姉弟★
「「「じゃーんけーんぽんっ!」」」
俺たちは球技大会の練習をするため、学校の隣にある公園に来ていた。
しかし、ここはどこにでもあるような大きくも小さくもない、普通の公園。ボールなんて置いてあるはずもなく、学校に戻ってボールを取ってくることになった。
俺は『全員で行く必要はないから、じゃんけんで負けた人が取りに行こう』と提案してみたが、見事に一回目で負けたわけで、悲しいわけで、提案しなきゃよかったと思うわけで………
「それじゃあカラス、よろしく!」
「さっさと戻ってくるのよ!」
「頼んだよ!制限時間は5分。ゆっくりしてたら………」
健斗が豆腐を持った手を前に突き出し、俺の目の前で静かに潰してみせた。ツッコみたいところはあるがここは堪えよう。キリがないだろうからな。
とりあえず、のんびりしていると俺はあの豆腐のように意図も簡単に粉砕されることが分かったから、急いでボールを取ってくることにしよう。
『あー ケンケン、豆腐もったいないよ』
『大丈夫だよ。ほら、ちゃんとボウルで拾ってあるから。今日の夕食で使うんだ』
『雪村くんって、いろんな意味ですごいわよね』
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「バスケットボールとサッカーボールはっと………ん、あった」
運動場内にある体育倉庫。今は部活もやっているので倉庫の扉には鍵がかかっておらず、簡単に入ってボールを探すことができた。
倉庫の隣には体育や部活の顧問の先生用の個室があるのだが、今は誰もいないようだ。………仕方ないな。
「少しの間ボールお借りしまーす!」
誰もいない部屋に向かってそう言って、運動場へと出た。いつもなら職員室にでも行って、ボールを借りたいことを伝えてから持っていくところだが、今の俺にそんな余裕はない。今は時間との勝負。少しでも気を緩めたりしてしまったが最後、俺は豆腐になる。
「やべっ、急がねえと………」
校舎に取り付けられている時計の針は2時14分を指している。公園を出たのは2時10分くらいだったはずだから、のんびり歩いていたら確実にアウトだ。
「ちょっとキミ?」
「………!!」
「それ、この学校のボールよね」
ダッ!!
「ちょっ、待ちなさい!」
待ってられるか!健斗(たち?)に豆腐にされるくらいなら先生に怒られた方がましだ。それにあとでちゃんと理由を説明すれば、先生なら理解してくれるはず。
とりあえず時間内に公園に着けばいいんだ。それからなら職員室にでもどこにでも行ってやる。
あと少し………あと少しでゴール。だというのに、なかなか距離が縮まらない。何度空気を蹴っても前に進む気配がない。………あ、そうか。空気を蹴ってるからダメなんだ。俺もバカなやつだな。走るときは地面を蹴らないと………って、え?
「ふふっ。キミ、じたばたしてかっわい~」
「なっ!?」
気付くと襟を掴まれて、俺の身体は宙に浮いていた。足には結構自身あったのに、こうも簡単に追いつかれるなんて。
ぱっ、と襟を放され解放された俺は、恐る恐るその剛腕鉄脚をもつ先生を横目で見てみた。するとそこにいたのは先生とは思えないような小柄な女の子だった。声や口調からして女性であることは予測できたが、かわいい声とは裏腹にたくましい身体をしているとばかり思っていた。こんな小さな身体のどこに男一人持ち上げるほどの力があるのだろう。
なんとなく誰かに似ているような気もするけど、まあいいか。………てか
「なんだ、先生じゃなかったのかあ。」
「人は見た目だけで判断しちゃいけないよって教わらなかった?こう見えてもボク、未空学園で体育教師やってるんだから」
「君は冗談が上手なんだね。」
「いや、本当なんだよ」
「お兄ちゃんは忙しいからもう行くけど、一つだけ注意。」
「………聞いてる?」
「もう知らない人を急に持ち上げたりしたらダメだよ。」
「そろそろ黙ってくれないかなあ。あんまりボクを小学生扱いすると………」
少女(?)がトマトを持った手を前に突き出し、俺の目の前で静かに潰してみせた。うわ………潰れたトマトの赤い肉片と液体がボウルの中にぼたぼたとこぼれ落ちていく。これって………
「あ――――――っ!!」
「そんなに大声で叫ぶことないでしょ?それに心配しないで。潰したトマトはちゃんと今日の夕食で使うから」
「カラスーっ!どうかしたの?」
俺の叫び声を聞いてアゲハたちが公園の入り口にやってきた。んなことどうでもいい。それよりこの人………
「姉さん、こんなところで何やってるの?」
やっぱりそうなんですね。この変態っぷり、めちゃめちゃ類似してましたから。
俺の思った通り健斗とこの少女(?)、姉弟だ。