説也☆
「………それでは、僕のチームが優勝すればいいんですね?」
「うむ、そしたら認めてやろう」
「ありがとうございます。来週、楽しみにしています。」
「9年無敗のわしらを打ち負かしてみぃ」
「ええ、それでは失礼します。」
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未空学園に入学してから二日。入学してすぐ行われた実力テストを終えて、若干疲れを感じながらも早く科学部に顔を出したいという衝動に駆られていた。皆が帰る準備をしていると、我らがFクラスの担任、桜井香菜先生がこんなことを言い出した。
「え〜っと、突然ですが来週の金曜日に球技大会をやります。どの種目に出たいか、月曜日までに考えてきてくださ〜い。」
香菜ちゃんのおっとりゆったりとした声が教室に流れる中、黒板に種目が書かれていく。
≪男子≫サッカー・ベースボール
≪女子≫バスケ・バレーボール
なるほど、男女別で4つの種目に分かれて競い合うのか。ありがちと言えばありがちだ。うーん、やっぱりサッカーだな。俺は野球の守備がてんでダメだからな。
「あ〜言い忘れてたけど、私たちFクラスは2・3年のFクラスと組むことになってます。先輩たちと交流を深めるいいチャンスだから、みんなうまくやってね?」
そう言って、今日のFクラスは解散した。足速に物理室に向かおうとする俺の肩を、誰かがつついた。ちっちゃくて幼くてかわいらしい顔をしている。雪村健斗だ。中学の時に知り合ったのだが、その頃から容姿だけでなく、性格もなんだか子どもっぽいやつだ。
「ねえ、説也。説也はどうする?」
「そうだな………俺はサッカーやるつもりだけど」
「サッカーやるの?………そっか、じゃあ帰るね………」
そう言って寂しそうに背を向けて歩き出した。
「ちょっ…待てよ、健斗!野球の方がよかったのか?」
「?」
え………じゃあ健斗は―――
「………女子に混じって球技大会に出たい―――」
「みなさーんっ ここに女子に混じってバスケやバレーやりたいって人がいまーす!」
「やめろ健斗っ!俺そんなこと一言も言ってない!誤解されちまうよっ」
人の話は最後まで聞くもんだろ?それになんてタイミングで話を切ってくれるんだ。『出たいのか?』って言うつもりだったのに。誰にも気付かれないように心にしまっておいた俺の気持ちが赤裸々にされるてしまうなんて。てか健斗、どこからそんなメガホンを取り出したんだっ!?
「ねえ、説也何か勘違いしてるよ。これからどうするのか聞いたつもりだったのに、球技大会のこと答えてたでしょ」
「なんだ、そうだったのか。俺の早とちりだ。悪かったな。」
「気にしなくていいよ」
「ああ………って良くねぇよ。なんで俺が謝らなきゃいけないんだ!」
へへっと笑いながら、健斗がメガホンをズボンのポケットにしまおうとする。まさか!?そんなところに―――
「あれ?入らないや」
入らないよな。常識だよこんなの。………常識だよな?あれ、でも変だぞ?何かが肩に減り込んできてる。普通なら入らないはずなのに。
「カラス………さっきの、どういうこと?」
なるほど、アゲハが俺の右肩を潰しているのか。なるほど納得だ。アゲハなら常識の一つや二つ、簡単に覆してしまうだろう。普段は活発な印象を与える上波知未の跳ねた髪は、今では殺気を強調している。
「あれは健斗が勝手に言ってただけだ。だからその手を離してはくださらないでしょうかアゲハさん!!!」
俺もずいぶん必死だな。いや、でも全然大袈裟じゃなくマジで痛え………
「ふーん、そう。本当なの、ケンケン?」
おい………早く離してくれよ。健斗に真偽を確かめるのはそのあとでもいいだろっ?右腕壊れちまうってっっ!
「あ…うん、そうなんだ。ごめんね、上波さん」
「あっ 別に謝らなくていいよ。簡単に信じちゃったアゲハが悪いんだから。カラスがそんなこと言えるはずないのにね」
右腕の感覚がなくなってきて、やっと解放された。うぅ………後で保健室行ってこよう。それにしても健斗、オマエはどうして俺ばっかり弄るんだ。俺以外が相手だとずいぶん消極的になるくせに。もしかして、友達………少ないのか?
肩の痛みばっかり気にしていたから気付かなかった。アゲハの後ろには天音美来が面倒臭そうな顔をしながら立っている。こちらは天真爛漫なアゲハとは対照的に、とってもクールでお淑やかだ………普段は、だが。
「そういえばアゲハ 足はもういいのか?」
「あ、ん〜と………大丈夫みたい」
アゲハがきょとんとした表情をしている。足の痛みが引いていることに気付いていなかったのか?でも、どうやら一昨日二階から飛び降りたときに捻った足は十分に回復したようだ。セキュリティプログラムだと治りも早いのだろうか。
「ねぇねぇ、アゲハたちこれから物理室行くんだけど、二人も一緒に行かない?」
「おう、俺はもともと行くつもりだった」
「そっか!ケンケンはどうする?」
「えっと………僕は………」
「もう、じれったいなぁ。行くよ!!!」
健斗は若干悩んでいたものの、アゲハに背中を押されて物理室に向かった。アゲハの半ば強制的な行動には少々驚きを覚える。
「俺たちも行こうか」
天音は大きな溜息をして歩き出した。そんな嫌そうにするなよ。俺が何かしたか?