「 。」
中也とソフィアは、更なる長旅の末、次なる王都、エウメネスへと到着した。
ここは先の宿場とは異なり、大きな文明の香りが漂うていた。
門番の一件で得た報償金は、二人の旅の費用としては潤沢であった。
「中也さん、せっかく働いて得たお金がこんなにあるんですから、少しは使ったらどうですか?旅の道具でも、食料でもいいですけど。」
中也は、ソフィアに言われるがまま、大量の食料と魔道具を買い込み、旅の費用の大半を費やした。
ソフィアはその間に討伐クエストへの挑戦を考えていた。
中也はソフィアに買ったものを渡しては、宿場に籠った。作品をはやくまとめたいからだ。
ソフィアは、中也を連れてギルドへと向かった。
「仕事をせずに宿に滞在しているわけにはいきません。私の使命は貴方の護衛です。ここで手頃な討伐クエストを受けましょう。」
ソフィアが選んだのは、
「古の森に出没する巨大なスライムの討伐」であった。
「このスライム、ただ大きいだけで動きが鈍いらしいです。楽に稼げるかもしれませんよ、中也さん。」
中也は、気乗りしない様子で大きく溜息をついた。
「ふむ……この陳腐なる展開!私は今、文学の主題を求めているのだぞ。この大衆の求める斯ような単純な獲物に何の思想的価値があろうか!」
虚無なる討伐
古の森の奥深く潜り、二人は目的のモンスターに遭遇した。
巨大な緑色のスライムは、中也の身長を遥かに超え、ぬるぬると動く体積の塊であった。その巨体が、微かに揺れる中、スライムは独りごとのように、ぼんやりと呟いた。
「はぁ……何で僕がこんなことしなきゃいけないんだ。めんどくせぇー。」
ソフィアは躊躇なく大剣を抜き放ち、中也に告げる。
「じゃあ、私がサクッと終わらせるわ。中也さんは安全な後ろで待機していてくださいね。」
ソフィアが躍動し、スライムを斬り裂くその間も、中也は手に持った万年筆を凝視していた。
(陳腐なる展開だ。巨大な敵はただ怠惰なことばかり。ここに極上の主題は無い。)
中也は、何も書けない。彼の脳裏に浮かぶのは、紙の白さばかりであった。
「わからん!わからんぞ!何の創作意欲も湧かぬではないか!この愚物に私の命を懸ける必然性が見出せん!この異界はかくも陳腐なる場所なのか!」
中也は、その場に崩れ落ちた。
ソフィアは、スライムの核を剣で突き刺し、討伐を終えた後、泥まみれの中也に気づいた。
「え、中也さん?どうしたんですか、急に座り込んで……何かまた作品でも思いついたんですか?…まさか、このクエストに飽きたとか言わないでくださいね?」
中也は、その問いに答えることなく、沈黙したままであった。いわば、落胆であった。
旅は、更に続く。




