Big Wave ― 風を待つ僕ら ―
波の音が、胸の奥にまで響いていた。
朝の光が海を透かして、砂浜を黄金色に染めていく。
海斗はサーフボードを肩にかけ、水平線を見つめていた。
「今日、来ると思うんだ。Big Wave。」
隼人が笑う。「おまえ、毎日言ってんじゃん。」
だけど、今日は違う気がした。
潮の匂いも、風の向きも、すべてが変わり始めている。
浜辺で渚がスケッチブックを開いていた。
彼女の鉛筆の先が、空を描くように震える。
「ねえ、海斗。」
「ん?」
「あなたは、どうしてそんなに波を待てるの?」
海斗は少し考えて、笑った。
「たぶん、波の中に答えがある気がするから。」
潮風が二人の間をすり抜けていく。
渚は静かに笑って、ページに小さな字を書いた。
“風を待つ人”
⸻
そのとき、遠くで誰かが叫んだ。
「来たぞ!Big Waveだ!」
水平線の向こうから、巨大な波が光をまとって押し寄せてくる。
海斗は走り出した。
砂を蹴り、ボードを抱え、海に飛び込む。
風の音が変わる。
世界がゆっくりと回転していくように感じた。
波に乗った瞬間、心の中で何かがほどけた。
音楽が聞こえる。
誰かが見えないところでギターを鳴らしているみたいだった。
その音は、まるで――夏そのものだった。
⸻
夕暮れ。
海斗は浜辺に戻り、渚の隣に座った。
「乗れた?」
「……うん。たぶん、今のが俺の“波”だった。」
渚は微笑んで、スケッチブックを彼に見せた。
そこには、波の上を走る海斗の姿と、
空に溶けていく文字が描かれていた。
“We move with the tide.”
――潮とともに生きる。
⸻
【エピローグ】
秋風が吹くころ、渚は一人で海を訪れた。
波は穏やかで、空は透き通るように高かった。
ポケットの中に、小さなカセットテープ。
ラベルには、達筆な文字でこう書かれていた。
「BIG WAVE」
彼の声が、風と一緒に響いた気がした。
――「風を待つんじゃない。自分で起こすんだ。」
渚は微笑んで、海へとスケッチブックを広げた。
紙の上で、波が静かに揺れていた。
⸻
― END ―




