第24話「流れ星が輝いていた。」
――月編 最終話――
――今の内に、できる限り覚えて。死月鉱と、彼らが教えてくれる全てを……。」
光の粒子が舞う中、アスクの視界の端でクリキンディーが彼に話しかけていた。
「それと、君は死月鉱を爆発させる事が……いや、正確には弾けるように素早くバラバラに変形させる事ができるよね。」
「そうだけど……あんなの歴代のスリエルなら誰でも出来るんじゃないの?自分に飛んでこないようにしながら、バラバラに飛ばすだけだよ。」
「ううん……歴代のスリエルは、どれだけ死月鉱を操る才能が無くても、必ず何か1つの『得意に行える操作』……まぁ、特技を持っているんだ。君の場合は弾けさせる動きが得意。今までの他のスリエルにそんな事はできなかったし、逆に君には難しい事をそれぞれの別のスリエルができた。」
「へぇ……。」
「……そして君には、君自身も気づけていない……もう1つの『他の天使には無い力』がある。」
光の粒子が限界を迎え、儚く消えていく。
少しだけ薄暗くなった湖の底で、クリキンディーはアスクの手を握った。
「……?」
「時がくればきっと、その力と……『皆』が助けてくれるよ、私が保証する。」
――――――――
燃え盛る火球の中で、意識を朦朧とさせたアスクはクリキンディーの言葉を思い出していた。
「……皆……?一体誰が……助けて……。」
死月鉱の球を掴み続けながら、ロイヤーが呆れたようにため息をつく。
「誰も助けられるはずがない……今のお前は1人ぼっちだ。」
アスクの視界が白く曇っていく。
ロイヤーの言う通りかもしれない。
だって今はロイヤーと『一対一』で戦っているのだから。
リプラもいなければ、チェッカとリメイムはロイヤーの味方である上……ミカさんもこの戦いで全てを決めるつもりのようだ。
クリキンディーや、彼女と繋がりのありそうな堕天使も来てくれる可能性は全く無いだろう。
味方なんて、どこにも――
「……おー……おい……おぉい!」
アスクの前に、誰かが立っている気がした。
「ようや……気づきやがっ……な!?呆れたぜ……あの包帯のガキ……えーっと確か……そう!クリキンディーと戦った時にゃ既に1回助けてやってたのに、まだ気づけてなかったか!!!!」
「(……インヘリット!?どうしてここに!!!!)」
微かに見える白い空間の中で、インヘリットが苛つきながら腕を組んでいた。
「死に際にな?てめぇの顔咄嗟に掴んだんだ……そんでくたばって……気づいたらココ!お前の中にいたってわけだ!!!!」
「(……僕の中!?)」
「そうテメェの魂の中だ!!超驚いたぜぇ?まさか太陽の双子のスリエル様にはこんな力があったなんてよ……ところでお前、俺が最後にお前に言った事……覚えてっか?」
「(え……何そんな食べなさすぎで腹下したみたいな顔してんだ?……だっけ。)」
不服そうな顔をしながら頭を掻いていたインヘリットが咳払いをする。
「聞こえてなかったのかよ……まぁいい、そんな事より!ここに……お前の近くでくたばったはずの俺がいるんだ……お前、今何ができると思う!?」
「(……まさか使えるの?)」
「そう!使えんだよ!!てめぇは……『死んだ天使の塵を取り込む事でソイツの力を使えるようになる』んだよ!!クリキンディーと戦った時な、お前は本来もう少しだけ早く捕まるはずだったんだ。その時にお前は無意識に俺の力を使って月鉱を避けてたから、クリキンディーの野郎だけはお前の、死月鉱を操る以外のもう一つの力に気づけてたわけだ。」
死月鉱を握っていないはずのアスクの手から、薄紫色の光が零れてくる。
「(アウレオラ……これがあれば炎を破れる!?)」
「へへ……『アウレオラ』は力を複製したり、ずらす事の出来る物だからな……ま、とりあえず……アイツの右頬ぶん殴ってやれ!『火加減が下手くそだ』ってな。」
「(……。)」
意識を朦朧とさせながら輝く手を見つめているアスクの肩を、背後にまわったインヘリットが思いっきり叩こうとした。
体をすり抜け、空振った勢いで転ぶインヘリットがアスクの手を掴もうとしながら怒鳴った。
「おいまさか、躊躇してんじゃねぇだろうな!?アイツに殺されかけてんだぞ!!!!」
「……ううん……してないよ……ただ……首を飛ばさないようにしなきゃって思ってただけ。」
死に向き合ったアスクの目が妖しく輝く。
「……おめぇ、そんな顔もできたのか。」
アスクが開いた手の中から、1つの光の粒が舞い上がった。
光は拡大し、中央に殴りを入れろと言わんばかりにへプタグラムの形になる。
同時に、ロイヤーの視界の右端にもう1つのへプタグラムが現れる。
「……?何だコレは――」
「ぶっ飛ばすだけじゃ物足りなさそうだな……そうだ、俺が話す内容は一瞬で全部お前に届くみたいだからな、せっかくだし……てめぇが聞きそびれた俺のお前に向けた貴い遺言の内容を教えて――」
「……ボコボコにしてやれ!!【アウレオラ】!!!!」
よろめきながら立ち上がったアスクが勢いよく体をひねり、月人が発揮できる力の全てを乗せた一撃がアウレオラの中央を貫いた。
「何゛……っ……!?」
ロイヤーが右頬を殴られ、火球の中から吹き飛ばされる。
訳も分からず宙を舞うロイヤーが次に目にしたのは……彼が吹き飛ぶ先で待ち構えるいくつものアウレオラだった。
「ロイヤー!輪に入るな!!ふんばれ!!!!」
リメイムが思わず彼に叫んだが、1歩遅かった。
「ぐぁ……ぁ!?!?」
空中でロイヤーを受け止めたアウレオラが、彼を地面に全力で殴り飛ばす。
クレーターの端に叩きつけられたロイヤーをアウレオラが取り囲んだ直後、月獣の暴走にも負けない程の地鳴りを無数のアウレオラ達が発生させ始めた。
地面が凄まじい勢いで削れ、アウレオラ達がロイヤーを地中深くへ埋め込んでいく。
「あ、あれって……形こそ違いますけどアウレオラ……ですよね?何故、アスクが使えているんですか……!?」
チェッカがレイズとアウレオラを交互に見ながら震えている。
「アレは……インヘリットがまたあの子達に悪ささせてるのかもね。」
「えぇ……?でも、インヘリットはもう死んでるはずじゃないですか!!」
「死の天使は名前の通り、死と……それに加えて罪や罰とも関わりが深い存在よ。アスクの近くで死んだインヘリットの力を扱えてもおかしくないとは思わない?」
「……なるほど……?っていうか、これって……。」
チェッカは納得しながらも、肩を落としながらクレーターの中央に目をやった。
走行装甲球を解除したアスクが華麗に着地を決めている。
「アスクの勝ち、じゃのう……ロイヤーが完封されてしまった。」
遠くにいるリメイムの言葉を聞いたアスクが両手を上げると、クレーターの端に空けられた穴からアウレオラが飛び出てきて、彼の手の中に吸い込まれていった。
「ぐ……【火治の剣】!!!!」
直後に穴の中から巨大な火柱と共にロイヤーが飛び出してくる。
「インヘリットォ!!貴様!!生きていたのか!!!!」
しばらくのあいだ彼は荒ぶる感情に身を任せながら火の粉を散らしていたが、前方に立っているアスクを見つけると、崩れるように地面へ膝をついた。
「……そう……か、そういう事なのか。お前が……ついていってくれるのか。」
心のどこかで安心しながら地面を見つめるロイヤーの目の前に、レイズがミテラフルーツを差し出す。
「素晴らしい戦いぶりだったわよ。でも、きっとすごい疲れたでしょう?」
「……はい、ありがとうございます……頂戴いたします。」
ミテラフルーツにかぶりつくロイヤーに微笑んでいたレイズの袖を、アスクがそっと引いた。
「……もう……行くの?」
「うん、早くリプラを迎えに行かなくちゃ。」
――――――――
クレーターから少し離れた場所で、レイズが死月鉱の塊を握りしめている。
「リプラを連れ戻しに行かせるとは言ったけれど……地球についたらしっかり木槿達の言う事は聞かないとダメよ?」
死月鉱の塊にレイズが話しかけると、その中からアスクが元気に返事をした。
「もちろん!堕天使を叩きのめすためにいくつか手段を考える時間も要るからね!!」
「ふふ……そうよね、彼女には一回くらいお仕置きしないと気が済まないわよね。」
どこか嬉しそうな様子のレイズの声を聞いたアスクは、首を傾げながら自身の体に死月鉱を巻きつけていた。
「なんか嬉しそうだね……?まぁいっか!あわよくば月を狙う悪い奴ら皆、なんとかしてきちゃうよ!……固定できたから、いつでも打っちゃって大丈夫だよ!」
「頼もしいわね……それじゃ、打つわよ。」
レイズが死月鉱の塊を少しだけ上に持ち上げた。
「あ、行ってきます!言い忘れてた。」
「……行ってらっしゃい……ねぇアスク、私にも言い忘れてた事があるの。」
「なぁに?」
「堕天使に……彼女にもし会ったら――」
「分かった!『刃に、迷いは絶対のせない』!!……合ってるよね?」
「うーん……まぁ、そうね……それもそうなんだけど。」
レイズが少し恥ずかしそうに目をそらす。
「……だけど?」
「なんでもないわ!よろしく伝えといてね!」
「よろしく……?わ、分かった!多分!!」
「ありがとう。」
レイズが深く息を吐くと、もう片方の手で握っていた大剣が黄金に光り始めた。
死月鉱の塊から手を放し、彼女は両手で大剣を大きく振りかぶる。
ゆっくりと落ち始める塊を見つめながら、レイズは大剣を振り飛ばした。
「【天使の梯子】。」
閃光と共にレイズの目の前から死月鉱の塊が消え、宇宙を紫色の光線が横切っていく。
「どうか、あの子達を助けてあげて……ホープ。」
レイズが大剣を月鉱の小さな欠片に戻していると、遠くから様子を見ていたロイヤーが、ふらついた足取りで彼女に近づいてきた。
「……さて、アスクを見送った所で……説明していただきたい事がたくさんあるのですが。」
「そうね……どこから説明しようかしら……?」
「初めから!いつから何をどこまで知っているのか全てを話していただかないと、あなたを補佐する身として困りま……す。」
突然ロイヤーが地面に倒れこんだかと思えば、地面に現れた黒い穴に吸い込まれていってしまった。
「あら……。」
「ロイヤー!?」
「地面に吸い込まれていきおった……燃え尽きてしまったのか!?」
大慌てでレイズのいる場所へ駆け始めたチェッカとリメイムを、小さな1人の月人が瞬時に追い越した。
「大分消耗してたようだからお部屋に送り返しておいただけ、休ませておけば回復するよ。」
「な……!?」
「……君……は……?」
隣に立ったクリキンディーの頭に手を置きながら、レイズが苦笑する。
「あはは……折角だし、まずはあなたの事を皆に紹介させてもらおうかしら。彼女は――
宇宙の中で死月鉱の流れ星が輝いていた。
――――――――
「そうだインヘリット……さっき言ってた、僕が聞きそびれたっていう……遺言はどんな内容だったの?」
「……聞きそびれてなかったようだぜ?既にソレを知ってる奴に同じ事何回も言うほど、俺は馬鹿じゃねぇ。」
「え、僕もう知ってるの?」
「ま、その調子で、お前は自分の心に従いながら……おめぇとリプラの邪魔する奴を全員ボコボコに叩きのめしときゃ良んだよ……リプラと離れ離れになった今のおめぇの目は野望や向上心……まぁ何かを目指す意志、希望や夢なんかに満ち溢れてるように俺にゃ見えるぜ。俺ぁ知ってる、そういう目に一度なれた奴は簡単には死なねぇ。根拠は……俺がそうだったからだな!!ガハハハハハッ!!!!」
「あははは……そうだね、リプラと会うまでは絶対に死ねないや。」
閑話?[ レイズの気持ち ]
宇宙を駆ける死月鉱の流れ星の中で、アスクが"独り言"を呟いている。
「そうだ、インヘリット。」
「んだよ……地球着くまで寝とけよ、ロイヤーと戦って疲れてんだろ。」
「これ話したら寝るよ……あのね、ミカさんが僕の事打ち出す前にね……堕天使に何か伝言しようとしてたみたいなんだよ。」
「あー……確かに俺もあの内容が気にならないワケじゃねぇが、どうせ『ボコボコのメタメタのギッタンギッタンにしてやれ!!』みたいな感じだったんじゃねぇか?」
「えー……っとね、あのね。」
「……なんだよ。」
「アレ話そうとしてた時のミカさんの魂、僕と話してる時のリプラみたいな感じだった。」
「……はぁ?」
「嬉しい……とは何か違うんだけど、喜んでた感じだったの!」
「あー……つまりどういう事だ?お前も意外と説明下手なのか?」
「それはインヘリットから移ったのかも。」
「やっぱりコイツ憎たらしい……。」
「えへへへ……えーとね、とりあえず僕が言いたいのは……ミカさんはもしかしたら堕天使の事が……って……なんか暑くない?」
「……確かにそうだな。」
「あと落ちてるって感じがしてきた。」
「……地球もう着くんじゃねぇか?」
「寝よ。」
「多分もう遅ぇぞ!?!?」
「でもさぁ……疲れが今になってどっと来たんだ……耐えられない……おやすみ。」
「あんなクソみたいな会話する前に寝ときゃよかったのによ……まぁ、着いたら木槿あたりが起こしてくれるか。」




