「作品とグスタフと仲間と。」
中也は、その日の宿場、「旅籠・木の葉亭」の煤けた板間に、胡坐をかいていた。
彼は、つい今しがた完成させたばかりの異界小説の「総括°(そうかつ)」を、一葉の原稿に、愛用の万年筆で峻烈°(しゅんれつ)にまとめていた。
「…この異界の様々(さまざま)な悩みの物語は、我々(われわれ)、現実世界に生きる人間の論理と美学をもってのみ、成し得るであろう。小説とは、即ち、この世界に埋め込まれた欠陥への、厳しき審判なのだ。」
その鬼気迫る集中ぶりを、宿の主であるグスタフが、カウンターからじっと見ていた。
「へえ、旦那。随分と熱心に綴ってるね。何かえらく難しいもんだろう」
中也は、その問いかけに、顔を上げた。その目には、創作の炎が宿っている。
「大傑作さ!私は今、万感の思いでこれを書き上げたのだ。ああ、書けている、というこの充実感!これこそが、私がこの異界に召喚された唯一の理由だと、確信しているのだ!」
グスタフは興味をひかれ、身を乗り出し、原稿を覗き込もうとする。
「ほほぅ、どんな話だい。俺にも読ませておくれよ」
しかし、原稿に書かれているのは、彼ら異界住人には読解不能な、見慣れない文字、すなわち日本語であった。
「…むう、何語だ、こりゃ。まるで象形文字のようじゃねえか。すまねえが、さっぱりわからん。」
グスタフはがっかりしたような様子で作品を後にした。
中也後でグスタフに内容(内容)を教えようとした。
その時、ソフィアという名の、凛とした美貌の女性冒険者が、大きな剣を背に、店内を見回していた。
宿は客でごった返しており、彼女の座るべき空席は、中也が占有している大きな卓の、向かい側のみであった。
ソフィアは仕方なく中也の席に近づき、
「相席してもいいですか?」
と、短く尋ねた。
中也は快く頷く。
ソフィアが卓につくと、否応なしに中也が広げている異質な文字で埋め尽くされた原稿が目に入った。
(この文字、読めないけど、この人の真剣な顔つきからして、ただ事じゃない。何かすごい内容が書いてあるに違いない)
彼女の冒険者としての勘が、この「意味不明な書物」への強烈な興味を掻き立てた。彼女は、どうしてもこの作品の内容を読んでみたいと思っている。
ソフィアは、意を決したように中也に顔を向けた。
「あの、貴方が書いているその異国の文書、一体何ですか?読めないのに、すごく只者ではない雰囲気があります。」
中也は悪くないとばかりに、親しみげに腕を組んだ
「ほう、あんた、筋がいいな。これはな、この世界の歪みを正す、小説だ。だが、残念ながら、あんたの世界の言語じゃあない。」
ソフィアは真摯な目で見返した。
「だったら、私に手伝わせてください。貴方のその仕事。私は冒険者です。貴方が思索に耽る間、雑用は全て引き受ける。野営でも、モンスターに襲われそうになれば、叩き伏せる!その代わり、いつか…この文字の読み方とその内容を知る機会を私にください!」
中也は、その美貌に似合わない剛胆°(ごうたん)さと、純粋な知的好奇心に興味をそそられた。
「わかった、いいだろう。」
かくして、中也はソフィアを仲間にした。
中也は鷹揚°(おうよう)に笑い、残りの飯を平らげた。
•総括
全体のまとめ。全体を一つにまとめること。
• 峻烈
非常に厳しく、激しい様子。
•鷹揚に(おうように)
ゆったりと落ち着いていて、小さなことにこだわらない様子。
•剛担さ
度胸がすわっていること。大胆で、恐れや脅迫に動じないさま。




