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☆不思議な実験者☆

三大堕霊(エクソシスト)』だって……?

 

「私の領地で『三大堕霊(そんなの)』が居たなんて……」


トルンは落ち込んでしまった。

 それがどうにも可愛くて笑みが溢れる。


「ボクは『断』のアガレス。三女だよ」


私はささっとセレイアのところに行き、


「なんでルナって名前なの? なんで迷い人と名乗ってるの? 故郷は『悪魔女帝(エンペレース)』のところじゃないの!?」


私の疑問全てをセレイアに一気に吐き出す。


「『断月(だんげつ)』のアガレスで、そこの巫女全て迷い月(ルナ)と呼ばれるの。私たちも同郷なんだけど彼女はあの地を忘れちゃって。だから探しているんだって。迷い月(ルナ)が地を失ったとき、迷い人となるの。まあ、私たちも故郷への行き方は知らないし!」


彼女は私の質問すべてに回答してくれた。


「だから、あなたについていったらボクの故郷もいつか行くことになるかなって!」


月か。ルトナ公国はかなり月に関する国だったが、セレイアやサヴダシクも行き方を知らないとなると除外すべきだろう。

 まあいいや。いつか行くかもしれないし。今は彼女の呼び方のほうが大事だ。


「仲間になるなら名前をつけたいんだけど、名前ってある?」

「んー、ないよ。アガレスも地位みたいなもんだからね。でも、アガレスって呼んでくれていいよ!」


そういうが、彼女の瞳は期待を宿している。


「じゃあ名前つけるね。えっと、君の名前は、フィヤルナ。終わりの旅の仲間になってほしい」


フィヤルナと優しく彼女は反芻する。


「いい、名前だよ。気に入った」


心を込めて、満面の笑みを私に見せてくれた。


「私はもう驚かないよ。あんたは堕霊(サタン)に好かれてる。あとね、あんたあのメイドすら仲間にしたいって考えてるの知ってるからね」


マニの言葉に戦慄が走る。

 皆がこっちに振り向く。


「正気!?」


セレイアが私の肩を掴んでぐわんぐわんと揺らす。


「別に妖器いっぱいあるし、これからも手に入れなきゃだし……」


そう言って気がついた。帰りにそっと仲間にしておこうとしたのにまるで今すぐに仲間にしたいみたいになったじゃないか。


「そういう問題じゃあない。こんな『三大堕霊(エクソシスト)』をそろえてる軍団なんて歴史上ないのよ」

堕霊(サタン)は妖器を集めてるから集まっちゃうのは仕方ないのですがね」


理解した。ゆく先々で毎回のように堕霊(サタン)と出会うのはそういうことだったのか。


「なんで堕霊(サタン)は妖器を集めてるの?」


私の問いにサヴダシクが反応してくれた。


「そうですね、妖器を集めることで『甘美の者 イノース』、全てを始めたものに会えるんです」

「甘美の、者?」

「そうなの。あらゆる実験をした"試験者"としても知られているのだけど。そんな彼がこの十年の間に子供をつくって空に隠れたの。それをこじ開けるのが妖器よ」


『試験者』。どこかで見たことのある気がする。そのままセレイアが続ける。

 

「だから私たちはあなたを協力者として"試験者"にあいたい。実験の全てを、彼から聞き出したいの」


彼女はいつになく真面目で、決意のこもった瞳をしていた。


「まあ私たちもちょうど妖器を集めてるし」


あの塔の試練のことを思い出す。そういえば一つづつ見せなきゃいけないんだっけか。

 まあいいや、ここを踏破したらいこうか。

 突然ヒュウ、と凍えた風が吹いてきた。


「なんで風が……」

「そこの窓割ったんだよね。上から手紙を落とすためにさ。そしたら向こうに行くための外付けの板を見つけたんだ!」


たしかに向こうの見下ろし席に行くためにはそれしか無さそうだ。


「なんて不便な……」


窓に足を掛け、見下ろすと不安な板が確かにあるのを確認できた。

 ふわっと着地してそろそろと歩く。あまり強く踏み込むと割れてしまいそうだし。

 何とか向こうについて立て付けの悪い扉を開ける。すると目の前に床に突き刺さった大剣が見えた。

 抜くと握りやすく、攻撃しやすそうなモノだった。

 大切に仕舞って、みんなの場所に戻る。

 大剣を見せて、


「これ、フィヤルナの?」


と聞いてみた。すると、


「────ううん、ちがう。そんなの、あったんだね」


かなり含みのある言い方だ。まるで、思い出があるのかのような。


「じゃあ、何本か私がキープ出来てるし、これヴェレーノにあげるよ」


私がそのまま彼に渡す。

 フィヤルナは表情を変えずに笑顔のままだ。私の行動が正解だったのかは分からない。

 ただ、これが正解な気がした。


「いいの?」

「うん、私が持ってる武器は一応ダラニに報告するつもりだけど、十分な報告量になると思うから」


彼は武器を握って、撫でて、そして、


「ここ、洗った?」


柄を指差しながら私に聞いてきた。


「いや?」


私は全く知らない。そもそも暗くて汚れてるかもよく分からなかった。


「ふ〜ん、まあ良いや。ありがと」

 

彼は優しく笑った。

 そして私たちはそのまま渡り廊下を通ってある程度戻り、知らない通路に足を踏み入れた。


「いくよ」


私ももう大丈夫だろう。そんなビビる必要もないはずだ。慣れたから、たぶん。

 ガチャとドアを開けて入るとそこは図書室だった。

 真ん中に机があって幼児向けから政治や、医療なんかの大人向けの本まで並んでいる。

 机の真ん中にメモが落ちていて、


『最近掃除する必要に疑問を感じつつある。だって誰も住まないし、誰も来ないんだもの。しかも隣の部屋から唸り声が聞こえるし。礼拝堂と似て非なる感じのヤツ。なんなんだ、あれは。


DATE:41』


それの文章に思わず耳を澄ませてしまう。

 微かに聞こえる低い声。いびきのようにも聞こえる。

 そのメモをそのまま置いといて仕方なく図書室を探索することにした。

 皆が思い思いの方向に歩を進める中、私はマニとパウロと共に壁に沿って歩いていた。

 気が向いた本を一冊取る。

 インクの匂いが一瞬して、本の中身を見始めた。研究に関する本だ。

 タイトルは『人と魔物』。作者は『ヴィルニア』。

 中身には『第一章 魔術とスキルの違い』や、『第二章 そもそも魔物はなぜ生まれたのか』などだ。

 パラパラとページを適当に捲る。

 だが、私を呼ぶ声でそしてよく見もせずに本棚に戻す。

 

「姉ちゃん、ここにもメモ!」


本棚の横板に黄色く変色したテープで貼られたメモ。


『巨人を飼うことにした。遥かの異国の幻具に憧れて』


短いその文は、私の心を鷲掴みにして震え上がらせた。


「巨人……、飼っているなんて」


その情報もまた皆に伝えて図書室をあとにする。

 図書室の眼の前の部屋に次は入ることにした。

 暗い部屋。その中で動くことをやめた大柄の男が居た。

 私たちの足音を聞いたのか、鎖が動く。


「め、し」


金属の音が鳴り響き、暗い部屋に満ちていく。

 ジャラジャラと鋼を引きづって腕を前に差し出している。それがご飯を求めているのは明白だった。

 ルーヴァが光を灯すと私たちが侵入者だと気がついたのか、骨の形がよくわかる手のひらから炎が出た。

 黒色の炎はフラフラと天井付近を舞って優しく爆発した。

 誰にも当たらず、物も燃えない。

 

「ルーヴァ、もう少し明るくできる?」

「できますよ」


部屋がまた一段と明るくなる。

 身体中の傷跡と、散乱した注射機の針。暴れたのか、それとも誰かが実験に使っていたのか。

 嫌な薬剤の匂いと、糞尿の跡。

 落ちていた実験のレポートを拾う。 


『第一実験:タロスの血液採取 場所ミリュー

 539年 2月9日 6:31:25

 書き写し回数 59


 壊れた巨躯に針がすんなり入った。血はどろりとしていて人間のものとは違う。金属の匂いがとても強い。魔物のものと似ている気もするが、まだ人間に近い。


 血の色は赤色。

 血栓形成ヒトより早い。

 80度ほどで血液凝固。

 近縁種ゴブリンよりも5度高い。

 火山近辺での生息の可能性高。


是非、次は生きたままで実験したいものだ。』


今は、1825年だ。1000年ほど昔の資料がまだ残っている?

 いや、たしかにこれは魔紙だ。待て、そんな昔から魔紙なんてあったのか?

 そもそも、ミリューなんて聞いたことない。今ない都市をそのまま書き写し続けるか? 普通訂正していかないのか?

 いや、この魔力知っている気がする。

 とりあえず、鎖を切って解放してあげて、私のスキルで巨人にご飯を与える。そのうちにこの部屋を探索しておこう。

 ほどなくして鍵を見つけた。

 それをルーヴァに渡してまた探し始める。


「人、間」

「無理に喋らなくて良い。あなたはそこでご飯を食べていていいよ」


私は巨人にそう言ってあげる。

 彼の殺意もなにもかももう消えていた。


「オレが、人間が分けてくれた魔力で人間を攻撃するかもしれない」

「そうかもね」


私はそこら中の本を適当に漁りながら返事をする。

 2つ目の資料をパウロが見つけ私のところに持ってきてくれた。


『第二実験:タロスの饑餓実験

 1151年 5月30日 17:05:42


大陸が浮かんで幾度の移魂を繰り返したのか。

 ようやく見つけたタロスを洋館に閉じ込めることにした。仲間の研究者の皆が私をキチガイだと罵る。何を言うのか。知りたいを探求することの何が悪い。

 まあいい、タロスを縛り付け、仲間の伝てでメイドを雇った。彼女に世話を任せ、飢餓状態にしてみた。


1日目 鎖を引っ張って抵抗している。だが何ともなさそうだ。


2日目 鎖の音がずっと響いている。手首は傷がついているのに暴れるのをやめない。


3日目 鎖の音も絶え絶えになってきた。だがまだ瞳は私を睨み続ける。


4日目 鎖の音が完全に止み、部屋も糞尿の匂いに満ちてきた。虫が多い。


5日目 メイドに清掃させたが、まだ大丈夫そうだ。


6日目 そろそろ空腹になってきたのか、瞳の光が暗くなってきた。


    確認作業を忘れていた。何日経ったかわからない。だがなぜか性格が丸くなった。


タロスが2人いれば解剖できたものを。』


背筋が凍るような感覚を覚える。

 何年生きているんだ。何年、拘束し続けたんだ。

 倫理観はどうなっているんだ。

 なぜ、私たち家族は此処に住んでいながら彼の存在に気が付かなかった?

 私が何歳の時にここを出た? それ以来帰ってこなかったのか?

 母は気が付かなかったのか?

 疑問は尽きない。早くあのメイドのところへ戻ろう。彼女なら何か知っているに違いない。


「オ、オリヴィア様、手記が」


トルンが私の手首をつかんで私にそう伝えてくれた。怖いのか、少し声がへんだ。


「……読むよ。あ、あとこれ読んでいて」


手渡された手記はとても古く、でも全てが魔紙でできていた。

 何年のものなのか、具体的な表記は見当たらない。




『今日という日が、二度と来ませんように。


 やりたい実験を見つけた。ダラニへ行ってみよう。


 大陸が浮いたのか世界が沈んだのか。この大陸の外にあった国々が観測できなくなった。


 ダラニに住処に良さそうな洋館を見つけた。ここで色々試してみよう。


 防衛国ギルドの支配を抜けたこの大陸は戦乱の世になった』


毎日書いているわけではなく、気が向いた時に書いているようだ。少し読み飛ばしてみる。


『ステージという国が生まれた。ヴェラという国と分離戦争の末だ。ヴェラに行ってみることにする。


 ヴェラにいい洞窟があった。私の機構の技術を使って魂封入の実験をしてみよう』


またしばらく手記が抜けている。

 コイツは何をしたいのか。書くなら毎日書けば良いものを。



『ヴェラから帰ってきた。庭に置いといた作品を、あなたに教えよう。


《折ることのできない41本の枝。橄欖(かんらん)、裏庭に咲く》


すべてを覗く、貴方に』


怖くなって手記を閉じる。だが、それでもこの手記は情報の宝庫だ。

 意を決してもう一度開く。


『ヴェラの作品に名前をつけたという。《不貞の子》とてもいい名前だ。』


とても最近の筆跡に見える。ついさっき、追加したような。

 イヤになってトルンに返してメイドのところに向かうことにした。




大妖の大剣


太く、黒い刀身の大剣。見下ろし席の床に刺さっていた。

 行きづらいところにわざわざこんな剣を置いたなんて当時の家の持ち主は何をしていたのだろう。

 柄の血は、誰のものなのだろう。

 



巨鋼の巨人(タロス)


異国の物怪とされる怪物。身長は3メートルほどで、炎を扱う。

 異国では、黒き炎をヤーガダというらしい。

 なぜこんなのを飼っていたのか、誰が連れてきたのか。

 なにもかも、わかるわけがなかった。




移魂(いこん)


自らの魂を他の身体に入れる秘技の一つ。

 魂とはなんたるか、それに一番近づいたものが見つけたもの。

 彼もまた、答えを見失ったが。

 でも、わたしとマニはその秘術ができない。

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