さんばか!
「ほえ~」
オレンジ色に染まる自動販売機、
ごく普通のラインナップの中に目立つ黒い缶。
黒いのに光って見えて私は立ち止まった。
「どうしたんだ穂乃花」
「まぁたぽんやりして~、そんなんじゃ怖いおじさんにさらわれちゃうぞ~?」
「ちっ、ちがうよぉ。これこれ!」
一緒に帰っていた結衣ちゃんと明音ちゃんは、私の指さす自販機をみる。
左上から順々に見て行って、初めはなんだただ喉が渇いただけかと、視線を外したが、
二人にも光って見えたのか、すぐにその商品名が零れ落ちる。
「ナゾ缶?」
「何味かは飲んでからのお楽しみ?」
「ね?気になるよね~」
学生カバンからお財布を出そうとする私に、
明音ちゃんは「ごちになります!」なんて深くお辞儀する。
「おい、それで昼休みも奢ってもらっただろ、
穂乃花、あまりコイツを甘やかすなよ」
「えへへ~分かってるよぉ」
「穂乃花せんぱぁい、駄目すっか~?」
「いや~駄目かな~」
結衣ちゃんは、すり寄る明音ちゃんを引きはがしながら「だいたいこういうのは売れ残った飲み物を置いてることが多いんだよ、買うだけ損だ」と呆れたようにため息を吐いた。
「人気商品が混ざってるかもよ?」
「なんか凄そうだねぇ、例えば~?」
「コーヒーとメロンソーダとか?」
地獄かな?
「それするのはお前だけだ」
「あ、昨日のバレてたんだ」
「当たり前だろ、てかファミレスでブレンドジュースを作るのはやめろ、恥ずかしい」
「ははは、後ろのキッズが凄い顔してたね~」
「お陰で私達ユーチューバーだと勘違いされたよねぇ」
「と、いうわけで買ってみよー!」
「どういうわけだよ!」
明音ちゃんは素早い動きで硬貨を入れてボタンを押した。
直ぐにゴトンと音をたててナゾ缶が落ちてきた。
「真っ黒、盛られてたりね!」
「はよのめ、言っとくけど助けないからな」
「わたしも~、ちょっと怖いかも」
「詰まんないのぉ今の若者は、若いのだからもっと冒険したまへ」
「そう言っていつも自爆してるよね~明音ちゃん」
明音ちゃんは「美味しくてもあげないんだから」そう鼻で笑い、プルタブを上げた。
カシュッ!
缶から弾ける音と香りに、
明音ちゃんは「ややっこの臭い……青酸カリ⁉」なんて大げさに顔から缶を遠ざけて、
飲む前から苦虫を嚙み潰したような表情になる。
「独り占めするんだろ?ほーれイッキ、イッキ」
「結衣ちゃんダメだよ~、明音ちゃんもお腹壊しちゃうよ?アリさんにでもあげよぉ?」
「なんぼのもんじゃー!」
腰に手を当てて缶ごと顔を上げた。
「いや一口だけかよ!」
「で?明音ちゃん、何味か分かった?」
彼女はしばらく口の中に含んだまま動かず、ゆっくり喉に通した瞬間にやっと口を開けた。
「青春の味だ……」
「青春?」
「そう、穂乃花なら一発で分かるはずだよ!
好きだったし!」
「え~わたし~?」
渡された缶に唇を付ける、
その時に明音ちゃんの方から「キャッ間接キス」なんて聞こえて来たけれど、
無視して一口——
「確かに青春だねぇ」
「でしょー!」
「穂乃花まで?」
喉を通した瞬間、部活をしていた時の光景がありありと甦る。
部活帰りに先輩や後輩に挨拶しつつ、
へへっ、私は渇いた喉をよく潤していたっけ。
炭酸になるとは思わなかったから衝撃を受けたな~。
明音ちゃんも迷った挙句、よく同じの買って今みたいな顔をしてたなぁ。
「またテニスしたいね!」
「だね、勉強漬けだから、久しぶりに動きたい!」
「何味だったの?」
「あ、ごめん飲み干しちゃった」
「ホント好きだな~」
私と明音ちゃんが歩き出す中、結衣ちゃんは自販機に後ろ髪をひかれていた。
「だから何味だったんだよー!」
ゴトンと音を鳴らす自販機に私と明音ちゃんは笑った。
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