「勇者との再会と店主と。」
王都エウメネスのギルドで、ソフィアは薬草を換金した。
「ほら、中也さん、ハルくん。これだけあれば、しばらくは安泰ですよ。良かった、良かった。」
ソフィアは、分厚い金貨の袋を軽やかに振った。
「あんたらが機嫌良いのは結構なことだ。」
中也は言った。
(この人、前より格段に優しくなったよね……。)
ソフィアは心の中で微笑んだ。
その夜、ソフィアはハルを交えて、王都の安い酒場でささやかな歓迎パーティーを催した。
宿に戻ると、中也は昼間に書き上げたばかりの作品の『総括』(まとめたもの)を広げていた。
トントン、と部屋の扉を叩く音がした。ソフィアとハルである。
「中也さん、ちょっといいですか?せっかく今夜は気分が乗ってるみたいだし、例の手帳の文字、少し教えてくれませんか?やっぱり、気になっちゃって。」ソフィアは真剣な眼差しだ。
ハルも続いた。「オレも、中也さんのキラキラした文字が読みたい!」
中也は、またぞろ彼らが来たのか、という顔をしたものの、邪険にはしなかった。
「ふむ……。仕方あるまい。その異界の文字の理屈を少しは知っておかねば、私の主題が伝わらぬ。」
中也は、手帳を広げ、日本語の表音文字や、簡単な漢字の読み方の基礎を教え始めた。そして、前々回のオークの物語(『根拠に基づく休息の権利』)と、先程の物語(『闇を穿つ意志の火花』)を、言葉で噛み砕いて説明し始めた。
物語が終わる頃、ソフィアは静かに涙を流していた。ハルは、目を輝かせ、感動して泣き笑いしている。
「オークのズグは、種族の違いだけで、自分の苦しみを訴えられなかった……理不尽すぎる……」ソフィアは嗚咽を漏らした。
ハルは、自分の恐怖が『意志の火花』という物語になったことに感激していた。
中也は、純粋な感動を示す二人を見て、心底満足した。
「ふむ……。若い者の感性というものは、相変わらず純粋で結構なことだ。良い主題は、人の魂を震わせる。これこそ、文筆家の至上の喜び(よろこび)よ。」
旅路の再開と勇者組
翌朝、三人は朝食を済ませると、次の遠い王都を目指し、馬車に乗り込んだ。ソフィアが、以前の換金で馬車代を出したのだ。
新しい王都は、エウメネスよりも大きな城塞都市であった。
門前で馬車を降りた中也たちに、派手な鎧を纏った若者の集団(勇者組らしい)が、鼻で笑いながら近づいてきた。
「おいおい、見ろよ。女に子供ときたか。そこの時代遅れみたいな格好のオッサンが護衛か?ハハッ、薬草集めが関の山だろう。」
リーダー格の若者が、中也を指差して言う。
中也は、若者の無遠慮な物言いに、顔を少し歪ませた。
「ふむ、今日日の若者は、礼儀を知らぬな。私が何者か、知らぬと見た。だが、貴様らの言い分にも慣れてきた。無用な争いは好まぬ。」
ソフィアが間に入る。
「いい加減にしてください。私たちは急いでいるんです。」
勇者組は嘲笑を上等に
「立ち去れ、立ち去れ!」
と騒ぎ立て、中也たちを邪魔し続けた。
意外な再会と日常
王都のギルドで仕事を探していたところ、中也の目がある人物を捉えた。それは、最初に宿を提供してくれた「旅籠・木の葉亭」の店主、グスタフであった。
「おや、もしや、個人経営の木の葉亭の主ではないかね?」
中也が声を(こえを)かける。
グスタフは驚き、
「お、おお、旦那!こんないい町で会うとはな!調子はどうだい?旦那は相変わらず、難しい文字を綴ってるかい?」
「ふむ、相変わらず、主題を求めて彷徨っておる。幸貴様の言う通り(とおり)だ。」
中也は、彼の言葉に合わせるように答えた。
グスタフは、ソフィアとハルを見て、感心したように言った。
「そりゃあ、賑やかになって、結構じゃあないか。旦那も仲間が増えて、良い旅じゃな。」
ハルは、グスタフに丁寧に挨拶した。
「こんにちは!中也さんのお友達ですか?」
その後の日常会話を終え、三人は薬草採集の仕事で稼いだお金を手に(てに)、王都で食料の買い物を済ませた。
ギルドでの簡単な(かんたんな)薬草取りも順調に終え、充分なお金を稼いだ後、彼らは、さらに遠くにある次の王都を目指し、大きな長距離馬車に揺られながら、再び旅を続けるのだった。




