☆猫の妄想☆
橄欖が腰掛けていた大樹に触れる。
ため息を吐いてガラクタになった橄欖に触れる。触ったことのない金属で覆われているようだ。
「帰りたい……けど、あれ?」
私の横にちょこんと腰掛けたマニが青ざめている。
「もしかしてもう一回入り口まで戻らないといけない?」
震えたその声はゆっくりと私の思考を支配した。
「トルン、迎えはどこに来る?」
「入り口前、ですね」
終わった。
重い腰を上げ、裏庭をうろちょろする。幾度となく遠征隊が来ていたのか、武器と鎧が散乱している。
中の遺体は抜かれていて、その後どうなったのかは想像できなかった。
その人たちが見つけたのか、『鵺』の手が置いてあった。とても丁寧に。
それを拾って、その近くにある鞘も拾っておく。鞘がなかったあの刀をこれで仕舞えるといいのだが。
「じゃあ帰ろうか」
また洋館の中に入り、そう言えば、と2階のあかなかった扉にいつの間にかルーヴァが拾っていた鍵をさす。
思った通り空いてくれた。だが中には何も落ちておらず、ただ血の匂いがこびり付いていた。
無駄足になったことを悲しく思いながらそのまま洋館をあとにした。
ルバーダ王の元へと行く。
空を飛べるのはやはり便利なものだ。
『深雷ノ五輪』の顔が効くおかげですぐに謁見の準備が整った。
形式上の話を終えたあと、早速武器を見せる。
「これらが私たちが見つけた武器たちだ」
ルバーダ王の命令で鑑定士が現れその一つ一つを丁寧に見ていく。
「結果は?」
「はい。放置されていたとは思えないとてもいい状態の武器です。まるでつい最近研ぎ直されたような」
その言葉の後に私が、
「私たちはこれらを貴国に返そうと考えている。戦争に参加しないことを締結してくれたそうだからね」
洋館の武器はもらっていいという話があったから頂いた武器は見せずにいよう。
だが最初の方に拾っていた武器は要らないと思ったのだ。
「よろしいのですか?」
「一部は貰ってるからね。そのへんの武器たちは貴国の防衛に充ててもらって構わないよ」
そう言ってルバーダ王と握手した。
「しかし本当に戦争が起こるとは。イセンにロニがつきましたね」
ロニか。ステージとは宗派が違うため仲は良くないはずだ。
ロニとドゥームは仲が良かったのに、イセンに独立を吹き込んだのはロニだった───という話もあるがこの場で不確定な話はすべきじゃないな。
ドゥームからイセンが独立してから一気に大陸が険悪になった。
そしてその後もいくつか会話を交わしてダラニを後にした。
そしてその翌日イセンがドゥームに宣戦布告。ドゥームでイセンの商船が沈没したことを不当な攻撃を受けたとして、だ。
布告の後すぐにイセンが着々と準備した兵を投入。
ロニはイセンとの同盟を理由に参戦。
その協力のおかげでイセンは多くの戦線で勝ち星を挙げ、支配地を広げた。
瞬く間に世界中で報道され、これを『ドゥーム・イセン戦争』とした。
さらにロニは隣国であるラチへと侵攻した。
小国であるラチはステージに協力を求め、ステージはこれを飲みステージはロニへ警告するが無視されたことを理由に宣戦布告した。
そうして、世界は混沌を極めていく。
私はギルドに呼ばれていた。
国はすでに戦争体制で活気を失い、物価の高騰が酷かった。
「首尾はうまく行ったようですね」
そう言いながらギルドマスターは数枚のコピーを渡してきた。
それは中立条約の書面。ダラニからだ。
「ああ、そう言えば旧ヴェラの国民たちが反乱を起こしたそうなんです。そこで兵を使って沈めるのですが、あなたはどうですか?」
「なぜそんな手荒に?」
「はい、火器を含めた武装を使い占拠。"シジュン自治区"とし、自治区内の民を公開処刑などやりたい放題なのです……」
また余計なことを。
「それと、ついででいいのでトートが亡くなった洞窟によってもらえませんか?」
まあしょうがない、寄るだけ寄ろうか。
「いいですよ。じゃあ行ってきます」
「あ、その前にマリさんとマルさんをお呼びいただけますか? お話が───」
ヴェラはシジュン自治区。
歩いている人は皆武装して人を寄せ付けないようになっていた。
「まさかマリとマルが呼び出されるなんてね」
背の低い草に身を潜めながらマニに言った。
するとマニがため息を吐いて言った。
「喋るからバレちゃったじゃん」
泥に潜るように消えて、いつの間にかシジュン自治区の中にいた。
「やっぱり神は違うね」と、こそこそパウロと話した。
「でしょ」
私の後ろにいつの間にかマニが立っていた。遅れてマニの匂いが空に漂い始める。
自慢げな彼女の首元から垂れた紐がおでこに当たってこすぐったい。
「てかその服どこで手に入れたの?」
「買ってないよ。これスキルだもん」
服の肩の部分を引っ張って息を吹きかけると水になった。だから右肩だけ露出している。
「へぇ、だから肌が透けて見えてるんだ」
そう言うと彼女は慌てて全身を確認しているようだ。顔は変わってないが、全力で魔力感知をしているのが手に取るように分かる。
「冗談だよん」
そう言ったら彼女は怒ってしまった。
彼女を宥めることに悪戦苦闘した後、ようやくシジュン自治区に入れた。
数人の兵を連れて来たからすぐにバレて大勢が押し寄せてしまったが、そんなのに負ける私ではないのだ。
さくっと制圧を終え拘束する。
「ようやく来たの? 遅かったじゃない」
遅れてやってきた男を私が煽る。
「お嬢ちゃんがこんなところで何のようだ? もしかして自分のおかげだと、そう思ったているのかな?」
「なんのはなし? 早く投降してよ。面倒くさいからさ」
そう言ったら彼はため息を吐いた。
「雑用しか使えない雑魚は頭も雑魚なのかよ」
あ、超えてはいけないラインを超えたね。
(私行きますよ)
(僕行く!)
(私が行くよ。尊きものを愚弄して赦せないから)
堕霊三人が騒ぎ始めた。
喚んでもいいのだが、やはり私自身の力で打ちのめさなければ彼はずっと私を見くびるだろう。
(いいの、私が行くから。トルン、出る準備終わったみたいだけどダメだよ。ルーヴァもコソコソしないで)
もう少しで勝手にトルンとルーヴァが出るところだった。
「いいよ、私が一人で倒してあげる」
「調子に乗るなよ、クソガキ。掃除と料理で俺をどう倒すのやら」
そう言いながら彼は不思議な剣を出した。そして力任せに剣を振り下ろす。
だが、ブレードが爆発し辺りを爆風が包んだ。あったかい。
「びっくり……するところだったわ。あっぶない、あぶないじゃなくてびっくりなんてしてないからあぶないも何もないんだけど」
舐めてた。知らないギミック付きの武器となると改造されて武器かもしれない。
「あの爆風から逃れたか……、運だけはいいみたいだな、クソガキ」
「運が良かったらこんなスキルじゃないよ」
手元に風を呼ぶ。それを相手に向けて撃つが華麗さのない回避で避けられた。
「そっか……、無詠唱で抑えられたらよかったのに。ちょっと料理するから食らわないようにね。堕落能力 黒・料理屋」
黒き炎をできる限り多く生み出して辺りを燃やしていく。
「寒い……、のか」
男は辺りを飛び交う黒き炎を爆発で吹き飛ばした。
「ああ、まやかしの炎か。暗くて冷たい、お前の瞳みたいな」
あたりを闇が包む。真夜中のような暗さの中彼を黒き炎で拘束した。
「こんな自治区を作ったのはなんで?」
「おい、これクソ冷てェから解除しやがれ」
「早く答えて」
私が言うと彼は観念したように、
「ヴェラみてェな国の王になりたかったんだよ。お前らが潰したからな。文句あんのか? 言ったからこの炎のやつだけでも解除しやがれ!」
分かり合えないのかもしれない。
私たちの正義と、こいつの正義は全く違うから。
ヴェラを再興したいと思う人がいるなんて、考えたこともなかった。
もしかしたら善意の押し売りだったのかもなんて、思ってしまった。いや、ここはステージの領土なんだ。だから、善意なんだ。
水面が揺らいだ気がした。
水の神様が私を覗き込む。
はっとして指を擦り鳴らす。
黒き炎の鎖が解けた代わりに水の鎖で足を固定した。
あとの処理は任せ、私たちは洞窟へ向かうのだった。
清水ノ赫手
妖器の一部とされていた防具。鵺兵装の一部である。
柔らかな水に包まれたようなこの手甲はとても重い。
武器の破壊力が上がり、水中の移動を簡単にする。
綺羅びやかな妖怪は私を鼓舞し、勝利に導くだろう。
猫ノ毛鞘
猫の妖怪の皮を張って作ったとされる鞘。妖器ではない。
中の刀は迷子になってしまったようだ。
泥中にいながら汚れを纏わぬその鞘は妄想の産物のように美しい。
入れる武器がないのなら、栞でも入れておこう。
機械仕掛けの爆発剣
不思議な原理で爆発する剣。
この大陸の技術なのかと疑うような仕組みだ。
柄の先についたボタンを押すことで刃から爆風が吹き出される。
そんな技術が受け継がれていなくてよかった。
いや、星の爆発の武器があったのか。関連性を調べておこう。




