熊に襲われた私を助けてくれたあなたに手編みの帽子を
(*´ー`*)挿絵があります。
あと、先に謝っておきます。ごめん!!
「やだなぁ」
葵はランドセルの左右の肩ひもをぎゅうっと握りしめて立ち止まった。
そして睨みつけるように『工事中 北東土建』と書かれた道路工事の看板を見つめる。
「……行くか」
ぐっと眉間に皺を寄せたまま、葵は歩道を進んだ。
*
「ヒーハー!」
「……こんにちは」
葵の帰り道で道路工事が始まったのは3日前から。
ヘルメット姿のおじさんたちは怖くない。でもひとりだけ怖い人がいる。
それがこのヒーハーさんだ。
ヘルメットはかぶらないし、冬なのに寒そうな格好をしている。
なのにお母さんたちは「いい人」だって言う。「靴は安全靴だから」って。
でも怖い。一応挨拶はするけどさ。
少しでも距離をとりたくて、道路よりも森の方に近い所を歩いていたら。
「クマァ!!」
急に目の前にツキノワグマが!
冬眠を忘れたアーバンベアだ!
「きゃあ!」
驚いた葵は、走って逃げようとした途端、転んでしまった。
恐怖で強張った手足で、熊から少しでも距離を取ろうとするが、葵のそれよりも熊の動きの方が早かった。
熊が柔らかそうな葵の頬に噛みつくべく襲いかかろうとしたその時!
「ヒーハー!」
勢いよく振り抜いたシャベルが、熊の頭を強打した!
「く、くまぁぁ〜!!」
ツキノワグマは涙を流しながら、森に逃げ帰っていった。
「ケガはないか?!嬢ちゃん!
「う、うん!だ、大丈夫、いたくないよ!」
「ヒーハー!」
涙を流しながらも葵は、ヘルメット姿の北東土建のおじさんたちに囲まれながら、ほうっと大きなため息を吐いた。
*
それから半月後。
仕事納めの12月30日。
今日も北東土建は、道路工事に従事している。
「このまま年越しになるからな!歩道に置き忘れするなよ!田中!」
「ヒーハー!」
中卒で北東土建に入った田中道夫(あだ名:ヒーハー)は、初めてもらったボーナスで正月に防寒具を買おうと浮かれた気持ちを隠すことなく、仕事に励んでいた。
日没前に竹箒で歩道の砂利を払っていると、熊に襲われて泣いていたあの女の子が近寄ってきた。
「これ、この間のお礼」
真っ赤な顔で紙袋を田中に押し付けると、そのまま走って帰って行った。
袋を開けると、中には不揃いな網目の帽子がひとつ入っていた。
《助けてくれてありがとう。
寒そうだからあげる 葵 》
田中は髪をなでつけて、そっと帽子をかぶった。
「あったけぇ……」
ーー30年後、北東土建の社長となった田中は、妻の葵と共に革命的な作業服を作り上げ、新しい土木作業員の姿を作り出したのだった。
挿絵の許可とインスピレーションを与えてくださったオムライスオオモリ様(https://mypage.syosetu.com/1455283/)に心からの感謝を。