☆交渉☆
今、アーガとダラニの国境に位置する町、ランボにいる。
ルラからメラー森を通り、トルンを仲間にしてついに国境目前まで来た。
ここは複数の花が色とりどりに飾る。その中でも一際人気な花の名前はリファル。機械の英雄の二つ名にも使われる崇高な花だ。
金露構は薄い黄色の花弁でとても美しい。
ほかにも、大きく朱い花弁を持つ巨獣華や、薄青色の沈幽零など、とてもきれいな花畑になっているのだ。
「あれって……」
つい私の口から漏れた言葉。それは小屋の壁にくっついた大きな車輪が川に浸かっている、珍しいデザインの建物を見つけたから。
風景の中で独特な存在感を放っていてそれがプラスなのかマイナスなのかは分からなかった。
となりにいつの間にか居たトルンが自慢げに、
「あれは"水車"と言って、機構国という今は観測できない国で作られたのですよ」
え、他の大陸があるの!?
聞いたことがないから、ないと思っていた。
「尋常な手段では訪れることはできません。貴方様の願いがかなったときに……」
そこで言い淀み、
「あの、もしよろしければ────」
そして意を決したように、
「一緒に行きませんかっ!?」
頬を赤らめてもじもじしながら。わかった、確かに純粋というか、なんというか。
あまり返答に時間を空けると可哀想だ。
「うん、全部片付いたら。そしたら皆で行こう」
花のような笑顔になり、その笑顔で私も顔が綻ぶ。
するとヴェレーノが、いきなり口を開く。
「いいね、それ。みんなで、行こう。イオアンとか、シャイターンとかも連れて」
なぜかその言葉が胸につっかえた。
雷の国の国境、"雷壁"の目の前。
門衛たちがトルンを見つけるやいなや最優先で入国させてくれた。
なんと、トルンはこの国の神として崇められている存在だったのだ。
言われてみれば最初に会った時に、『私は『深雷ノ五輪』。我が信徒の国に貴様が入るのは都合が悪いのだ』とか言ってた。
ここの雷の壁は彼女の作った防壁で、彼女をリーダーにこの国は動いているそうだ。
「あの、この国の中では私目立ってしまうので……」
そうだ、気にしてやれなかった。
トルンにもらった刀を手に持って、そこにトルンをリンクさせる。
そうすることで妖器と私は繋がっているから、いつものハグでトルンも隠せる。
試しに一度抱きつくとちゃんとできた。
(…………………)
反応がなくなってしまった。トルンには衝撃的だったのかもしれない。
この国のギルドにも認証をもらい、この国でも依頼を受けられるようになった。
「おいおい、この方々じゃないか? 雷神様とご一緒だったっていう……」
「言われてみれば確かに……。護衛でもされてるのかな……」
ごめん、もう噂が広がっちゃったみたい。
表にその気持ちは出さないようにギルドの依頼板をただ眺める。
そんなときいきなりトルンが
(っ、そう言えば、私、神座に行かねばならぬのです。行ってきてもよろしいでしょうか? それと、もし、あの……)
ふむ、皆まで言うな。ついていこう。
毎回こうおどおどとされても接し辛いけどな……。
(どこなの?)
(いいのですか!?)
嬉しそうなトルン。するといきなり目の前に現れた。
ヤバい、そう感じて私はすぐにトルンを隠す。
誰も何も見てないんだ。そう、そう。
私たちはそそくさとギルドを出て人目の少ないところへ向かった。
首都ハンガの雷城。
ここに魔法陣が現れた。
「ほんとに申し訳ございません!!」
開口一番『深雷ノ五輪』、トルンが謝罪した。
白髪の少女は苦笑しながらその謝罪を受け取った。
青髪の神様は呆れていて、狼の二人は特に何も思っていないようだ。
猫と機械に関してはただ黙って主を守れるように臨戦態勢を整えている───
そう、報告が入ったのか兵士が何人かやってきた。
私たちを拘束しようとしていたが、私たちの仲間の一人が『深雷ノ五輪』だと知り驚いて固まった。
「さすがオリヴィア様、あなたのお姿を見るなり固まってしまった……」
何を言っているんだ、トルンは。明らかにトルンに驚愕してたのに。
「……そうだね。えっと、目的地に案内してくれる? あと、『ここでは』っていうか『今後』も敬語じゃなくていいよ。あなたの立場が危うくなるんじゃない?」
そう言うと、
「ご心配ありがとうございます。でふが……」
なぜそこまで噛むのか。緊張しすぎだ。
「早く行こう」
マニがそう言ってようやく進み始めた。
そして今、王の目の前にいる。
「雷神様、ようこそお越しくださいました。お申し付けくださればお宅に伺わせてもらったのですが……」
そして私たちをチラチラ見ている。そして、一瞬躊躇って、意を決したのか、
「彼女らは気にしなくて良い。妾の友人だ。連絡すれば良かったな」
「とんでもございません! おい、お前ら彼女らを貴賓室に────」
「ああ、待ってくれ。彼女らが主に用があるようでな」
自然に私たちに会話の流れを持ってきてくれた。助かる。
「えっと、なんとお呼びすれば?」
マニが一歩出てそう聞いた。
「ルバーダと呼んでくだされば恐悦至極でございます」
「そうですか。ルバーダ王に願いがあるのです」
「もっと気軽にお話ください」
「そうか? では、ルバーダ王そろそろ始まる大陸戦争にダラニは参加しないでもらいたい」
この場所に戦慄が走った。そういうことじゃないだろう!? たぶん社交辞令だぞ、妹よ……。
「というのは?」
「理由ならある。一つ。この国は武器の生産が多い。真っ先に攻め込まれることとなるだろう」
そう言ってマニはさらに
「一つ。私たちはこの世界の神を殺し、雷神をこの世界の新たな神としたい。そのためには戦争に関与せず守っていたほうが神のイメージとしても良いはずだ」
と堂々と宣言した。そして、事前に頼まれていたことを伝える。もっとあとに伝えることになるかと思っていた。
だからまだ根拠を練る必要性がなかったのだ。この国で名声が上がれば国賓として招いてもらう予定だったのだから。
「一つ。妖器鍛冶師の末弟子に死んでほしくないからだ。妖器は、わが父を倒すために、決戦の場に行くのに使う」
「穢れた、末裔……?」
「そうだ。12の妖器を鍛えなおしてもらうために鍛冶師を守りたい。そのためにこの国は中立で居てほしいのだ」
おお、私が言いたかったこと全部言ったぞ。
「それは、どのような根拠を持って私たちに伝えてくださっているのですか?」
「おい────」
「雷神、良い。"未来の神"とだけ、伝えておこう」
すごい、ウソは言ってない。
「……妖器とは、物怪の器ということですか?」
「ふむ、そういう捉え方でも良い」
少し悩み、そして思い切ったように、
「『白鐸』の名を関する原核武器を保有しております。それをお渡ししたいのですが、条件をつけても良いですか?」
「もちろんだ」
「ありがたき幸せ。古く人の住んでいない洋館の秘密を暴いてほしいのです。もちろんそこにあった全ての物は貴方方がお持ち帰りいただいても構いません」
ニコリとマニが顔を崩して、
「良いだろう」
と言った。そして、私たちは洋館へと向かうことになった。
機構国
この大陸には存在しない国。
神の怒りを買って、暗澹たる世界に閉じ込められてしまった。
その世界には今もなおもっと多くの国があるそうだ。いつかきっと、その世界も救い出したい。
彼らが日の目を見れるように。
白髑
白い牛の角を模した武器。原核武器の一つ。
美しい白は神の使いとされ、ダラニで大切に扱われてきた。
湖の中から現れたとされる牛はまるで悪魔のようだったそうだ。
心を惹かれるこの武器は大きな見た目の割に軽く、だが確かな破壊力を持つ。
一つ疑問大きながあるとすれば、12の妖怪の名に、白鐸の名は無かったことだ。




