お着替え★
「それじゃ、ボクはそろそろ学校戻るよ。別にみんなの練習見る必要もないからね」
「それ、どういうことなんですか?」
「ボクたち強いから。むしろキミたちがボクたちの情報を集めた方がいいんじゃない?」
「大丈夫。俺たち、調査もちゃんとしてるから。覚悟しとけよ?俺ら絶対勝ってやるから」
「へへっ そっか!お節介だったね。にゃうにゃう」
ひかりちゃんは俺たちに背を向けて手を振り、学校へと帰っていった。
『絶対勝つ』と言ったものの、本当に大丈夫だろうか。ひかりちゃんの運動神経は半端ないことを身を持って………身を持ち上げられて知った。他の先生の能力も高いって話だから、かなり辛い戦いになるのは間違いない。ここにいるアゲハ、天音、健斗も運動神経はいい。だがひかりちゃんに勝るものではないだろう。
つまり、能力では俺たちの方が劣っているわけだ。………だがーーー
「カラス、何にやにやしてるの?」
「俺そんなににやけてたか!?」
「ええ、気持ち悪いほどに」
「そうか………いや、飛鳥の必勝法ってのが気になってさ」
そう。俺たちには飛鳥がいる。飛鳥が必勝法を考えてくるって言ったんだ。ドラゴンキングにだって絶対に勝てる!
「まあそうだよね~。先生たちあれだけ強いのに必ず勝てるって言ってるんだもんね」
「うん、僕も気になるな、姉さんを負かせる作戦。試合が楽しみになっちゃうよ」
「それより唐守、その服早く着替えてくれないかしら?臭って仕方ないわ」
「んあっ そうだった!」
急いで公園のトイレに駆け込む。今日は体育の授業があったから助かった。これから練習もするんだし、ジャージはちょうどよかったかもしれないな。
「………………なあ」
(ササッ)
トイレの中の俺に送られる視線。振り向いて声をかけると、覗き魔はスッと影に隠れた。だが、誰が覗いてるのかはすぐにわかった。
「アゲハ、そんなところで何やってんだ?」
「(ビクッ)な………なんでわかったの?」
アゲハは隠れたまま答えた。うーん、だって
「中を覗いてるアゲハの姿が鏡に映ってたし、それにうまく隠れたつもりだったかもしれないけどほら、そこ窓じゃん。アゲハのその特徴的な髪型が窓に影になって映し出されてるから」
「ち、違うからねっ!別にカラスの着替えが見たかったわけじゃなくてーーー」
「俺の着替えなんて見て、どういうつもりだ?」
「違うって言ってるじゃん!」
「………興味あるのか?」
「まあないって言ったら嘘になる………じゃなくて、これっ!」
そう言ってアゲハは俺の手を持ち上げ、ビニール袋を渡してきた。まずい………せっかく持ってきてくれたのに覗きだと疑うなんて。
グッ………
「何身構えてるの?」
「え、殺らないのか?」
「そんなことするわけないでしょ?試合も控えてるのに怪我されちゃ困るって言われたもん」
言われてなきゃ殺られてたのかな。
「それよりカラス、アゲハに言うことがあるでしょ?」
「ああ、そうだな」
着替えている俺のために男子トイレにビニール袋を持ってきてくれたアゲハに今言うべきことは………
「健斗に持ってきてもらったら疑われることなかったのにな!」
ピシュッ(鼻ピン)
あ、今言うべきは『ありがとう』だった。
「鼻なら………折れても大丈夫だよね?」
「ご、ごめ………へぁっ………ハクショイっ!!」
「ぷっ、鼻むずむずした?」
「はっ………へっ………へんぷっ!」
「変なの~無理に堪えようとするからだよ。」
「あ~ちくしょう!止まれぃックション!!」
「それじゃあカラス、アゲハは二人のところに戻るから。早く着替えてくるんだよ?」
そう言うと、アゲハは小さく手を降って男子トイレを出ていった。
どうやらくしゃみのおかげで鼻をへし折られるのは免れたようだ。よかった………くしゃみよ、ありがとう。
「それにしても………」
べたべたになった学生服を脱ぎ、体育のジャージに着替えながらさっきのアゲハの行動について考えた。
どうしてアゲハが袋を持ってきたのだろう?普通に考えたら、健斗に任せると思うんだが。………もしかしてアゲハのやつ、二人にいじめられたんじゃ………
『ねえ上波さん』
『なに、美来ちゃん?』
『はいこれ、ビニール袋』
『??』
『唐守の服、すごく汚れてるからこれがないと困るでしょ?持っていってあげて』
『いや、でもカラス今着替えてるんだよ?ケンケンに任せた方がいいと思うんだけど』
『僕が持ってってもつまらない。上波さんが行った方が面白いと思うよ』
『そっか。それじゃあ行ってくるねっ!』
アイツ、きっと自分の意思で来たな。俺の着替えに興味があるってのも満更じゃないのか………もともと変わったやつだと思ってたが道を踏み外したな、アゲハ。