天音☆
「いないな。」
「いないね。」
俺とアゲハは手分けして校内を隈なく探し回ったつもりだったが、天音の姿はどこにも見当たらなかった。やはりもう帰ってしまったのだろうか………
「ねえっ、カラス!あれ見てっ」
急にアゲハが声を張り上げて言った。アゲハの指差す方を目で追っていくと、校門のところに空色の髪をなびかせている人がいた。髪が空色の人はそんなにいない。天音だ。
「ちょっと、美来ちゃん帰ろうとしてるんじゃないっ?急いで止めなきゃ!!!」
「おいっ!危ね………」
アゲハが間髪入れずに窓から飛び出した。ここ、二階だぞ?結構危ないことだと思うのに何の躊躇いもなく飛び出せたのは、自分の身体じゃないからだろうか?だとしたら、なんか迷惑な話だな……… そんなことより俺も追いかけなきゃ。急ぎながらも慎重に階段を降りて外に出た。
「ふにゅ〜…」
「アゲハ!? どうした、大丈夫か!?」
「………うん。一階だと思って飛び出したんだけど、思ったより高くて足くじいちゃった」
アゲハは足を摩りながら地面に座り込んでいた。俺が近づくと、心配させまいと思ったのか笑顔を振りまいてみせた。が、その顔は少し引きつっている。かなり痛いようだ。………一階と二階を間違えたことについてはツッコまないでおいてやろう。
「あなたバカね?一階と二階を間違えて飛び降りるなんて」
…っ!? 誰だっ!!!せっかくアゲハを傷つけまいと思って、言うのを抑えた俺のセリフをこうも簡単に口にしてしまうやつはっ!
「天音…美来?」
「私のこと、知ってるの?」
天音は顔色一つ変えずにこちらを見ている。マジか………俺のイメージと全然違うじゃないか。もっと口数少なくて、優しい口調で話してくれる子だと思っていたのに。
「おもしろいわね、あなたたち。あなたたちのようなバカを見てると、落ち込んでた気持ちも少し和らぐわ」
まったく失礼なことを言ってくれる。アンタを探していたからこんなことになったというのに。…まあアゲハが悪いのに変わりはないが。
「カラス、早く美来ちゃんに話さないと」
「いや、それは後だ。天音、アゲハを保健室に連れていきたい。肩を貸してくれ」
「どうして私がそんなことしなくちゃいけないの?」
断られた。まあそんなことは予想していたから問題ない。ここから俺の巧みな話術が炸裂する。覚悟しろっ、天音!!!
「手伝ってくれたらおもしろい話聞かせて………」
「興味ない」
腕を組んでプイッと顔を背けられた。まさか!?救世主のこの俺が敗れるなんて……… しかたない、奥の手だ―――
「お願いしますっ手伝ってくださいっ手伝わないとコイツ怒りますよ?アゲハっていうんですけど、怒らせるとマジヤバいんですって。一ヶ月入院確実ですからっあと話したいぅぐうっ!!?」
「カラスったら、アゲハのこと心配してくれるんだ………とか思ってすごく嬉しかったのに何!?一ヶ月入院確実!!?もぉ意味わかんない!!!」
「おい…首………そんな強く締めたら息が………」
「………付き合ってらんないわ。」
まったく無駄な格闘をしている俺たちに呆れたのか、天音はその場を立ち去ろうとした。
「「逃げるなっ!!!」」
俺とアゲハの声が見事に揃った。ん?どうしたんだ?天音の身体がプルプル震えている。いや、意識が朦朧としているから俺の目がぶれているのかもしれない。
「あぁーっもぅ何よ!?わかった、わかったからもう静かにしてくれない!?」
ご立腹のようだ。土下座して、頭ペコペコ下げて、アゲハに首締め上げられて、なんとか天音を説得させることができたな。とりあえず救世主としての役割を果たせただろうか。どうにも頼りない救世主だ。二人とも嫌な顔をしていたが、俺と天音はアゲハを抱えて保健室へ向かった。