ぷろろーぐ
……どうしてこうなった。
通帳を眺めて、愕然とした。
やばい。
今きっとあたし人生の岐路に立たされている気がする。
アタシはイワユル駆け出しの少女漫画家で、ぶっちゃけて言えば売れない漫画家で、正直に言えば年に一本雑誌に読みきりを(しかも予定していた作家さんの穴埋め代原とかで)載せてもらうのが関の山の、プロを名乗るのもオコガマシイ自称漫画家だ。
絵は、そこそこ上手いと思う。っつか客観的にも評価は高い。
が、問題はストーリーである。自分でも分かっているけれど、面白くない。どうしたら心に響く面白いモノができるのか、試行錯誤を続けている。
……続けている。うん。自分が頑張る限り、夢は終わらない。はず。だけど。
そろそろ、夢を追うのもどうだろうかという年齢だ。
同級生たちは結婚して家庭に落ち着いていたり、社会でバリバリ働いていたりする。
なのにアタシは、雑誌の細々したカットのお仕事とコンビニのバイトで食いつないでいる。
あたしの夢を応援してくれていた両親も、どうやら引き際を見極めようとしている気配だ。いつ引導渡されるか。
そんな切羽詰った状況。絵の仕事ならどんなものでも請け負って当然だ。少女漫画に拘ったりしない。拘れるご身分じゃないのは重々自覚している。
でも。
やっぱり、あれだけ追い詰められていなければ、あたしはあの仕事を引き受けなかったんじゃないかと、後々になって考えた。
後悔先に立たず。一寸先は闇。あるいは、……人間万事塞翁が馬。
事の発端は、顔なじみの編集さんからの一本の電話だった。
漫画家人生の、もっと大きく言ってあたしの人生でのターニングポイントとなったお仕事は、こうしてアタシの元に舞い込んできた。