勧誘★
「ありがとうな、天音」
「別に。それじゃあ私、帰るわね」
「ちょっと待って!美来ちゃんに話があるの。」
保健室を出ようとする天音をアゲハがなんとか呼び止めた。天音がこちらに振り返って冷たい視線を送ってくる。
「ひゃうっ!!!」
突然アゲハが俺の腰をつついてきた。くそっ、俺は腰がニガテなのに。変な声が出たじゃないか………恥ずかしなコノヤロー………
「急になんだよ?」
(後は頼んだよっ)
クスクス笑いながら小さい声でそう言った。天音を科学部に入れる。これは俺の仕事だ。しっかり任務遂行してやる。
「実は天音に頼みがあるんだ。」
「…頼み?」
「科学部に入ってもらえないか?」
「イヤ」
瞬殺。まさかこんなにも早く、しかも二言で断られるとは思わなかった………これでは粘りようがない。天音が保健室の戸を開けて出て行ってしまう。どうすればいい?なんとかして帰るのだけでも阻止しなければ………
「………飛鳥」
戸を閉めようとする天音の手が止まった。アゲハの声に反応したのか?
「美来ちゃん、飛鳥さんのこと…わかる?」
「あなたっ………飛鳥様のことを知ってるの!?」
天音の目が変わった。何かを疑うようで真剣な目。"飛鳥"という言葉を聞いて天音の様子が一変した。どういうことだ?
「飛鳥さんは今、科学部の部長をやってるよ?」
「うそっ!?そんなはずは………」
「今も物理室にいるはずだから会って聞いたらいいよ………あれ?」
「天音ならものすごい勢いで出ていったぞ」
アゲハが話し終わる前に、天音は目で追えないくらいの速さで保健室を飛び出していった。天音は飛鳥に何か恨みでもあるのだろうか?飛鳥の居場所を聞いた途端、すごい顔して走っていったからなあ。
「もう大丈夫よ、上波さん。でも今日は早く帰った方がいいわよ?」
「はいっ 先生、ありがとうございましたっ!」
「いぇいぇ、また遊びに来てね?」
「もちろんですっ!」
先生と遊ぶ約束をした(?)アゲハと俺はとりあえず物理室に戻ることにした。天音がどうしたのか、飛鳥がどうなったのか気になるし。
「カラス~ おんぶして?」
「ヤダ」
「もぅっ アゲハは病人さんなんだぞ?」
「アゲハが悪いんだろ?ほら、肩貸してやるから」
「うぅ、わかった。肩で我慢する」
しぶしぶ俺の肩に掴まってくる。急に甘えてきやがって、おかしなやつだなあ。まあそこがアゲハらしいと言えばアゲハらしくてかわいいんだけどな。………そういえば―――
「そういえばアゲハたちはもう俺の考えてることはわからないんだよな?」
「うんっ、もうストーリーが完全に変わってるからね。全然わかんないよ? もしかして何?バレたらまずいような恥ずかしいことでも考えてたの?」
「ち、違ぇよっ!バカじゃねえのか?」
「ははあ~っ 照れてる照れてる」
茶化すような目で俺を見るなっ。アゲハとこんなやりとりをしていると、いつの間にか物理室のすぐ近くまで来ていた。