☆オリーブとオリヴィア☆
そういえば、と気になっていたことをルーヴァに聞く。
「鍵、あった?」
「戻ってみようか」
ってことはあったのか。よかった、と思いつつ、巨像の部屋に戻ってきた。
「よし」
ルーヴァが手で扉を押すと、通路が現れた。それにみんなでついていく。
「横に階段あるけど、先に正面のドア開けてみようか」
行かなくていいか判断するには行ってみなければならない。
「開けるよぉ」
危機感の欠如を自覚したほうが良い。どんなのが現れるかわからないというのに。
だが、幸いなことに大きな化け物や物の怪が出てくることはなかった。
恐る恐る部屋に足を踏み入れると、3つ、宝箱が。
「鉤爪だ……」
いつの間にか宝箱を開けていたマニがそう呟く。
宝物に目がないのか、いい武器に新調したいのか。
「こっちは服かな……」
「きったな!! 箱に笛いれるなよ……」
マリが服を見つけた直後にヴェレーノの絶叫が轟く。
笛をそのまま箱に入れっぱなしにしてこの部屋から出る。
横の螺旋階段を登ることにした。
顔に引っかかる蜘蛛の巣にもだいぶ慣れてきてしまった。
階段を登りきり、正面に進んでいく。
変な十字架を横目に奥へ行くといきなり、
「お嬢様……」
ひゃっと声が漏れる。
「驚かせてしまい、申し訳ございません、お嬢様……。ルナ様を……、見ませんでしたか?」
ルナ様? そんな人、知らない。怖いから早く会話をやめたいのに。
「窓からは……、見えるのです……。傷だらけの心と……反分の身体が……」
ふと周りを見渡すが、窓は見つからない。
「呼び止めてしまい……、申し訳ございません……。つい……、本物のお嬢様かと……失礼しました……」
後ずさるようにその場から離れる。
サヴダシクにぶつかった。驚いたサヴダシクの手を引っ張ってすぐそこの部屋に入る。
「オリヴィア様のお手を握れるなんて……」
普段なら振り払うのかもしれないが、不気味なメイドを見たあとだからかより強く握る。
安心感が私の手のひらを覆う。
「どうしたの、あわてて……」
マニが腰に手を当てて私にそう聞いてきた。
どうやら別の入り口があるようだ。
「おかえりなさいませ、神様のマニューバ様、そして神様のご家族のバス様」
その言葉にマニが真っ先に反応する。
「なんで、私の名前を知ってるの? ちゃんとこたえて!!」
それでも、メイドは凛としてただ告げた。
「貴方がた家族の別邸として一時期使われていたからですよ。われわれ堕霊もその時に雇われたのです。この部屋も、見覚えがありませんか? そうでしょう、バス様?」
その言葉と同時に部屋の燭台が一気に灯る。
見たことのある、グラスアート。そして蘇る、会話。
息が浅くなる。うまく呼吸できない。立てない。
視界が濁るように悪くなっていく。
【ねぇ、不貞の子】
私じゃない。望んだのは、私じゃないし、母も義父も望んじゃいなかった。
「わたし……、不貞の子……」
手の甲で力いっぱいに涙をぬぐう。
2回目だろう?
私は強くなければならない。悪意のある言い方で何度刺されたとしても全部、覚悟を決めていたんだ。何を言われたって、押し付けられたってあふれる涙を堪えて噛み締めて飲み込めばいつか解き放たれると信じて。
「────わたしは、わたしだ。バスタードであれ、わたしには、仲間がいる」
かすれた声でそうつぶやく。抜けた力を何とか入れ直す。
「そうですか、覚悟はあるんですね」
耐えきれなくなったのか武器を握りしめてくれている。
私は手で彼女らの動きを封じて。これは私一人の問題だ。
だから、こんなことで彼女らの気分を害するわけにはいかないんだ。私だけで、耐え続ければ良い。
私を待つ、死という解放のためにただ走り抜けろ。
「何度だってへたり込んで、泣いても良い。涙が止めば、笑顔で『ありがとう』をつぶやき続ける」
マリが言ってくれた、『謝罪を感謝に言い換えろ』。
いつまでも耳に残り続けるんだろう。
「わたしがどれだけの絶望を、失望を、ヒトスクイの希望を……、感じて押しつけられて与えられたか。────私の英雄を理解できたの」
彼女の言葉に怒りを感じてくれてありがとう。
それだけで、私は救われているよ。
今にも斬りかかりそうな程に激高してくれている彼女らには感謝しかない。
マニだって、わざわざマニ自身の名前を知っている理由を聞くことで、私にむけて言った『バス』という言葉の重みを軽くしてくれた。
「あなたの覚悟ですか。それは尊いものでしたよ。そうですね。もし、オリーブのメを摘めたなら、私のところに来てください」
オリーブ? それについて聞こうとしたとき、
「オリちゃんが優しいから許されたんだ。私一人だったらお前を殺してた」
セレイアが強い口調でそう言った。その言葉に後ろを振り向くと今にも暴れだしそうな雷が居た。セレイアよりも地雷かも。
「トルン、大丈夫……?」
大人しいなって思ってたら私を凝視していた。そういえば洋館に入ってから一言も喋ってない。
「────っは……、オリヴィア様」
不安だ。不安の種してるわ。
「……感じているのです、旧友の魂を……。そして、一つの橄欖を」
なんだ、橄欖って。そしてやはり怒りを忘れきれずに、トルンが言う。
「そこの堕霊、赦されないぞ。私に苦しむオリヴィア様の姿を見せたこと……」
ごめんなさいね、そんな醜態を見せてしまって。
「そのせいで庇護欲にかられてしまった!!!」
……なにいってんだ、こいつ。そしてくるりと私のほうをみて、
「オリヴィア様、私がついています。どんなことがあろうともお任せください!!」
周りのみんなも笑顔で頷いている。
ほんとに、仲間に恵まれたようだ。
「────大好き、みんな」
ひねり出した言葉は単純なものだった。
恥ずかしさで死んでしまいそうだ。
「では、早くこの部屋から出るよ!! またね!!!」
堕霊が恭しく一礼をしている中でそそくさと部屋を飛び出す。
「耳まで赤くして可愛いですっ!!」
トルンのせいでもっと恥ずかしくなってきた。
「そういじめてやるな。オリ姉が強がっちゃうから」
マニがそうバカにしてくる。はぁ!? と声に出して威圧してみるも笑顔で受け流してくる。
「さっきも怖がって私の手を握ってくださりましたもんね」
「別にそんなことなかったよ」
私は速攻でサヴダシクの言葉を否定する。
「お姉ちゃん素直になりなよぉ」
楽しそうに笑ってやがる。
舐められたもんだ。
「はっ!? サヴダシクさんだけずるい!」
これはやらかしたか? マリまでこうなるとそれは本格的に収拾がつかなくなったかも。
「早くここから出よう! 手繋いであげるから!」
私の言葉に屈託ない笑みを浮かべながら、
「"繋いであげる"? あらぁ、私たちは此処から動かないという判断もできるんだよ?」
セレイアが私を追い詰めていく。巧すぎるだろ、私の逃げ場がない。
「あぁはいはい、分かった。繋いでください! 早く攻略して出ましょう!!」
これで満足かっ!?
「及第点」
セレイアがそう言いつつも私の手をがっしりと握る。反対の手はマリが。
みんなして敵だ。私の弱点を知りつくそうとしてきている。
その時、待望の声が聞こえた。
「びゃっ!」
いきなり廊下のメイドに話しかけられたのかマニがそう叫んだ。
「どうしたのぉ? マニちゃん。『びゃっ』だって!」
マニの肩に顎を乗せてそう言ってやった。
「そういうあなたも『ひゃっ』って……」
隣にいるのはサヴダシクだったのか! これは分が悪い。
「まあ、驚くよね。しかたないよ。雰囲気も相まって」
「あのぉ、本人がいる前で……そういう話は……」
その言葉でハッとする。確かに、それは盲点だった。
「失礼したね。じゃっ!!」
私たちの会話を聞いていた皆をつれて角を曲がり、そのまま礼拝堂とつなぐ渡り廊下についた。
礼拝堂の一番上の"見下ろせるような場所"に着いた。
「君たちだよね?」
ビクッとしたが声は出なかった。
どうだ、と後ろを振り向くがヴェレーノとルーヴァがゲラゲラ笑っている。
もう私はどんな反応をしても笑われることが決まってしまったようだ。
「ボクは迷い人 ルナ。探してるの、私の故郷を」
返すような言葉は残念ながら浮かばず、自己紹介をすることにした。
「えっと、私はオリヴィア、です」
私がそう言うとニコリと微笑んで、
「知ってるよ。イオアンと仲良かったんでしょ?」
イオアンを知っているのか。
「なんで、イオアンを?」
「彼女ボクを堕霊討伐にやってきたことがあるのよ」
そして、
「だからボクも一緒に行ってもいい? きっと力になれるよ!!」
正直この人に関する情報が少なすぎる。だが、まあこの洋館に関する情報を持つ人がいるというのは大きい。
「いいよ。あんたのことは探索の中で信頼できるか判断する」
「大丈夫ですよ、オリヴィア様。彼女は、『三大堕霊』ですから」
サヴダシクの言葉に今日一の絶叫が出たのだった────。
猫憑ノ爪
猫の力が宿る鍵爪。
身体をしなやかにして回避性能を上げたり、跳躍力を上げる効果を持つ。
鍵穴を斬り裂くこの爪はこの洋館では意味をなさなかった。
でもどこかにこの鉤爪を使えば開く扉があるのかもしれない。
猫ノ貴族装束
妖猫の貴族が好んで着ていたとされる服。とても暖かく、ふわふわの触り心地らしい。
この洋館における猫がどのような立場にあるのかわからない。
もしかすると、妖猫に深い関係があるのかもしれない。
黒羽の笛
宝箱から出てきた不思議な笛。
吹くと黒い雷が出るという。
この事実を知ったとき持って帰らなくてよかったと思えた。
誰が吹いたかわからない笛を戦闘中に吹くわけにもいかないから。




