☆きっと私は英雄☆
部屋に戻ると一通の手紙があった。「なんだろう」と神様がつぶやいて封を破る。神様の肩に手を添えてのぞき込む少女は笑みが溢れていた。
手紙は湿っているのか音は鳴らず、紙が静かに出てきた。
ただその紙をすぐにテーブルに叩きつけ、残ったのは雫の滴った跡のある手紙だった。
手紙の内容を反芻する。
母の死。それはあの塔で見たものだった。滝のような勢いで疾走する神は止まること無くいつかの占い師のもとについていた。
神様が部屋を飛び出したのと同時に手紙の内容を脳が理解した。
差出人は父上からで期限の切れた葬儀の招待状が入っていた。
とっくに葬儀は終わっているらしい。
「ねぇ、どこに行くの?」
スキルを使って最高速度で走っているのに神様はどんどん離れていく。
「ここ」
視界が水で覆われたと同時に遥か遠くに神様が連れて行ってくれた。
「パウロ」
そう名を呼ぶとパウロもまた現れた。
「人華おめでとう。君たちもお疲れ様ね」
その君たちとはマリたちを指しているのだろう。
「……そう、ヴェレーノも進化したのね」
「なんのことかな? ボクも気がついてないんだけど」
ヴェレーノはまるで驚くこと無く、偽り続ける。
「幻猫は隠せないよ。黒い夢を、隠せてないもん」
"黒い夢"が比喩なのか、それともそういう言葉なのか私にはわからなかった。
「いやこんな話している場合じゃないんだった。早く会いに行こう」
そして会ったのは、
「黒を灯せたのか?」
いつまでも上からな占い師はそう聞いてきた。
「灯してきたよ。本題に入るね。塔で見たことが本当になったんだ」
そう言うと少し考えたあとに目を見開いて、
「お主ら塔を登ったじゃろう? 登ると未来を、地下へ行くと過去を見れるのじゃ」
その言葉で塔のことを思い出す。確かに螺旋階段を登った。
(行くのですか?)
(うん、行くよ。それとも、また──止めるの?)
そう伝えると一瞬黙って、
(……止めません。ただ、無事でありますように)
(大丈夫。私は英雄だからね)
(英雄……。きっと、つらいですよ)
(今まででも、じゅうぶん苦労したから。……変わらないよ)
そして黙っていたルーヴァ──ルーヴァリック──が、
(あら、貴女はいつの間に苦労してたの?)
(ずっとだよ。見てなかったの?)
(妹よりも? マラ、マリ、マル、ヴェレーノよりも?)
そして、
(貴女だけの、苦労?)
その言葉に唇を噛む。私だけの苦労だったのだろうか。
(私だけの苦労の瞬間もあったよ。ギルドに正式に入る前、私は一人だった)
(ギルドの仲間は?)
(────貴族の屋敷。スキル定着日のあと。思い出したくもないくらい、つらかった)
もしかしたらあの日、笑ってたのかもしれない。
でも、あれよりもひどい喪失感と絶望感は感じたことがない。
(英雄はきっと、屋敷に戻らないといけない時が来る。世界を救うにはあなたの父を)
(殺す必要があるから)
幻猫
妖猫から進化した姿。嘘を捨てた幻と言われている。
黒色のスキルを使うというが一人しか知らないから詳しいことはわからない。
それでも、とても美しい毛並みとそして心を持っている。月の昏さを感じる色だ。
『狂化人間型自立機械』の進化経路
騎体→衛体→人華→神化




