「召喚。」
みなさんこんにちは、そして初めまして。
初投稿です。
主人公は昭和初期の作家です。
それを強調したいので、わからない言葉があるかもしれないので、その言葉は「°」このマークで印をつけたので、「後書き」でご確認ください。
面倒かと思いますが、すみません。
異界の召喚は、実に呆気なく、そして、何処か新しい作品が作れるのではないかと思わせる匂いを伴うものであった。
志賀中也。三十七歳。作家であり、七回も文壇の優れた賞の候補に名を連ねながら、一度としてその栄誉を得ることの叶わず、生来の不遇人であった。
彼の書斎は、八畳ほどの和室ながら、部屋の中央には西洋風の大きな机が置かれ、その上には原稿用紙の束と、愛用の万年筆が転がっている。壁には、和装本°と、洋装の翻訳小説°が混在したガラス戸棚が並び、一種のハイカラな(モダンな)雰囲気を醸し出していた。
天井からは裸電球が殺風景に吊り下がり、その強き光は机上の一点のみを白く照らし出し、古びた畳と湿った紙の匂いが空気に澱むばかりであった。
中也は、担当編集者の鬼気迫る°形相に怯えていた。
「……早めに仕上げてくださいね。……では、私は少し外で『ゴールデンバット』°で一服してくる。」
編集者が外の縁側へ出て、窓越しに紙巻煙草をくゆらせている姿が窺える。
中也は、その姿をチラリと見ては、目の前の原稿用紙と格闘している最中であった。
万年筆のペン先が、稿紙°の紙面を掻き毟る。耳に障る音だけが響く。
「駄目だ、駄目だ……こんな作品では…。」
彼は時間という緊迫した呪いを受けながら、作品を書いていた。
重厚な鋳物のダルマストーブ°は、燃料が切れてゴウという不吉な唸り声とともに冷え始めていたので、中也は、冷え切った両手で木材を黒い鉄扉の中に滑り込ませた。寒い寒い雪の降る日、ストーブの局所的な熱で体を温めては作品を描き、書き上げた原稿用紙を苛立たしげに握りつぶしては捨て、書いては捨てを繰り返していた。
然るに、突然強いめまいが襲ってきた。
「な、なんだ!?……く、苦しいっ……。」
めまいはさらに強烈になり、中也は椅子から転げ落ちた。
目が覚めると、彼は石造りの荘厳な広間に立っていた。
目の前には、金色の冠を被った、あたかも「設定上」の王様然°とした肥満体の男がいた。
「さて、これは一体、如何なる筋書き°だね?」
彼は周囲を見渡した。周りには西洋の甲冑を着た者や、中世の修道士のようなローブを着た者、そして隣に居並ぶ見慣れない服を着た若者たちは、この状況を不思議と把握している様子を見せ、三、四人で興奮しているように見えた。
そして、若者たちに続いて私は水晶というものに触れなければならなくなった。
「私は『聖剣術・極』だ!」
「私は『無限治癒』の加護だって!」
どうやら、ここは不思議な世界らしい。聞いたことのない、見たことのないものばかりだ。
「ふむ。斯る仕組みで内奥の力が判明するのか。実に奇妙な装置である。頗る°興味深い。」
「『技能』はイメージをすれば使えます。例えば火魔法のスキルをお持ちならば、火をイメージしてそこから火を投げるイメージをすると火の玉を放つことができたりします。」
なぜか言葉は分かるが、若者たちや周りの人々の喋り方が少し変わっていることは判る。
水晶の前にいた担当者だろうか、その人は若者たちに『技能』という不思議な力の使い方を教えていた。
中也は、若者たちの興奮や熱狂を眺めつつ、自らの番を待った。
国王ライオネルは、傲慢不遜な笑みを浮かべ、中也を見下ろす。
「さあ、そこの『奇妙』な身なりの男よ!貴様の『技能』を披露せよ!我が国を魔王の脅威から救い出す、その偉大なる力を見せてみよ!
もちろん、魔王を倒せば元の世界へ帰そうではないか!」
中也は一礼し、水晶に手をかざした。すると、袖に隠していた愛用の重厚な万年筆が光り、同時に頭の中に手を入れたような感じがした。そして、中也はそれを取り出し、国王に見せた。
「恐れ入ります。私儀は只の作家であり、魔王討伐など出来ようはずもございません。何故ならば、我が『技能』は『紙』と『筆』。戦闘をするにも不向きです。」
広間は、忽ち静寂に閉ざされた。
やがて、国王は堪へ切れぬとばかりに、腹の底から響くやうな高笑いを上げた。
「紙、だと?筆、だと?…たわけ!そのような技能、いらん!役立たずだ!」
国王の罵声は、中也の琴線には響かなかった。
「然れば国王。これは尽くることなき紙の山を生み出す。紙と筆は、物語を作り、残す道具。何故、価値がないと断ずるのか。」
中也が両手をかざすと、白い粒子のようなものが集まり、分厚い上質の原稿用紙の束が出現した。
「無限の紙……か、だが、そんな紙で困ることはない。」
国王の顔は、侮蔑と憤怒に歪む。
「無能め!速やかにこの城から、いやこの国から追放せよ!
お前ら(側近など)何一つ与えるな!我が国に、お前に渡す慈悲など一片も存在せぬわ!」
若者たちは私を不思議な目で見ていた。
「あの姿何?着物?」
「なんか、言葉が全然わからない。日本語が聞こえているのに…。」
「なんか、怖いわぁ〜w。」
中也は、追放の命令が下されても、若者の言葉を受けても、泰然自若たるものであった。
「成る程。追放か。いかにもこの国王の短慮°を鑑みれば、筋の通った展開だ。古典的だが、興味深い。」
作品を書くのに苦労している作家の、異世界における物語は幕を開けたのであった。
追放された後、中也は城の衛兵に裏門から追い出された。
「ほら、さっさと出ていけ。国王の命令だ!」
中也は両腕を掴まれ、門の外に出されてしまった。
時は朝らしく、静かな草原で舗装された道を無為に歩く宗介は、背広の袖に入っている煙草『朝日』°の箱を取り出した。煙草は吸っても吸ってもなくならなかった。
「…摩訶不思議だ。」
彼は煙草を一つ取り出し、オイルライター°で火を点けた。
「ふむ、国境までいかほどの距離があるものかね。」
そして歩き続けて半日、部屋にいたので下駄を履いておらず、靴下を履いたまま歩き続け、ようやく彼は隣国へ続く街道の門に辿り着いた。
靴下は砂だらけであった。
宗介は、衛兵に声をかけた。
「恐れ入るが、私はあの国を追放された身でね。」
「お金はあるか?通行料を支払ってもらう。」
「金銭はない…。」
門番は、中也の異様な身なり(外套°姿)を不審な目で見、鼻で笑った。
「金が払えない者を隣国へ通す筋合いはない。立ち去れ!」
中也は自らの内ポケットに手を入れた。すると、僅かに残っていた小銭があったのに気づいた。
中也は小銭でなんとかなるかどうか賭けをし、衛兵に見せた。
「これで勘弁してくれないかね、金属ではあるが…。」
衛兵たちはわずかに残っていた小銭に目をやり、仕方なく通らせた。
しかし、通れたのは良いが、彼の身には極度の空腹が襲いかかろうとしていた。
・和装本
日本の製本様式で作られた本。
・洋装の翻訳小説
西洋の製本様式で作られた本。
•鬼気迫る
恐ろしいほどの真剣さ。
・ゴールデンバット
タバコの銘柄。
・稿紙
下書きの紙。
・ダルマストーブ
丸みのある胴体を持つ、主に石炭や木材を燃料とする鋳鉄製の暖房器具。
・王様然
王様のように。ような。
・如何なる筋書き
どういうことだ。
・頗る
すこぶる。
•短慮
思考が足りないこと。また、あさはかな考えのこと。
•朝日
タバコの銘柄。
•オイルライター
オイルを燃料にし、着火するライター。
•外套
コート。衣類。




