☆入館☆
ミスト古洋館。ミスト家が住んでいた怪異の場所である。
ついでにとシュライン山へとお参りにきた。
「ここは私と一緒にこの国を守る雷龍が住まう山です」
トルンがそういった。
登山をすることを考えてないのか、不安定な足場を軽い足取りで進んでいく後ろ姿を追いかける。
「雷龍? なんか他の"りゅう"とちがうの?」
私がそう言うと、
「えっと、ざっくりいうと龍は我らは同じで、竜は堕霊です」
そう教えてくれた。
そうしていたらいつの間にか小さな台座の目の前にいた。
「着きましたよ」
そうすると何やら大きな咆哮が聞こえ黄色い鱗の空とぶ蛇がやってきた。
「久しぶり、元気だった?」
そう優しく話しかけるトルンをみて、ルーヴァに聞いてみることにする。
(あなたにもいるの?)
すると、
(炎龍がいるかってことですか?)
(うん)
(いますよ。んー、ちょうど人間の兄弟姉妹のようなものです。違うところは我らが生まれると同時にリンクされた龍が産まれるところですかね)
(私らもそう。でも基本小さいうちに飲み込んでしまうから竜はすくないのよ)
ルーヴァにセレイアが追随する。
そういうものなのか。
(僕らもそうですよ。ただ五輪になると同時に分離されるのです)
ケロッとそういった。
(炎龍とかはどこにいるの?)
(炎龍は会えないですよ、多分、もう)
なにか重い事情があるようだ。
(そう、ごめん)
(大丈夫ですよ。私などに謝らないでください)
そうは言うが悲しそうだった。
視界をトルンに向け直す。するとトルンに撫でられていた龍が私の方に飛んでくる。目の端でパウロの髪をぐちゃぐちゃにしているマニと、マルに何かを食べさせようと追いかけ回しているマリとヴェレーノたちが見えた。
「乗せてくれるようですよ。一緒に洋館まで行きましょうか」
トルンが私の顔を覗き込んでそう言ってきた。
「うん、いこうか」
暗い館を上から見下ろす。
心もとない塀に囲まれた館から悍ましい声が聞こえてくる。
「あ、門開いてますね。門の前じゃないと着陸できなさそうです」
トルンがそう言っただ同時にサヴダシクが、
(同胞の気配がします。気をつけてください)
と言った。
「これ、みんなで行こうよ……」
マニが竦んだのかそう提案してきた。
「あんたに憑いている悪魔たち呼んでさ」
さらにそう付け加える。かなりビビってるようだ。
龍が一つ哭くと森に響き渡って驚いた鳥が飛び立つ。
そして私たちはようやく着陸したのだ。
錆びついた門は開いていてそのまま入っていくことにした。
「もうちょっと躊躇ないの!?」
「だって尻込みしててもしょうがないじゃん」
マニの叫びに私はそう答える。
レンガで舗装されているのか歩くたびにコツコツと音が鳴る。
左右は木々が生い茂り、黒いリスが飛び出す。
「ッ……」
マニがパウロに抱きついた。
「ねぇ、こっちに別館あるけどみんなで入る? それとも半数ずつ別行動する?」
そう私が聞くと、
「みんな一緒がいい……」
そう言われたらそうするしかないか。
数は多ければ多いほどがいい、事もないが洗練された数ならそれは素晴らしいことだ。
「じゃあ、あけるよ」
扉が気怠げに開いていく。
いつから放置されていたのか詳しいことは分からないが、だいぶ長い時間使われていないことはよく分かる。
(オリヴィア様、私たちを召喚してください!)
サヴダシクが強い思念で私に語りかける。
そう言うなら仕方がないか。
私が彼女たちを呼び出すと同時に、けたたましい獣の咆哮が聞こえた。
「なんだ、こいつ……」
一瞬で当たりの窓が砕け散り、地面に散乱する。
割れたステンドグラスの奥から太った月が覗いていた。
大きな獣は身体を壁にこすりつけながら私に向かって飛んできた。
「スキル 堕・空架ノ輪儺」
黒色の塊がそこら中に当たる。
私たちは慌てて避けて空中で獣の顔を見る。
少し、人間味を帯びた顔だ。
「……そうか……、星異物 雷ノ摂理!」
雷雲が現れてヤイバとなり、獣の首元に向かって飛ぶが、かなり硬いようだ。
「『静空ノ五輪』か!」
『静空ノ五輪』? ルーヴァだけでなく、トルンもまた知っているようだ。
「そんなはずないわ。彼女は人間についていたはずだもの。カオスと言う名で」
ん、こんがらがってきた。
少なくとも戦闘中に考えるべきじゃなさそうだ。
「神ノ御力 蒼水ノ大槍!」
「聖遺霊 聖炎ノ溶戮!」
マニが喚んだ大きな槍が数本獣に当たった。
そこに炎の弓矢が飛来し、爆発が起こる。
さらに重ねるように、
「獣力 朱・獣雷!」
紅のイカズチが落ちる。
ここまでの猛攻だ。耐えられているとは思えないのだが。
「やるね……」
私の声が漏れる。幽霊のように立ち上がった獣に向けて。
「五輪能力 掃除屋!」
床に敷いてあるカーペットを斬り裂いて風の刃が獣に当たったが、風が弾けてしまった。
「獣力 白・焰刃」
ヴェレーノが白い炎を噴き上げて獣を灼く。効いたようだ。
「獣力 朱・獣雷!」
「故夢 幻夢弓」
「獣力 黒・甓黎!」
それに続いてマリとセレイアとマルが攻撃を当てていく。
マリが雷で動きを封じ、セレイアが弓矢で精密に腕を貫いて、マルが地面から針を突き刺す。
これは倒したかと思ったが、ゆらりと立ち上がる。それは哀れな獣そのものだった。
「神託 黒・双雷!!」
「故夢 生命断!」
「聖遺霊 聖炎ノ溶戮」
パウロが黒色の稲妻を落とし、サヴダシクが紅いヤイバで、ルーヴァが炎のヤイバで首を切り落とす、ほんの少し前に。
「スキル 堕・空架ノ輪儺」
暗い空の欠片、としか形容できないナニかがそこら中に散りばめられて破裂した。
首は切り落とされ、だがスキルは中断されることはなかった。
「何もかも灼き尽くして。堕落能力 黒・料理屋」
仲間に突き刺さる直前だったカケラも爆発して消える直前だったカケラも何もかもが燃え尽きる。
そして、部屋の奥の───いまだに神聖な空気を帯びていることから神聖な儀式に使われたと思われる───机に置かれた燭台に火が灯る。
獣の身体が消えていき、その中から大人一人分の骨と泣き尽くした身体が現れた。
「おい、生きてるぞ」
セレイアがルーヴァに圧をかける。
「分かったよ。起きろ〜……ってこんなんじゃ起きないか。神の力ならたぶん元気になるんだが……」
そしてルーヴァの視線の先には、マニがいた。
「……はぁ、どうすれば良いのさ?」
マニは仕方がないといいたげだ。
「こいつは天使だからそのまま宿せばいいよ」
マニはそうじゃないよ、と小さく言って
「もとの主は? まさか、これ?」
だいぶ時間の経った骸骨を指差す。
「そうだろうね」
ルーヴァはそう言った。
「そう……、じゃとりあえずこの、カオス? だっけ? を治療してあげればいいの?」
「そのとおり」
マニはその言葉を聞いてカオスに近づく。
「ごめんね……」
カオスを持ち上げ胸にカオスの身体を寄せるとパッと消えた。
私はその姿を、なぜか見入ってしまった。




