ドラゴンキング☆
「『何やってんの?』ってこのコが学校のボール勝手に持ってくから追っかけてきたのさ。健斗こそ何してるのよ?」
「球技大会に向けて練習をしよ………」
「上波さん!それは姉さんには言っちゃダメだよ………」
とっさに健斗がアゲハの口を押さえた。普段見られない焦った健斗ってのは新鮮だなあ。でもどうしてそんなに動揺するほどお姉さんに知られたくないんだろうか。
『ボクも一緒に練習参加する!』とか言い出すのが怖いのだろうか?それとも練習しているところを見られたくないとか?
「そりゃ聞かれたくないよね。敵となるチームのエースに練習風景を見られちゃう可能性が出てくるんだから。」
「「「エース!?」」」
「うん。ボク、雪村ひかりは未空学園"Dragon King"のエースやってるんだ」
な、なんか名前かっけーっ!竜神!?竜神ですか!?クラスごとにチーム分けされてるから、てっきり"グループF"とかいう名前が付けられてるもんだと思ってた。好きにチーム名決めれるんだ。
じゃあ俺も名前考えとこうっと。えーと………"Infinity"とか、"Victory"なんてどうだろう。"Knight of Kingdom"なんてのもいいかも。
「雪村さんは何クラスのチームなの?」
俺が自分の世界に浸っていると、天音がひかりちゃんに気になっていたことを尋ねてくれた。あの運動神経だ。どのチームにいるのか分かれば少しは対策を立てられるだろう。これは是非聞いておきたい。
「ボクはね、教師チームだよ」
「まーた先生先生って嘘言って。さっきからそればっかり―――」
(ドスッ)
「―――言ってすいませんでしたああぁぁぁっ」
がんばれっ………ひかりちゃんと地球の間でぺったんこになった俺の左足………
でもでも信じられないだろっ?見た目は子ども、頭脳は変態な先生なんて聞いたことねえもん。アゲハと天音も驚いた顔してるし、俺がこれだけ疑うのも無理ないと思う。
「はい、これボクの免許証。教師である証明はできないけど、これでちびっこの扱いするのはやめてもらえるでしょ」
俺、アゲハ、天音がひかりちゃんの免許証に目をやる。どれどれ、何歳なんだ?
「………24歳」
「ちょっと~ボクの年齢見ないでよー」
「『見ないでよー』って、他に何見たらいいんだよ!?」
「口答えするコにはおしおきだよ」
「何するつもりだ!ちょっ、こっち来んなよ!」
「冗談だよ冗談!その慌てっぷり、かわゆいなあ。からかいがいがあるよっ」
「姉弟揃って………」
これはもう遺伝子レベルで雪村姉弟は俺を食おうとしているとしか考えられない。
「それにしても二人って顔も性格もすっごく似てるよね。アゲハも妹いるけど全然似てないし」
「よく似てるって言われるんだけどさ、そんなに僕と姉さん似てるかな?正直こんな変態と一緒にされるの嫌なんだけど」
「姉に向かってなんてこと言うのさ!あんたの方が変態でしょ!?」
「僕の方が絶対ましだって!だって姉さんは超変態だもん」
「ボクが超変態だって?笑わせてくれるなあ。だったら健斗は変態estだっ」
「何だって!?」
「何さ!?」
「あ~面倒臭い………」
面倒臭い。天音の言うとおりだ。まったくこの二人、子どもの喧嘩かってんだ。
でもお互い自分のことよく分かってるじゃないか。………自分が変態だって。
「これじゃあ埒が明かないや。ねえ健斗、アレで決着つけよう?」
「いいよ。今日こそ僕が勝ってみせる!」
「「「………………」」」
強い風が吹き、砂が舞う公園の真ん中で背を向け合う健斗とひかりちゃん。二人の顔は真剣そのものだが、この姉弟がやることだ。一体何をするつもりなのだろうか。想像するだけでなぜか俺の方が身震いしてしまう。
「10数えながら歩を進めていく。10数えたところで振り返って先に」
「わかってるって。昔から何度もやってるんだから」
どうやらハリウッド映画とかでやってる決闘(?)みたいなことをやるらしい。拳銃らしきものは持ってる様子はない。しかしどこからともなく物を取り出してしまう人たちだ。どんな戦いをしてもおかしくはない。
「「みんな、10数えてもらえる?」」
雪村姉弟から声がかかった。みんな不安なのか、俺と同じようにいろいろ考え込んでしまっていたようで、反応に遅れてしまった。
「ん?ああ、わかった」
「それじゃあ数えるよっ」
「「「1………」」」
お互いに一歩前に歩み出し、二人の背中が離れる。
「「「2、3、………7、8………」」」
あと二歩………
「「「9………」」」
ごくっと唾が喉を通る音が鮮明に聞こえてくる。あと一歩。あと一歩で何かが起こる!
「「「10!!」」」
「「はああぁぁぁっっ!!」」
二人は同時にざっ、と強く踏み込み身体をひねった。さあ、何を出すんだ!?
「「くらえぇぇぇっっ!!」」
腕を大きく振って投げだされたのは………なんだ?なんかひょろひょろしたものが見えるけど………まさか、麺!?
淡く黄色い麺の塊は相手めがけてまっすぐ飛んでいく。なるほど、あれをぶつけた方の勝ちか。おかしいことに変わりはないが、思ったよりも危険じゃなくてホッとする。
(バチャッ)
安心しきっていたからか?二人が懐からスープの入ったラーメンの器を取り出したのに、一切危機感を覚えなかったのは。
俺が甘かった。もっと注意していればこんなことにはなっていなかったはずだ。
「くっ、また負けた………」
「甘いね、健斗。ボクに勝ちたかったら麺を1000本くらい増やしてきなよ!」
どうやらこの対決は、相手が投げつけてきた麺をどれだけこぼさずに器でキャッチできるかというものだったらしい。ひかりちゃんの方はスープを数滴こぼしただけで、麺は完璧に器の中に収まっていた。
一方健斗はというと………
「説也、スープ全部かけちゃってごめんね」
「なんで俺だけスープ塗れなんだよっ!」
麺をすべてキャッチするかわりに、スープは俺が全身で浴びていた。
「健斗………オマエわざとやっただろ。」
「うん!」
「ちょっとずるいよ健斗。ボクもかけたかったあ」
「ふふん。この件に関しては僕の勝ちだね」
「あ~っ 悔し―――っ!!」
「二度とこんなことやるんじゃねええぇぇぇぇぇっ!!」