主人公★
昼過ぎの学校の廊下は強くも柔らかい日差しに照らされている。今日は入学式だったからか、生徒の人影もあまり見られない。その美来って子はまだ学校に残っているんだろうか?などと思いながらアゲハに尋ねた。
「ところで、さっき話に出てきた美来ってのは誰なんだ?」
「天音美来ちゃん………ほら、アゲハたちのクラスにいたでしょ?空色の長い髪の毛で、大人びた綺麗な顔の女の子」
そういえばいたな………物静かで、和服がとても似合いそうだった。日本美人という言葉がピッタリなあの女の子のことか。
「すっごく頭が良くて、科学部でもいろんなもの作っちゃうんだから!………本当なら美来ちゃんのほうから物理室に来てくれるはずだったんだけど―――」
「本当ならってどういうことだ?」
ちょっと興奮気味になっていたアゲハが急にうつむく。少し心配になってつい口をはさんでしまった。
「うん………さっき飛鳥さんがバグって言ってたでしょ?今いろんなケータイ小説でバグが発生してるの」
「そのバグが小説に影響を与えているのか」
「バグは浸食した小説のストーリーを乱す働きをするんだ。あまりにも乱されちゃうと、それは小説として成り立たなくなって消失していくの」
なるほど、そうならないために俺たちは天音を探さなければならないんだな。重たくなった空気を振り払うかのように、アゲハは俺の前に出て偉そうに胸を張ってみせた。
「アゲハたちは小説をバグから守るためにつくられたセキュリティプログラムなんだよ?それでね、小説に登場する人の身体を借りて活動してるの」
「そっか………でもどうして俺の身体を使わなかったんだ?そっちの方がいろいろやりやすいと思うんだが…」
「バグの実態がわかってないの。だから、可能性を秘めてる主人公のカラスにはそのまま残ってもらったってこと」
可能性を秘めた主人公………この世界を救う救世主………それがこの俺、カラスだ。なんだこれ!?俺めちゃめちゃかっこいいじゃないか!小さい頃からゲームが好きで、何度こういう世界に憧れてきたことか………はぅあっっ!!!ヤバい、嬉しい嬉しすぎる!!!
「??? 大丈夫?カラス、震えてるよ?」
「ああ………俺、今すっげぇ興奮してるんだ。こんなの今まで感じたことなかった」
「楽しそうだねっっ ………よかったあ―――」
胸を押さえて安堵のため息をはく。アゲハは何に安心しているのだろう?
「これでカラスがビビったりしたらどうしよっかなあって思ってたの。でもそんな心配無駄だったみたい(バシッ)」
「痛っってぇーーーっ」
そんなに強く背中を叩くなっ と、言ってやりたかったが、アゲハの満面の笑みを見たら何も言えなくなってしまった。それだけ嬉しかったんだろう。二人に期待されている…頑張らなくては!気合いを入れると、俺の足取りは自然と早くなっていた。
「おっしゃ、アゲハ。さっさと天音を見つけて科学部に入ってもらおうぜ!!!」