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バタフライエフェクトギルド〜異世界のギルド、書類が山積みだったので全部やっておきました〜  作者: くろかっぱ
二章

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第二十五話:森の家族

ルウが先に歩いた。

「ついてこい」


ポウがにこにこしながら隣を歩いた。

「ついてこーーい」


「黙れ」


「えーなんでー」


誰も何も言えなかった。



森の中を歩いた。

道はなかった。ルウが迷わず進む。獣道すら見えないところを、足元を確かめながら歩いていた。

木の根が張り出している。石が多い。傾斜がある。

ブロンが「歩きにくいな」と小声で言った。ゴルドが「黙って歩け」と言った。

リアだけが静かについていた。足音がしない。ルウが一度だけ振り返ってリアを見た。何も言わなかった。

ポウがリアの隣に来た。

「おねえさん、はやいね」


リアが少し目を細めた。

「そう?」


「うん。ルウよりはやくない?」


「黙れ」

ルウが言った。ポウがアハハと笑った。



開けた場所に出た。


木々の間に、小さな家があった。石と木で組まれていた。煙突から煙が上がっている。裏手に黒ずんだ土の盛り上がりがあった。土窯だった。


ルウが家の前で止まった。

「ここで待て」


全員が止まった。

ルウが扉を叩いた。


しばらくして、扉が開いた。

女性だった。三十代ほど、髪を後ろで束ねている。腹が少し大きかった。腰に鉈を下げていた。目が鋭かった。

こちらを見た。


「誰だ」


「ゲオルクさんの紹介で来ました。アンピーク組合の顧問を務めています、ケンジと申します。本職はギルドの受付です」


女性がしばらくこちらを見た。

「……一人だけ入れ」



中は思ったより広かった。

土間に作業台がある。棚に道具が並んでいる。奥に炉がある。


男が一人、作業台の前に立っていた。四十代ほど、がっしりした体格だった。腕に古い傷がある。こちらを見たが何も言わなかった。


女性が向かいに座った。

「ティエだ。あれはソルだ。奥のはムウ」


「ケンジです。よろしくお願いします」


奥の椅子に、老婆が座っていた。目を閉じている。寝ているのか、聞いているのか、わからなかった。


「用件を言え」

ティエが言った。


「炭の取引を増やしたいと思っています。生産量と提供量を、今より増やせないかと」


「手を抜いて作っているつもりはないぞ」

ティエの目が鋭くなった。


「存じています。だから話しに来ました。設備を増やすための費用はアンピークで持ちます」


ティエがしばらく黙った。

「……なぜ組合がそこまでする」


「街の需要が上がっています。これから先、もっと上がります」


「なぜ」


「炭の使い道が広がるからです。屋台や食堂の調理に使えます。火が安定するので料理の質が上がる。冬の暖にも使える。冒険者の野営にも最適です。煙が少ないので夜間でも安全に火が使える」


「それだけか」


「トイレの灰が肥料になります。畑に使えます。消臭にも使える。それと」


続けた。


「炭を焼く時に出る液があります。土窯だと染み出て捨てているものです」


ソルが少し動いた。

「……あれか」


「売れます」


ソルがティエを見た。ティエがソルを見た。


「防虫にも土壌改良にも使えます。今は厄介なものとして捨てているかもしれませんが、欲しがる人間は必ずいます」


「……捨てていた」

ソルが低く言った。


「鉄釜なら回収できます」



「生産量を増やすには設備がいる」

ティエが言った。


「費用を持つと言ったが、街全体が動けばの話だろう」


「そうです。だから動いています」

ティエが少し止まった。


「鉄釜を使った作り方があります。今の土窯でも良い炭は作れています。ただ、温度管理が難しいので品質にばらつきが出やすい」

続けた。

「鉄釜なら温度の管理がしやすい。品質が安定します。生産量も今の二倍以上にできます。鍛冶屋のゲオルクさんに作ってもらえるはずです。家族で回せる規模で十分だと思っています」


部屋が静かになった。

ティエが低い声で言った。

「その知識はどこから来た」


「故郷で見たことがあります」


「故郷はどこだ」


「遠いところです。もう戻れない場所です」


「……なぜ教える。奪えばいい」


「奪っても作れません。作り方を知っている人間が必要です」


「それがお前か」


「私には木を見る目がありません。この知識を最大限に活かせるのはあなた方家族だけです。この森で暮らし続けてきた理由がそこにあるのだと思っています」


ソルが動いた。

作業台から離れて、こちらの向かいに座った。


それだけだった。でもそれで十分だった。



「もう一つ話があります」

続けた。

「街が不穏です。隣国ランバルトの動きが活発になっています。王都からの視察も近い」

ソルの目が変わった。


ティエが「……森もざわついている」と言った。


「最近、魔獣の動きが変わった。奥から押し出されるように出てくる」


「ランバルトの影響だと思います。街が備えを作っている理由もそこにあります。炭の備蓄もその一つです」


部屋がしばらく静かだった。


炉の火が、小さく鳴った。


ソルが低く言った。

「……街は本気か」


「本気です」



「一組合の顧問が」

ティエが言った。

「なぜそこまで街のために動く」


少し止まった。

「ギルドの職員として、できることをしていただけです」


間があった。


ティエが吹き出した。

ソルが少し目を丸くした。

その時、奥から声がした。


「ジンという子を知らないか」

目を閉じたまま、ムウが言った。


「知っています。最近ギルドに入りました」


ムウがゆっくり目を開いた。

「あれのババアが、最近やたら楽しそうに話す」


ケンジが少し首を傾げた。


「“字を覚え始めた”だの、“仕事を覚えた”だの。飯の時にずっと自慢しとる」

老婆が鼻を鳴らした。

「うるさいったらありゃしない」


ティエがケンジを見た。

「……あの子の職場か」


ティエがまだ笑っていた。ソルが小さく息を吐いた。



その時、奥から足音がした。

扉が開いた。


老人だった。

背が高くはなかった。白髪で、皺が深い。腰が少し曲がっている。武器を持っていなかった。


ただ、入ってきた瞬間、空気が変わった。


老人がこちらを見た。

「ゲオルクの紹介か」


「はい」


「街から来たか」


「はい」

老人がしばらく黙った。


「ケンジ、と言ったな」


「はい」


それからティエに向いた。

「追い返すな」


ティエが少し目を細めた。


老人が続けた。

「客人だ」


部屋が静かだった。


老人がこちらを見た。


「ジャウだ。よく来た」



外では、声がしていた。


「よしこい!!」

ブロンの声だった。


「うん!」

ポウの声だった。


どすん、という音がした。

しばらく何も聞こえなかった。


トールが「ブロンさん!?」と言った。ゴルドが「……やると思った」と言った。リアがポウを見た。


ポウがにこにこしていた。

アハハ、と笑った。


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