『森畏』〜眼花の鹿〜
『森畏』は森の守護精霊たる、異形の鹿です。
『森畏』の宿る森の近隣地方の伝承では、森の化身そのものとされるものもあります。
『森畏』は2つの形態を持ちます。
【通常形態】
通常形態の『森畏』は、美しい白鹿として振る舞います。体高は約3メートルで、この形態の目撃者はみな、『森畏』を“神々しい”と形容します。
この形態時、『森畏』は一切の攻撃性をみせません。こちらの攻撃的な行動には、例外無く逃避的行動をとります。
【異常形態】
『森畏』の守護圏内で一定規模を超えた森林の破壊は、『森畏』の異常形態化を招きます。
この形態となった『森畏』の体表には、直径数センチ程度の蕾のような突起物が形成され、その蕾から伸びた蔦が『森畏』の全身に広がっています。
この形態の『森畏』は、森林の破壊の実行者(以降、「対象者」とする)の前に出現します。このとき、その出現はその場全員にとっての視界外で行われ、その後『森畏』は対象者の視界内に入るよう移動します。
【異常性質】
対象者の視界内に入った『森畏』は、下記の異常な性質を発現します。
第一段階:視線の固定
蕾を視界内に入れた瞬間から、対象者は『森畏』から視線を切ることができなくなります。瞬きは可能ですが、その他一切の運動を制限されます。
第二段階:眼花開花
視線固定から数秒で、『森畏』体表の蕾が急速に成長し「開花」します。花弁が開くと、その内部から対象者の眼球に酷似した器官(以降、「眼花」とする)が露出します。
第三段階:視線交錯
対象者と眼花は互いに目を合わせる行動をとります。この行動は対象者の意思とは無関係に発生します。
第四段階:視界転移
眼花と対象者の視線が交錯した瞬間、対象者の視覚情報は眼花の視界へ強制的に転移します。
また、この現象と同時に対象者の眼球は消失します。
第五段階:永続的苦痛
対象者は眼球の消失に伴い、まるで眼球を強引に引き抜かれたような強烈な痛みに襲われます。この痛みは永続性を有し、緩和することはありません。
また、この痛みは先天的に痛覚を有しない者にも変わらず機能します。
対象者は眼球を失った自身を眼花の“視界”から眺め、『森畏』がその場を去ってもなお視界が元に戻ることはありません。
【雑記】
『森畏』に関する伝承の多くで、「森ヲ畏レヨ。森ハ見テイル」という警句と共に、森林との共存と感謝の重要性が説かれています。