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【URIEL 4 月人の双子】 ~ある日、大切な親友と離れ離れになった少年が身を投じたのはカラフルな電子海か、支配者を決める戦いか、永い過去の清算か……あるいはその全てか~  作者: N\34
霜月白蛇宮編「百鬼夜行」

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第37話「好奇心の先の混乱」

 2060年になってから4ヶ月が過ぎたが、空気はまだ乾燥している上に酷く寒い。


 暖房が稼働しているのにまだまだ寒い廊下を、木槿は白衣のポケットの中で手を温めながら歩いていく。


 廊下の奥にあったエレベーターに乗り込み、ブライツ本部の最上階へ上がっていった。


「……はぁ。」


 エレベーターのドアが開くと、先程とはまた雰囲気の違う廊下が彼の前に現れる。

 壁にいくつかの価値がありそうな絵画がかけられている廊下を、木槿がまっすぐと前を見つめて歩いていく。


 重そうな扉を開けた先に、5人のスーツを着た人間が並んで座っていた。


「よく来てくれた、木槿くん。」


「上層から緊急の呼び出しと言われて、行かないと困るのは俺ですからね。」


 中央に座っていた黄緑色の髪の男が少し笑ってから、咳払いをして表情を整えた。


「それで、何かあったんですか?」


「うむ……それがだね……。」


 男が指を部屋の中央に向けた瞬間、天井に埋め込まれていたホログラム装置が巨大な何かのロゴマークを表示した。


「B.1オーダーが再びA.S.O……宇宙人捜索組織を立ち上げようとしている。」


「本当ですか。」


 淡々と反応を返す木槿に困惑しながらも、男が頭を抱える。


「高速道路で起きた戦闘の痕跡を彼女に回収されたんだ。よりにもよって、死月鉱の破片をだよ。」


「……つまり、オーダーは俺達L.E.R.Iが拠点にしている、A.S.Oの拠点であった場所を使おうとしているわけですね。」


 男が再び笑い、ホログラム装置の電源を切った。


「そういうわけだ……使おうとしている場所に、先客がいることも知らずにね。」


「俺達に新たな拠点へ移れと言いたいわけですね。」


 換気扇が静かに回っている。


「……その通り、あの目つきになったオーダーを止められるのはリプロダクションか君くらいしかいないだろうからね。まぁ君は今の彼女に会うと面倒な事になるし、今回はリプロダクションも反対していないんだが……ロベリアの件といい、今回の件といい……災難だとは思うが、頼むよ。」


「了解、それで……移動先はどこに。」


 黄緑髪の男の隣にいた銀髪の男が、しわがれた声で呟いた。


「実はまだ決まっていない。」


「……。」


「今A.S.O施設に置いてある設備を全て移せて、かつ人目につかなく他の面々にもバレなさそうな場所は……中々見つからないんだよ。」


 黄緑髪の男の、もう一方の隣にいた赤紫色の髪の女がリップを塗り直している。


「ンー……ま!ただでさえ前使ってた場所からは最低限の設備しか移せてないのに、踏んだり蹴ったりなのよね!とりあえず仕方ないから、設備は全部一度私達が使えなくても回収してしまってね……あなた達には旅行にでも行ってもらおうと思ってるのよ?」


「旅行ですか?」


 黄緑髪の男がホログラム装置を指先で遠隔操作し、木槿の前に1枚の写真を映し出した。


「アスク・スーリエル、彼に地球のことをよく知ってもらう良い機会でもある。君達が今拠点を構えている龍妖彩の中でも、トップクラスの人気スポット『白蛇街(しらへびまち)』……ちょっとした息抜きのつもりで、しばらくの間ココでくつろいで来なよ。もちろん、月人の存在はまだ隠してもらうがね。」


「……分かりました。」



 ­­­――­­­――­­­――­­­――



「白蛇街ですか……遠いような、まだマシなような……。」


 少し後、オフィスで木槿と電話していた一葉は熱いコーヒーを啜っていた。


「大分マシだろ、数時間車を走らせるだけで着くんだからな。」


「……ちなみに、何日くらい白蛇街にいる事になりそうなんですか?」


「いい感じの場所が見つかるまで。」


 木槿が言い放った曖昧な回答に一葉がうなだれる。


「……白蛇街の観光スポット、たくさん調べておかないとですね。」


「そうだな。俺はこれから龍妖彩行きの飛行機に乗る、白蛇街で合流しよう。」


 電話が切れた後、一葉が咄嗟にウォーターサーバーに向かって駆け寄った。冷たい水を紙コップにいれ、勢いよく飲み干す様子をガーベラがじっと見つめていた。


「く、괜찮아(大丈夫)……?」


あっつ()ぅい!!!!舌が!!舌が焼きあがるかと!!!!……ガーベラさん、ソレ大丈夫って意味なんですか?」


(そう).コレは韓国って場所で使われてたハングルって言葉だヨ。他のスペイン語とかフランス語とかと違って文字が独特で、文献を見つけても解読しづらいんだよネン。」


 抱えていた本を自分のデスクに置きながら、ガーベラがため息をついた。


「あ、そうだガーベラさん。ココから私達撤退しなきゃいけないみたいですよ。」


「エーッ……あ、だから私達に獣粘彩(じゅうねんさい)への出張指令が来てたンダ。」


 ガーベラが手を合わせている横で、一葉が目を見開いた。


「『旧世界研究チーム』は白蛇街へこないんですか?」


「うン……獣粘彩で珍しい遺物が大量に発見されたらしいから、行くっきゃないのよネ。君達は白蛇街へ行くんダ?」


 一葉は自分達の行き先を伝えていなかった事を思い出し、自身の首に片手を回す。


「あ、そうなんです……アスクさんも一緒に。」


「へェ……!そういえば、彼のライバー活動って今どんな感じなノン?」


「木槿さんがよく調べもせず設備を買ったせいで、あんまり良い活動できてないみたいです……。」


「あらら……今度私が使ってるやつ教えてあげようかナ!お互いまた新しい拠点に来れたらネ。」


 本をデスクの中にしまい、スマホを見ながらガーベラが笑っていた。


「私からもお願いします……!それじゃあ、私は出発の準備をしてきますね。」


「うんうん!私も準備してくるヨ~!!」



 ­­­――­­­――­­­――­­­――



「「もうココから移動する!?!?」」


「はい……当然そんな反応にもなりますよね。」


 コリウスと一緒にいたアスクが、彼と共に体を仰け反らせた。


「くぅ……やっと設備の配置を覚えてきていたというのに……おのれオーダー!!!!」


「おのれオーダーっ!!」


「まぁまぁ……新しい拠点にできそうな場所もまだ見つかっていないので、しばらくの間観光地で楽しむついでに身を隠してくれとの事です。」


 アスクと楽しんでいたオセロを片付けながらコリウスが顎髭を撫でる。


「白蛇街だったか!?あまり大きい街ではなかったような……下手すれば1週間で観光場所を巡り切ってしまいそうだな!?!?」


「計画的に巡っていけば1か月は楽しめると思いますよ……多分。」


 会話を続ける2人の間にアスクが割って入った。


「そもそもって感じの話で悪いとは思うんだけど……観光って何?白蛇街って場所に行くの?」


「観光っていうのは、色んな人や自然が作り上げた綺麗な景色や物を楽しむ事……大きなお散歩って感じですかね!」


「白蛇街というのはこの龍妖彩の中でも有名な観光地でな!!よく円卓主(えんたくしゅ)なんかも来て……ハッ!?!?」


 コリウスが何かに気づいた直後、アスクは好奇心に目を輝かせながら彼を見つめ始めた。


「円卓主って何……!?」


「お、おぉ!!円卓主というのは種族ごとのリーダーみたいな物だな!!!!彩人には彩人のリーダーがいて、妖人や粘人に……竜人にも円卓主がいる!!!!」


「(上手い事まだアスク君が知らない言葉を使わずに説明した……!)」


 少し口を開けたまま、アスクが数度頷いた。


「そうなんだね……!」


 少し安心した様子のコリウスが、再び白蛇街のことを説明し始める。


「うむ!!白蛇街には()()()()()をもたらしてくれると言われている()()()()()()()()()()()』なんて物があってだな!!!!白蛇街の観光()()としてとても有名なのだ!!私も一度行ったことがあるがとても­­­――」


「こ、コリウスさん……!?」


「……お!?!?」


 煌めいた紫の瞳がコリウスに向いている。


「……1つずつ聞いていってもいい?」


「も、もちろんだ!!!!(しくじったぁぁぁぁっ!!!!)」


「(知らない言葉について説明する過程でまた別の単語が現れて、ソレの説明でもまた知らない単語を出さなきゃいけなくなって……あぁ……多分、白蛇街に着くまで私達は暇じゃなくなるんだろうな……いいなぁ……木槿さんだけ1人でゆったりと移動できるんだ……。)」


 死んだような目をする一葉へ、コリウスがこっそり手を合わせて謝った。



 ­­­――­­­――­­­――­­­――



「政府の人がこの旅館にまた滞在してくるって本当なの?」

「本当なんだよ……しかもわざわざ今いる円卓主の家族がいる部屋とは反対側の部屋に。」

「なにそれ!なんだか不思議ねぇ……何か起こるのかしら、アナタ脱税とかしてないわよね!?」

「してねぇやい!!」


 旅館のロビーで経営者の夫婦が立ち話をしている。


「アレじゃないか?近々やる『白蛇舞い』を見に来たんだろ。」

「じゃあこの旅館に2グループとも来たのは何故だと言うつもり?」

「そりゃ……俺達の旅館がすげぇからだろ!ははははっ!!」

「もう……あら?あなた!イバラキ様の娘様よ!?」


 小声で夫を突いた妻の目線の先には、ロビーへ歩いてきたとても背の高い女性がいた。


 彼女が桃色の髪をなびかせ、玄関へ向かっていく。


「おはようございます!……散歩へ行かれるのですか?」


 妻が柔らかい物腰で彼女へ話しかける横で、夫が甚平(じんべい)のシワをのばした。


「はい、外の空気を吸いに。」


「そうですか!お気をつけて、いってらっしゃいませ。」


 二重に置かれている自動ドアを女性が通り抜けて外へ出ていく。


「100、200、240……くらいか、やっぱり背の高い女の妖人ってのは八尺くれぇなんだ­­­――」

「やめな馬鹿!!不敬だよ!!!!」


 冷たい空気に息を白く染めてもらいながら、妖人の女性『八美(やつみ)』が下り道をゆっくりと歩いていく。




「私達以外の……政府の人が来る?」

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