必勝法★
「練習の予定についてなんですけど、明日9時に僕の家に集まってもらえますか?」
いろいろ考えていると、飛鳥が練習の予定について聞いてきた。相手の実力があそこまで大きいとあまりのんびりしてはいられないから、飛鳥も時間を有効に使いたいのだろう。
「やるなら今日からの方がいいんじゃないの?」
アゲハが頬に手を当てて、不思議そうに尋ねた。確かにできる限り早く練習を始めた方が俺たちの力も伸びる。明日から、なんて悠長なことは言ってられない。
「それでは今日はみなさんだけで練習してもらえますか?僕は考えたいことがありますので。」
「勝つ為の作戦ですか?」
「ちょっと違います。僕が考えたいのは………」
「「「考えたいのは?」」」
みんなが口を揃えて言う。飛鳥は俺たちの目を順番に見て、小さな笑みを浮かべた。
「必勝法です。」
「ぷっ……ふははっ」
「ちょっと!?飛鳥様を笑うなんて、飛鳥様が許しても私は許しません!」
「わ わりぃ、つい」
「つい、とはなんですか!?さあ、歯を食いしばりなさい!」
別に悪気があっていったわけじゃないんだが。やばっ、天音の拳が飛んでくる。
「美来ちゃん、落ち着いてください。今怪我でもされたら困ります。」
天音の一撃をしっかり受けた直後、飛鳥がそう言って天音を止めてくれた。
「そのセリフ、もっと早く言ってくれよ………」
そしたら俺は今こんなにボロボロにはなっていなかっただろう。てか飛鳥も口だけじゃなくて手を出して止めてくれたらいいのに。明らかに手の届く距離だったよな?
「ミライチャンオチツイテクダサイイマケガデモサレタラコマリマス」
「オマエは黙ってろ」
………健斗が飛鳥のセリフを三倍速で言った。早くってそういう意味じゃないことくらいわかるだろ?バカだろ。健斗オマエバカだろ。はぁ、笑うのも面倒臭い溜息しか出ない。
「そ…そうですね………今日のところは飛鳥様に免じて見逃してあげるわ。でも、球技大会が終わったら覚悟なさい!」
俺の寿命はあと一週間か………まだやり残したことたくさんあるからやっておかなきゃな。えっと、とりあえずまだやりかけのゲームをクリアして、それからそれから………
「今日はこれで解散でもいいですか?僕も今は時間がほしいものですから。」
「うんっ ありがとう、飛鳥さん。アゲハたちはアゲハたちでできることをしておくね」
「あぁ、飛鳥様。寂しいです………」
「大袈裟だな。明日すぐ会えるんだから寂しいことないだろ?」
「唐守は何も分かってない。私の飛鳥様に対する熱く蕩け切ったこの想い」
いや、別にそんなどろどろしたものなんか分かりたくない。
鞄を抱えて物理室の戸を開ける飛鳥。戸を閉めようとしたところで
「机に置いてある紙、見ておいてください。」
と言い残して先に帰った。