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バタフライエフェクトギルド〜異世界のギルド、書類が山積みだったので全部やっておきました〜  作者: くろかっぱ
一章

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15/28

第十四話:許可と始まり

翌朝、アンばあさんと執務室に向かった。


「アンさんも話があるんでしたよね」


「そうだよ、ガドさんに直接言いたいことがあってねえ」


扉をノックする。


「なんだ」


扉を開けた。ガドが書類から顔を上げた。アンばあさんを見て、わずかに目が動いた。


「アンさんも来たのか」


「私も話があってねえ」


アンばあさんが椅子に座った。ガドが少し間を置いてから、こちらに顎をしゃくった。


「話せ」


帳面を開いた。

「三つあります。一つ目、アンさんの道具屋を中心にした商品開発と商人組合の設立。二つ目、冒険者と街の住人向けの預かり金制度。三つ目、ギルドの人員補充です」


ガドが少し黙った。


「順番に聞く。組合から言え」


「アンさんの道具屋、バッハの工房、布屋、食材屋が連携して商品を作り、仕入れを共同でやる仕組みです。名前はアンピーク。アンさんが中心になります」


「儲かるか」


「儲かります。冒険者の需要が安定している限り」


ガドがアンばあさんを見た。

「アンさん、本当にやるのか」


「そのつもりだよ」アンばあさんが少し背筋を伸ばした。「一人じゃ無理だから、みんなに声をかけたいんだけどね。正式に動かすには町長の許可がいるんだろう?」


「商人組合なら必要だな」


「じゃあレモさんのとこに行けばいいかい」


「そうなる」


アンばあさんが頷いた。「わかった、後で行ってみるよ」


「二つ目を聞かせろ」


「ベルという制度です」

説明した。積み立て型と共済型の二種類。報酬を預ければ怪我で動けない時に引き出せる。冒険者だけでなく街の住人も商人も加入できる。アンピークの資金とも連携できる。

ガドが黙って聞いていた。


「資金はどうする」


「最初はギルドの収益から少額を出します。加入者が増えれば自走します。試算しました」


帳面を差し出した。ガドが受け取って、数字を見た。

「……保守的な数字か」


「そうです。楽観的な予測は使っていません」


ガドが帳面を閉じた。

「やれ」


「ありがとうございます」


アンばあさんが「ガドさん、ありがとうねえ」と言った。ガドが少し顔を逸らした。


「三つ目は人員の話だ」


「はい。今のギルドの人員では、アンピークとベルが動き出した時に手が回らなくなります」


「何人必要だ」


「三人です」


ガドが少し間を置いた。


「じゃあ三人まで登用していい。ただし採用はお前が判断しろ。俺は最終確認だけする」


「わかりました」


「以上か」


「以上です」


ガドがアンばあさんを見た。

「アンさん、町長への話は早めに行け。あの人、段取りを踏まないと動かない」


「知ってるよ」アンばあさんが笑った。「ガドさんが珍しく饒舌だよ、今日」


「そういうわけじゃない」


「そうかねえ」アンばあさんが少し表情を和らげた。「ケンジさん、ちゃんと根付いてるよ。私が保証する」


ガドが書類に視線を戻した。それが終わりの合図だった。

執務室を出た。廊下でアンばあさんが小さく笑った。

「ケンジさん、ガドさんがああいう顔するの、珍しいんだよ」


「どういう顔ですか」


「安心した顔」


私にはよくわからなかった。

アンばあさんを長屋まで送り、ギルドに戻る。町長への打診は後日でいいということになった。

レモさんというのはアンばあさんや街の人の呼び方で、正式にはレイモンドさんというらしい。



カウンターに戻ると、マーサが隣に来た。

「三人採用するって、本当かい」


「ガドさんに許可をもらいました」


「誰を考えてるんだい」


「まだ決まっていないです。心当たりがあれば教えてください」


マーサが少し間を置いた。


「……一人、心当たりがあるんだよねえ」


「どんな方ですか」


「商家の娘でね。頭がよくて、真面目で。でも次女だから家を継げなくて、自分の居場所を探してるみたいで」


「ここに合うと思いますか」


「うん」マーサが頷いた。「私が見てきた中で一番仕事ができる子だよ。声かけていいかい」


「お願いします」


マーサが少し嬉しそうな顔をして、自分の持ち場に戻っていった。

残り二人はまだわからない。でも焦ることはない。必要な時に、必要な人間が現れる。

今までそうだった。



商品が出来上がったのは、それから十日後だった。

最初に完成したのは旅人の一口だった。

アンばあさんと食材屋のマレクが三日かけて作った。小さな丸い塊。一口で収まる大きさ。蜂蜜の甘み、木の実の香ばしさ、穀物の腹持ちが全部入っている。


「試食してもらっていいですか」

トールが一つ口に入れた。しばらく黙っていた。


「……美味しいです」


「疲れている時にどうですか」


「食べやすいです。噛まなくていい」


「それが目的です」


ブロンが三つ一気に口に入れた。

「うまい!! で、腹持ちはどうだ」


「三個で一時間は持ちます。一日分なら十個程度です。重さは干し肉の半分以下です」


「革袋に入れれば二十日は持ちます。湿気には弱いので気をつけてください」


ブロンが目を丸くした。「遠征に最高じゃないか!!」


アンばあさんが嬉しそうな顔をした。


「名前はどうしますか」


「旅人の一口、なんてどうだい。旅人が一口食べればいい、ってことで」


「いい名前ですね」


アンばあさんが照れくさそうに笑った。


応急キットが完成したのは、その翌日だった。

小さな革袋に、清潔な布と強い酒の小瓶が入っている。使い方を書いた紙も一緒に入れた。

ゴルドが受け取って、中を確認した。

「これだけか」


「それだけで十分です」


「……簡単だな」


「シンプルな方がいいです。難しいことを書いても、怪我をした時には読む余裕がない」


ゴルドが紙を読んだ。それから小さく頷いた。

「次からはこうする」


「次がないのが一番いいですが」


ゴルドが少し口元を緩めた。


革製水筒はバッハが仕上げた。軽い。割れない。蓋がしっかり閉まる。陶器の三分の一以下の重さだった。

ブロンが受け取って、一度放り上げてから受け取った。


「なんだこれ、軽いな」


「軽いです」


ブロンが石畳の上に思いっきり叩きつけた。

ティナが悲鳴を上げた。

水筒は無傷だった。

「ガハハ!! いいな!! 盾の隙間に挟んでも割れない!!」


「乱暴に扱うのは想定内でしたが、そこまでは想定外でした」


「褒めてるんだぞ!!」


ブロンが水筒を高く掲げた。その様子を見ていた冒険者が何人か近づいてきた。


「どこで買えるんだ」


「アンピークだよ!!」

ブロンが元気よく答えた。


トールテックは布屋のエルミが仕上げた。薄い。革鎧の下に着ても動きに支障がなさそうだ。

トールに渡した。


「名前はトールテックにします」


「え、俺の名前ですか」


「最初に試してもらうので」


「いいんですか」


「別に深い意味はないです」


トールがなんとも言えない顔をした。


翌朝、走り込んできた。

「ケンジさん!! あれすごいです!! 全然違います!!」


「よかったです」


「アンばあさん天才じゃないですか!!」


「エルミさんの腕もです」


「全員天才じゃないですか!!」


アンばあさんがにこにこしていた。



旅人の一口とトールテック、革製水筒と応急キットが道具屋の棚に並んだのは、その週のうちだった。

最初に買ったのはカーラだった。

旅人の一口を手に取って、一口食べて、アンばあさんに「これ二十個」と言った。それだけだった。


翌日から、出発前に道具屋に寄る冒険者が増えた。

ゴルドが旅人の一口を袋に詰めながら、アンばあさんに言った。

「これ、もっと早くあればよかった」


「そうだよねえ」とアンばあさんが答えた。「でもケンジさんが来るまで思いつかなかったよ」


「そうか」ゴルドが袋を閉じた。「助かるよ」


ボードに新しく一行書き加えた。

《防寒と行動食と応急キットはアンピークで》


マーサが横から見ていた。

「さりげなく宣伝してるねえ」


「事実です」


マーサが苦笑した。



夜、帳面を開いた。

アンピーク、ベル、組合の許可が下りた。商品が棚に並んだ。人員補充の話も動き始めた。

残っているのは組合の町長許可と、あと二人の採用だ。


窓の外が暗かった。

東の森の話はまだ続いている。でも今夜はそれじゃない。


今日できることは、今日やった。

帳面を閉じた。

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