作家は異世界で「平和をもたらす。」
最終回です。ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
「これだ!これこそが、私の求めていた究極の主題よ!」
中也は、「種族間の共存」という壮大なテーマに歓喜し、即座に執筆に取り掛った。その文字は、これまでのどれよりも激しく、強く、光を放った。
そして、玉座の横に、光を放つ大きな水晶が具現化した。それは、魔王軍と人間の指導者が一堂に会し、平和的な話し合いができる対話の魔道具であった。いわばモンスターが人間と言葉を話せるものだった。
魔王は、その魔道具の力を理解し、心から喜んだ。
「ああ、これは……!憎しみを一時的に止め、対話の場を強制的に作る力!これで……道筋が見えた!」
中也は、魔王に静かに語りかけた。
「今までで一番良い作品が書けたぞ。満足だ…。
魔王よ。ところで、貴様を討伐すれば、私は元の世界に帰れると王は申したのだ。それは、真か。」
魔王は首を横に振った。
「あー、召喚者かね?そんなことはないぞ。私を倒しても、あなたを帰す力はどこにもない。」
落胆した中也に、魔王の側近であるスケルトン(側近)が進み出た。
「旦那さん。魔王様を倒す必要はございません。私が、超高度転移魔法を使えば、旦那さんの元の世界の座標までお帰しすることは可能です。」
ソフィアとハルは、ついに中也が帰れる時が来たことを悟り、涙を堪えて中也を見つめた。
「中也さん、達者で……。貴方の主題が、世界を平和に導いてくれました。」
ソフィアが深々と頭を下げる。
「中也さん!お元気で!オレ、中也さんから教わった文字を、絶対忘れないよ!」
ハルも涙ながらに言った。
中也は、二人と魔王に、詩人らしく簡潔に別れの言葉を告げた。
「ふむ……。貴様らとの旅は、良き主題の連続であった。感謝するぞ。さらばだ。」
スケルトン(側近)が転移魔法を発動させると、中也は光に包まれ、異世界から消え去った。
中也が次に目を開けた場所は、見慣れた故郷の街角であった。しかし、家はボロボロに朽ちており、外の景色はすっかりと様変わりしていた。人々の服装も、見慣れないものばかりだ。
中也は、近くにいた人を捕まえて、問いただした。
「おい、あんた!今は一体、何年だ!」
「え?昭和六十年ですけど……どうかされましたか、おじさん。」
中也は、異界での旅の間に、現実の世界で数十年という時間が過ぎ去っていたことを知った。まるで、浦島太郎のように。
しかし、中也は落胆しなかった。
彼は、異界で得た『労働の不条理』、『根源的恐怖』、そして『世界の平和的共存』といった、誰も書き得なかった極上の主題を持っていた。
その後、中也は、異界での経験を基にした物語を次々と出版し、その深い思想性と独自の文体によって、時代を超えた大文豪として有名になるのだった。




