「王都の混乱とモンスターと。」
馬車が次の王都に近づいた頃、異変が起こった。
街道は荒れ果て、黒い煙が立ち上がっている。どうやら魔王軍のモンスターが暴れているらしい。
中也は、窓からその惨状を一瞥しただけで、興味を失ったように顔を背けた。
「ふむ、大衆的な騒乱など、私の主題とは無縁だ。どうせ、単純な破壊衝動に駆られた、凡庸な存在であろう。」
しかし、ソフィアとハルは、即座に行動した。
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!ハルくん、行くよ!」ソフィアは剣を抜き、ハルも覚悟を決めた顔で続いた。
二人は、暴れるモンスターの群れと、その中心にいる主犯らしき大きなモンスターに向かって突入した。王都の人々(ひとびと)を救うためだ。
中也は、馬車の陰に立ち尽くしていたが、ふと、直感が働いた。
(いや、待てよ。この破壊の奥に、何か深い主題があるやもしれぬ。)
中也は、群衆と戦闘を避け、別の方向へと足を向けた。すると、王都の門から少し離れた草木に隠れた場所で、一体のモンスターが動きを止めているのを目撃した。どう見ても、あれが騒動の主犯である。
中也は、そのモンスター(名はグロフ)に気づかれぬよう、近づいた。グロフは、その巨体に似合わず、悲哀に満ちた声で独り言ちていた。
「ああ……。魔王様は間違っている。人と戦っても、憎しみが深くなるばかり。こんなことしても、世界は変わらないのに……私は一体何を……。」
その時、中也の踏みしめた小枝の音で、グロフは中也に気づいた。
「何者だ!」グロフは即座に戦闘モードに入り、中也に向かって唸った。
中也は、戦闘の構えを取るグロフに、両手を上げて弁解した。
「待て待て!私は貴様と戦う気など毛頭ない。私は詩人だ。貴様の『悲哀に満ちた主題』を聞き、感激しておる!」
グロフは当惑したが、中也は構わず、革表紙の手帳を広げ、グロフの「魔王の平和への道筋への懐疑」を主題に物語を書き始めた。
しかし、今回は違った。中也が執筆を終えても、魔道具は生成されず、その代わりに、グロフの足元の空間が歪み、小さな、渦を巻いた黒い穴が静かに生成された。
「これは、何だ……?」中也は戸惑った。




