のべるきゅあ☆
「カラスくん、君に話しておきたいことがあります。今日、君が感じた不可解な出来事にも深く関わることなんですけど。」
あ…鼻血出てきた。さっきまで笑っていた先輩の顔が急に真剣になった。不可解な出来事って俺の思ったことがバレていたことか?もしそうだとしたら、保健室に行かなくて済むかもしれない………鼻血は止まらないけど。
「聞かせてください。」
「カラスくん、タメ口で構いませんよ?そんなに歳も離れていないんですから。あと、僕のことは飛鳥って呼んでください。」
「う~ん そうですか?…それで、話したいことってのは?」
「…………………」
しばらくの沈黙の後、飛鳥は携帯を開いて、俺に見せてきた。これは―――ケータイ小説?
「ケータイ小説って知っていますか?」
「ああ、一度くらいなら読んだことある。」
本とかを読むのはあまり好きじゃない。だから、友達に教えてもらったときに少し見た、というだけだが。飛鳥は携帯を閉じて、窓の外を見ながら再び口を開いた。
「では、自分の住む世界がケータイ小説に描かれたものだという考えを持ったことは?」
俺は首を大きく横に振った。
「ないが………それがどうかしたのか?」
「信じられないとは思いますが、今僕たちのいるこの世界は、ケータイ小説"未空科学部"に描かれた世界なんです。そして、カラスくんはこの物語の主人公」
「アゲハたちは小説の外から来たんだよ?」
思わず少し笑ってしまった。こんなことを言うためにアゲハは俺をここに連れて来たのか?こんなことならさっさと帰ってゲームをやればよかった。
「信じてはもらえないでしょうけど、信じてもらわなければ都合が悪いのです。」
「無茶なことを言うな。それに、俺は15年間この世界でちゃんと生きてきた。誕生から今までの間をずっと描いた小説なんてあるはずがない!」
「それはカラスくんに植えつけられた記憶でしかないんですよ。僕たちはこの"未空科学部"のストーリーや設定を知っている。だから、カラスくんが僕たちを見たときどう思うのかくらいは簡単にわかりましたし、プロフィールだってすべて知っているんです。」
それでアゲハも飛鳥も俺の思ったことをわかったような素振りができた………ということか。たしかにそれならつじつまが合うのかもしれない。二人の目はずっと真剣だった。信じたくはないが、正直この世界が小説でないと断言することもできない。じゃあ本当に………
「飛鳥さん………美来ちゃん、来るの遅くないですか?」
「そうですね………既にバグの影響を受け始めているのでしょう。」
今度は一体何の話だ?俺はまだちゃんと整理しきれていないというのに。
「まだカラスくんに納得してもらえていないようですが、仕方ありませんね。アゲハちゃん、カラスくんと一緒に美来ちゃんを探してきてもらえますか?探している間に美来ちゃんが来るといけないので、僕はここで待機しています。」
「わかった。美来ちゃん探しながらカラスに納得させちゃうね」
「ええ、お願いします。」
「行くよっ、カラス!」
アゲハは俺の背中を押しながら廊下に出た。物理室での一連の会話を聞いていると、二人の言っていることを信じるのが一番まともな考え方のように思えてくる。もしこれが嘘だったらアゲハとの縁を切ってやる。