさつめのおしごと
11/59

#にのさん



 妙な押しの強さで、大作家先生はあたしをタクシーに押し込んだ。


 うわー。女あしらいの上手さが透けて見えるような。


「ズボンも濡れているでしょう。そんな姿で電車に乗せるわけにはいきません」


 はあ。紳士ですね。


 でも、ヘルプのアシスタントでド修羅場明けなんか、もっと酷い格好もザラです。顔にトーンの切れ端くっつけたまま山手線二周したこともあります。


 そのまま送ってくれるつもりかと思っていたら、街中で降ろされた。え。お店?


「彼女に似合う物を」


 高級感漂う店内を通り抜けて、奥の応接室っぽいところに通されて、VIP用かよこういうとこ本当にあるんだ庶民の知らない世界って感じーなんで今カメラ持ってないんだネタだコレ、と、二度と来る機会はないであろう場所を目に焼き付けていると。


 モデルさんのようなプロポーションの店員さんが、ふわふわ華やかなヒラヒラを持ってきた。


「こちらへどうぞ」


「へ?」


「お召し替えを。サイズが合わないようでしたらお申し付け下さい」


 二畳ほどの広さの試着室は、大きな壁一面の姿見とアンティークなカウチが置いてあった。渡されたのはふわふわシフォンのミニ丈ワンピース。コレをどうしろと。


 愕然と立ち尽くしていると、またドア越しに声がかかった。


「こちらも宜しいでしょうか。行き届かず申し訳御座いませんでした」


 と、恐縮しながら店員さんが渡してくれたのは、可愛らしい下着とストッキングでした。


 ああ。このワンピース、肩大きく開いてるしね。うん。今のスポーツブラじゃ見えちゃうしね。生足とかお披露目できるような年じゃないしね。


 ……でもどうして普通のパンティストッキングじゃなくてガータータイプなの。どうしてこのブラジャーサイズがぴったりなの。どうしてこのパンツ紐なの。このエロいチョイスは誰が!?


 げんなりして、でも着替えないと外に出してくれない気がしたから、着替えた。


 誂えた様にぴったりサイズで、店員さんにオモウシツケるようなことは何もなかった。脱いだ服を胸に抱えて恐る恐る試着室を出ると、履きなれたローファーはなく、これまた可愛らしい華奢なサンダルが置いてある。


 ……コレを履けと。


 うろたえていると店員さんが速やかにやって来て、足にカポッとサンダルを履かせ、足首にストラップをぱちんと止めると大きなお花コサージュをくっつけた。申し訳なくて泣きそうだ。今まであたしの人生で他人様に靴を履かせてもらったことが……幼稚園頃までならあったかもしれない。


「そちら、お預かりいたします。クリーニングした後ご自宅にお届けするよう手配いたしますので」


 胸に抱えた服を取り上げられた。え? ちょっと待ってよ、その中には脱いだ靴下や脱いだパン……!! 

「持って帰ります、持ち帰りますから、あの、紙袋か何かに纏めてくれたら……!」


 お願い、オネガイします!!


 あたしの必死さが伝わったのか、店員さんは頷いてくれた。助かった。3枚980円のパンツを人に見られるなんていくらなんでも……。


「こちらへ。服の雰囲気変わりましたので、メイクを少々お直しいたします」


 最早何も言うまい。ベルトコンベアに乗っけられた気分で、ほぼスッピンだった顔を弄られ、髪形もどうにかされ、いつの間にか手にもネイルを施されそうになって、慌てて手は商売道具だから止めてくれと頼んだら、付け爪された。剥がし方も丁寧に教わったけど、オーバーヒートした脳味噌で、そんなの覚えていられるわけがない。




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