第18話「悪印象」(非戦闘パート)
「あ!そうだぁ言い忘れてた〜!この声は録音っていう奴でね?先に予め話しておいた内容を今あなた方に送っている感じで、基本的にそちらからの質問にすぐ答えることはできないんですぅ……ごめんね!」
うわずったようなロベリアの声を聞かされながら、レイズとアスクは終始無言でL.E.R.Iのマークが回っている画面の様子を見ていた。
「まぁ多分私への質問なんて今は特に無いかもねぇー……だってこの端末を組み立てたって事は地球について学びたいと思ってるってことだもんねぇ!」
「(早く画面か音声どっちかだけでもいいから、何か変わらないかな)」
「ゴホン、それじゃあ無駄話もほどほどに……始めよっか。君がこれから出会う、人間達の話をねっ。」
――――――――
「すっごい昔のこの世界はね、今ほど色鮮やかでもなかったんだぁ。数個ほどあるだけの『色』が、自身を目立たせようとする事もなく、ただ世界を回すためだけに平凡に暮らしてた。私達今の地球人にとっては聞いただけでも退屈な世界だったんだねぇ……でもね!?ある時『1人の人間』が現れて、全ての常識を塗り替えたの……彼の姿は正に今の私達と同じ『彩人』だったんだってぇ。そこから暫く時が経って、色々なんやかんやあって今の世界があるんだ!」
「彩人……?」
「多分今から説明してくれるのよ、気になる言葉を出して興味を持たせたのね。」
アスクとレイズが音声を聞き続けていると、画面の様子が切り替わって地球と月の映像が映し出された。
「それじゃあ『始まりの話』も大事だけど飛ばしちゃって……恐らく君達がまず興味を持ったであろう『彩人』という地球人について!まずは話すね!?楽しみだって人!!手上げて!?」
「……」
アスクが手を上げたくないと言わんばかりに手首を反対の手で抑えていると、レイズが彼の肩を叩いた。
「とりあえず上げておきなさい。もしあっちで何か聞かれた時、あなたは嘘がつけないんだから。」
「……はぁい。」
アスクが挙手するのを待っていたかのようなタイミングで再びロベリアの音声が流れ始める。
「いぇぇぇい!それじゃあ早速行ってみよう!!!!」
「ミカさん、僕この人の雰囲気き――」
「それも、思っちゃった以上口には出さないでおきなさい。(アスクに声だけでも相当嫌われている……ということは、このロベリアという人……善し悪しはさておき、ただ者ではないという事は確かね。)」
壁の液晶に映る地球の一部へ、先ほどまで地球全体を映していたカメラが限りなく近づいていく。
大気圏を抜け、雲の中を突き抜けた先に緑の山々やビル群が映り込む。
「大体あの四角い建物がバラバラに並んでいる場所に地球人は暮らしてるんだよねぇ。もうちょっと近づいて、地球人の1種『彩人』を見ていこう!!」
「1種……地球人にもいくつか種類があるんだ……ていうかミカさんこの人の説明、中々に分かりにく――」
アスクが余計な事を口走り終わる前にレイズが素早く彼の口を手で塞いだ。
「それもよ!地球にある言葉でね『口は災いの元』っていう物があるのよ……?」
「……そうなんだ、気をつける……。」
「よし、偉いわね。」
2人が静かに笑っていると、いつの間にか映像は1人の地球人を映し出していた。
水色の髪に黒い瞳の青年が、装飾の金のボタンがついた紺色のスーツを着て歩いている。
「わぁ、丁度いい場所にいる……ふふ……さて!これがこの地球に最も多く暮らしている『最も色鮮やかな地球人』の『彩人』だよ!私や木槿も彩人でね、見た目は月人と一番近い地球人になるかなぁ?月人と違うのは、彼らの強さはピンキリだって事!地球人の持つ髪や目の色は皆バラバラなんだけどね、これは私達が使える能力の強さを表してて……あっ!言い忘れてたぁははははっ!!地球人は全員ね、大小様々な物理法則から外れた『能力』を持ってるんだぁ!ほとんどの人の能力や身体能力は『無いのと一緒』くらい弱かったり、君達に絶対勝てない程度の物だったりするんだけどね!ははっ……!……話を戻そっか。彩人はそもそもの数が多いせいか色んな髪や目の色が出やすくてね。木槿みたいに黒と黒の才が完全に無い人や、逆に水色に赤なんかの超才能に恵まれている人は大体彩人に生まれてくるの。今地球にいる最強の地球人も彩人なんだぁ!」
「……木槿さん才能ないの?」
「能力の才能は、ってことじゃないかしら。あの人、結構強いって聞いてるのよ。」
「誰から?」
「木槿と仲が良かった人からよ。」
アスクがレイズと画面を交互に見ていると、突然画面に何も映らなくなってしまった。
アスクが首を傾げると、残念そうなロベリアの声が聞こえてきた。
「ありゃ、護衛に撃ち落とされたなぁ……気を取り直して、次は彩人と仲の良い『妖人』を見ていこうぅ!」
再び画面に地球と月が映り、カメラが地球へ近づいていく。
都市のビル群の中を通り抜け、カメラは桃色の髪と黄色い目をした背の高い少女の目の前へ降下してきたようだ。
少女の背は2.5mほどあるように見え、周りで歩いている人々よりも格段に目立っていた。
唐突に少女は拳を構え、カメラに突きを喰らわせようとする。
カメラは何か飛んでいる物に搭載されているのだろう、突きを躱したカメラを少女が顔を真っ赤にして睨みつけていた。
「写真欲し――なら写真集買いなさ――よこ――ド変――!!」
少女の声がノイズ混じりで微かに聞こえてくる中、ロベリアの笑いを堪えている声が聞こえてくる。
「くふふふ……妖人はね、彩人から派生して生まれたって言われてる地球人なんだよねぇ!他の地球人と比べて霊や魂的な物と関わりが深くてねぇ?使える能力もそういうのに関連した物になりやすいんだぁ。あと、見た目はこの人みたいに彩人に近い妖人の他に、頭に角っていう硬いトゲトゲが数本生えてたりする妖人もいるんだよぉ。」
「へー……あっ。」
「【舞唐……さ】!!!!」
カメラが少女の回し蹴りを避けられず、プラスチックが割れる音と共に画面が再びノイズに包まれた。
レイズがアスクの方へ近づき、彼へ耳打ちする。
「あちらへ音声が聞こえてる可能性も出てきたから、こっそり言うけれど……このロベリアって人、あなたの勘通り信用しちゃダメな地球人かもしれないわ。」
「やっぱりそうなの?」
「今の妖人やさっきの彩人といい、恐らく本人に許しをもらわず付きまとっている……そしてわざと発見させて、攻撃させているみたい。映像が消える直前に聞こえた何かが壊れる音……L.E.R.Iが普段使っている物をあえて壊させているのならその目的や動機があるはず。あれらが発見された上、壊されている事を木槿が知っているか分からないけれど、彼女は……ロベリアはL.E.R.Iの味方ではないのかもしれない。」
それを聞いたアスクが眉をひそめ、まだノイズが走り続けている画面を注意深く見ていた。
「……この人の映像見た後に、ほんとに地球に行っても大丈夫なのかな?」
「心配ではあるけれど、絶対に木槿の側にいれば問題ないはずよ。」
「……そっか。」
アスクが何か違和感を感じながらもそれの正体を理解できずにいると、いつの間にか画面は金属製の人形らしき物を映していた。
人形の関節の隙間から、緑色の粘性のある液体が人形を動かしている様子が見える。
先程の彩人や妖人がいた場所とは雰囲気がうってかわって、人形は緑に囲まれた森の道の中を歩いていた。
「あ!ごめんねびっくりしちゃったぁ?教えてもらわないとこれも地球人だなんて分かんないよねぇへへへへっ!これも地球人なんだよぉ『粘人』っていうんだぁ。今さっき紹介した彩人や妖人と違ってね、粘人は核以外の全身が液体でできてるんだぁ。能力の才は髪を体液の色、目を核の色に置き換えればはかれて、主に自分の体の性質に関わる能力が宿りやすいんだよねぇっ。ねばねばしてたり液体だったりするせいで、そのまま歩いてると体が汚れやすかったり事故を起こしやすいから、外出する時なんかはああいうしっかりした人形……名前はレリーフスーツだっけ?コレを纏って生活してるんだってさぁ。」
カメラが粘人の追跡を止め、道の奥へ歩いていく粘人の背中を映し続けていた。
「地球人って色んなのがいるんだねぇ……って思ったぁ?ふへへへ!まだまだ面白い地球人はいるから楽しみにしててねぇ!!」
今回はカメラが破壊されることはなかったが、画面は再び地球と月を映し出した。
一瞬で画面が二度三度切り替わり、カメラがベランダで黄昏ている地球人を映し出す。
地球人の背中には所々が破れている巨大な竜の翼がついており、頭についた山羊のソレのような形の角で風を感じながら、男は赤紫色の空を見つめていた。
「彼らは竜人、本当は文字の表記が違うだけの細かい種類に分けられるけれど、今回はそこそんな大事じゃないし省略しちゃうねぇ……竜人は――」
ロベリアが楽しそうな声で竜人についての説明を始めようとした瞬間、竜人の男が心底不快そうな顔でカメラに向かって紅い炎を投げつけ、画面はまたもやノイズに包まれてしまった。
「あ……まぁ気にせず紹介しちゃおっかぁ!竜人はさっきの粘人と比べるとまだ彩人なんかに近い見た目してるねぇ……でもさっきも見た通り、竜人は皆頭に角、背中に羽をもってるんだよ。人によっては『ドラゴン』や『彩龍』って呼ばれてる特別な姿に変身することもできたりするんだぁ。前は変身しなくても元の姿がもっと『ドラゴン』なんかに近い竜人も居たらしいんだけど、今は残念ながら人の姿に近い竜人しかいないんだってさ。一般的に炎から氷、稀に闇に関連する能力を持って生まれてくるんだけどね?この闇っていう物がもしかしたら……君達月人と関連があるかもしれないって言われてるんだぁ!なんかワクワクしちゃうね!えへへへへへへへ……ははっ。」
アスクが欠伸をしながらもロベリアの発言に聞き入っている。
「話が長すぎて寝そうだったけど……今……なんて?」
「闇……私達と関係の深いあの闇に、竜人も関係してくるの?」
2人がヘッドホンを少しだけ耳に押し当て始めた頃、3人の人影が建物の上からピリナスの館を見つめていた。
「2人共、楽しそうで何より……。」




