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第12話「"最高の結末"」

「なんだてめぇは……!どこから……どうやって……現れた……!!何者だ!!!!」


 砕けたアウレオラ(天使の輪)が頬を掠め、インヘリットが息を切らしながら歯を食いしばる。


 前線に立つ月人達の前に現れた巨大な黒煙の中で、雷の落ちるような音が響き続けていた。


「【地球神(ガイア)の怒り】!!」


「【滅光の導く道(収束するチェレンコフ)】。」


 男女2人の声が聞こえた直後、地面が強く波打って、それに打ち上げられた月人を煙の中から飛び出してきた何本もの青い光が撃ち抜いた。


 光に撃ち抜かれた場所から次々と月人達が塵になっていく。


()()()()……!?まさか――」


 インヘリットが目を見開いた瞬間に煙が完全に晴れ、1匹の大兎が彼を踏み台にして防壁へと突っ込む。

 大兎は角を防壁に勢いよく突き刺すと、悶えながらその体を強く輝かせ始めた。


「ギ……ギ……ギギッ……ギジジジジジジ!!」


「クソ――!!!!」



 ­­­――­­­――­­­――­­­――



 『月獣の暴走(ゾイカタイギーガ)』を迎え撃っている防壁の反対側の防壁の近く、レイズは何度も襲いかかってくる紫雷の塊を弾き続けている。

 塊は巨大な剣で弾かれるたびに、強い恨みを抱きながら急旋回してレイズに襲いかかる。


「……。」


 レイズは飛びかかってくる紫雷に動揺する様子も無く、都市の中を駆けながら堕天使を探していた。


 都市を光が眩しく照らし、響く轟音と共に包み込む。


「……!?」


「【██████(██████)】!」


 レイズの視界が妨げられた瞬間、紫の雷塊(らいかい)がこれまでとは比べ物にならない、正に雷のような速さでレイズの脇腹に切りかかった。


 数秒のうちに光は消えていき、一瞬の内に鎧を纏っていたレイズがゆっくりと振り返る。

 奥の方で煙が上がっているのを確認してから、レイズは目の前の雷塊に目をやった。


 雷塊は徐々に人影の形になり、気さくな様子でレイズに話しかける。


「お前みたいなビビりがリーダーだからかな……昔と比べてアホそうな月人が増えた気がするよ。君はどうせ()()()()()()し傷もすぐ治るくせに、何がそんなに怖いんだい?レイズ・ミカエル。」


 雷塊の中にある人影が足元から崩れるように消えていく。

 だが、人影は倒れることも苦しむこともなく、まるでまだそこに足があるかのように立っている。


「傷を負うことが、死ぬことが怖いのは……この手で守りたい、知りたいことが山ほどあるから。()()()()()()()がどうして生きているか分からないし、今日だけでも知りたい事がたくさんできたわ。全部自分で知りたいと思っているの……でも、今あなたの言葉を聞いて既に1つ分かったことがある。退屈そうね、あなたの今居る場所って。守りたい物も知りたい事も特に無いのよね?……だから、あなたは死ぬのが怖くないのでしょう。」


 レイズが剣を担ぎ、胸を張ってまっすぐと人影を睨む。

 人影の気さくな雰囲気は段々と消え、憎悪に満ちた声がレイズの周囲に響いた。


「黙れ。お前に、何もかも全部、奪われた、めちゃくちゃにされたんだ。()()はお前以外の全てを消して、潰して、引き裂いてやる。何も無い生き地獄で、死を願わせ続けてやる。絶望させ続けてやる。手の届くことが無い夢や景色を、今の内に追い続けてろ。」


 人影の頭の最後の一欠片が崩れて消えた瞬間、人影の纏っていた紫雷が弾けるようにして辺りに炸裂した。


「……。」


 鎧に流れ渡る紫雷も気にせず、レイズは遠くに見える巨大な蔦の塊を見つめていた。

 何者かがレイズの背後に現れ、地面を踏みしめる。


「あら……まだ私に言いたいことのある人がいたの­­­――」


 背後に気配を感じたレイズは振り返った直後、彼女を見て大剣と鎧を小さな宝石にまとめた。


 レイズの前に現れたクリキンディーは目のあたりに巻いていた包帯を取り、手に巻き付けている。


「いくつか想定外の事が起きてる……最悪の事態は避けたいんだ。お願い、手を貸して?」


 包帯を巻きつけた手を

 クリキンディーがレイズに差し出す。


「……なるほど、あなたは……。」



 ­­­――­­­――­­­――­­­――



 崩れた防壁の一部から次々と月獣達が都市に入りこんでいく。


「そんな……初めて堕天使が来てから作られて以降1回も破られなかった防壁が……こんなあっさりと……。」


 侵攻していく月獣達に向かって、唖然としていた月人の背後から突然1本の巨大な矢が撃ちこまれた。


「!?てめぇヘニャヘニャ弱虫のバリスタ撃ち!!今撃ってどうすんだよ!もう防壁は突破されたんだ……下手に撃ってこっちに向かってきたら死ぬだろ!?ピリナスもどうせもうすぐ壊される……湖だって……でも、俺達が生きてりゃなんとか­­­――」


 前回の月獣の暴走(ゾイカタイギーガ)で後衛の指揮をとっていた月人が泣きながら怒鳴ると、バリスタを反対側に動かしていた月人が強く怒鳴り返した。


「いい加減にしてください!!いつもみたいによく見て指揮してくださいよ!!あいつら……向かってる先はピリナスでも湖でもない!多分そこよりも、もっと消したい何かがあるんです……!それがレイズ様なのか何なのか、目も頭も悪い私には分かりませんけど……何かも分からないほど大きくて、大切な物を壊そうとしているのかもしれない!!」


「は……!?大切な物ってなんだよ!!!!……確かに、アイツらどこに向かってるんだ!?何を狙ってんだよ……!?」


 理解できない恐怖に頭を抱えていた指揮官の月人の脳裏に、前回の月獣の暴走(ゾイカタイギーガ)の光景がよぎる。


 変化前にも関わらず、颯爽と飛び出して月獣の暴走(ゾイカタイギーガ)最大の脅威であった月狼を全滅させていた2人の月人(天使)のことを思い出した指揮官の月人が、素早くバリスタに飛び乗った。


「俺らの暮らす場所や、生まれる場所なんかよりも、レイズ様よりも大切な奴……このクソみたいな光景をもう二度と見なくていいようにしてくれる奴らか!?アイツらが狙いなんだ!!!!」


 視界の端でチェッカとリメイムが走ってくるのを確認した指揮官の月人が、彼らの方を向いて叫ぶ。


「天使さん達!!俺らの治癒は最低限……いや後でいい!アイツらの狙いは『太陽の双子(アスクとリプラ)』なんだ­­­――」


「そんなこと僕達も分かってる!!!!」


「えっ。」


 チェッカは怒鳴った後に近くの建物に飛び乗り辺りを見渡した。


「インヘリットを見なかったか!?アイツ、至近距離で爆発喰らったのにリメイムの治癒も受けずにどこかに走っていっちゃったんだ!!」


「は!?まさか、ボロボロの状態で1人月獣の暴走(ゾイカタイギーガ)の後を追いかけていったんですか!?」


「そうじゃろうな……!爆発が起こる直前に、インヘリットとその周辺にいた月人達は何かと戦っていた様子じゃった。そこで儂らよりも早くこの月獣の暴走(ゾイカタイギーガ)の目的を悟ったのじゃろう!」


 月獣の暴走(ゾイカタイギーガ)の向かう先にある巨大な蔦の球を見つめながら、リメイムは眉間にしわを寄せる。


「(この違和感はなんじゃ……?この都市の中で、一体どれほどの思惑が蠢いている?月獣の暴走(ゾイカタイギーガ)のこの殺意は確かにアスク達の方へ向いている……堕天使の目的は2人の拉致ではなかったのか?いや、あの不可思議な翠の球(巨大な蔦の球)の中にはアスクとリプラ、ロイヤーと共に堕天使のものであろう別の気配が存在している。当初は拉致を狙っておったが、彼ら自身が強く抵抗したことにより諦めたのか?……いや、これよりも更に府に落ちる考え方があるか……この月獣の暴走(ゾイカタイギーガ)、堕天使とは違う別勢力の物なのか?)」


「……リメイム様、今この都市で何が起きているのですか?」


 月人の1人がバリスタを操りながらリメイムに尋ねた。


「……今の儂らには、想像もつかぬことかもしれん。これですら、何か更に大きな出来事の前座でしかないのかもしれぬ。」



 ­­­――­­­――­­­――­­­――



「……もう来たか……ちょっと余裕ないんだけど!はやくこっちに渡してくれないかな!?2人をさ!!」


 巨大な蔦球の中、堕天使は目の前で青く強く燃えている火球に向かって怒鳴っていた。

 何本もの蔦が火球を突き破らんとしたが、ことごとく燃え尽きていく。


 火球の中、アスクとリプラを背に乗せながらロイヤーは歯を食いしばり、炎を吹き出す手に意識を集中させていた。


「(無称呼(むしょうこ)での【ネメシスアイ(太陽の眼)】……咄嗟に出してしまった。まもなく意識が飛ぶ……!その前にコレ(ネメシスアイ)を奴にぶつけるなりして、全員で逃げなければ­­­!!)」


 尋常ではないほど息が上がってきており、ロイヤーの苦しそうな様子を心配していたリプラの片手から、突然アスクの手が抜ける。


「えっ……?」


 今のアスクには、全てが遅く見えていた。

 極限状態と言える状態となっていたその視界には蔦の球を突き破り、こちらへ突っ込んでくる大量の月獣達の怒り狂った魂が見えていた。


 リプラと結んでいた手を振りほどき、ロイヤーやリプラ、自分もまとめて覆えるほどの大盾を作り出した直後、ありえない勢いで自分達が吹き飛ばされていたことに気づいた。


 蔦の破片と火の粉、大狼に大兎、月兎や月狼、意識を失っているロイヤーが一瞬だけ視界に映っていく。


 吹き飛ばされる勢いに体を仰け反らせたアスクの目に、リプラを受け止めた堕天使が映った。


 爆風に抗いながらなんとかリプラを受け止めているようだった堕天使は、忌々しいとでも言いたげな顔で、アスクの()を見ている。


 堕天使に受け止められた際の反動によって顔が少し跳ね返ったリプラが目を開いた瞬間、悲鳴を上げながらこちらへ手を伸ばしている彼女が微かにアスクには見えた。


 泣き叫ぶリプラに向かって、アスクはまっすぐと左手を伸ばそうとする。

 だが、そこに腕はもう無かった。




 リプラの叫びに応える事もできず静かに目を閉じ、落ちていく。

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