☆故い夢☆
『夢想ノ使者』の攻撃が地面をほとばしる。
「夢幻」
追い打ちをかけるように次々と攻撃が飛んでくる。
「神託 黒・双雷!」
黒い雷が『夢想ノ使者』に直撃する。
パウロが先行したようだ。直後に、
「能力 絢爛水舞!」
マニもまたスキルを使う。純粋たる水だと『夢想ノ使者』にダメージは入らないのかもしれない。
マニもそう感じたのか舌打ちをした。そして、シャイターンの部下の女性である、ヴァイスそしてシャイターンもまたスキルを使う。
「御蔭 雫蛇炎剣」
「夢望 黒・多影殺槍」
黒色の影なる槍が『夢想ノ使者』を突き刺す。ヴェレーノも、
「獣力 焔刃!」
スキルを使ってみんなに炎のエンチャントをつける。イオアンは、
「睡眠能力 神の恵み」
スキルを使って相手に天からの光の槍を突き刺す。
「夢幻」
相手の黒き炎を横に転がって避け、負けじと私も、
「皆さん逃げて!! 堕落能力 黒・料理屋!」
黒色の炎が手元に生まれる。それは渦を巻いてくるくると高速で回りながら『夢想ノ使者』にあたる。
「故夢 生命断」
サヴダシクの紅い剣が『夢想ノ使者』を斬り裂くが、すぐに煙が集まり身体が再生される。そして彼女は短刀を取り出す。幾度となく目の端に移してきたものだ。
「故夢 幻夢弓」
セレイアの弓もまた彼方へと飛んでいく。マルの獣力が続く。
「獣力 黒・甓黎」
それにマリが追撃を決める。地面が黒色に染まり、隆起するが、浮いているせいか全く当たっていない。
「獣力 獣雷」
マリの雷が落ちるが、思ったよりも効いているみたいだ。
それでも軽く動きがひるんだくらいだったが。
「堕落能力 黒・料理屋!!」
濁った水を創生してそれを弾幕のように撃ち続ける。
その水は明らかな威力を持っていた。その濁水に魅了される人が一人。
戦闘の最中だと言うのに『お姉ちゃん』の動きのみを目で追いかけていた。
「私は……」
黒が現れることはなかった。
シャイターンに聞いた、黒き炎の発露の条件は『精神の傷』。
穢れに飲まれまいと抗う力が"黒き炎"らしい。
じゃあ、この溢れ出るチカラは何なのだろうか。他に説明するものを知らない。
そして、なによりも、ダメージが非常に低い。それは焦りと無力感に自身を追いやる。
「私だって……、スキル 絢爛水舞!!」
絢爛なんて要らない。雅さも要らない。美しさだって求めない。ただ、洗い流せるような純正な水を。
だから、今は故い夢を。
漏れ出た泡沫が止めどなく滴るような、深い夢を。
マニのチカラを感じる。
(オリヴィア様!)
(オリヴィアちゃん!)
サヴダシクとセレイアの通信が同時にやってくる。
(彼女は聖に堕ちたようです)
"聖"か。彼女らしい、絢爛さがある。
(彼女を救って)
救うも何もあるのか? だって彼女はスキルを使っている。
「スキル 絢爛水舞」
『夢想ノ使者』に向かって水のヤイバを持ったマニが高速で接近する。
何かが違うのを察した。
『夢想ノ使者』の首を水のヤイバが斬る。
その隙にマルが、
「獣力 黒・甓黎!」
スキルを使い、地面から生えた岩の塊を『夢想ノ使者』の真上まで持って行く。
そこで斧に変形させ、落とす。
「夢望 黒・多影殺槍」
シャイターンが最後の攻撃を決めた、のだが、
「我は、水の神なり」
宙に浮いたマニが、水の塊を連射する。
危うく当たりそうになりながら避ける。
「どうしたの!?」
私はマニに向かって叫ぶ。
彼女は何も言わずに手を空へと伸ばす。
「我は神なり。それ故、汝に大罪の裁きを。聖遺物 蒼水ノ大槍」
水の大矢がイオアンを狙って打ち出される。
それを避けてスキルを使う。
「睡眠能力 神の恵み!」
雲の隙間から光の雨が降り注ぐ。地面に穴を開け、そしてマニにもあたる。
「傷つけないで!」
私はイオアンに向かってそう怒りをぶつける。
「バカか、お前は。このままだと死ぬのはアタシらだ」
その言葉でもう一度マニに向き合う。確かな殺意。
「……行きましょう」
パウロは翼を広げる。純白の羽が空気を押して飛び始める。
「神託 黒・双雷!!」
漆黒の雷がいくつも落ちてそれをマニは精密な動きで避ける。
「我は神なり。それ故、裁きを……、バスタードよ」
マニがそう言って空に浮く。
「堕落能力 黒・料理屋!」
黒き炎の球を創りそれを乱射する。それらは一点に向かって各々の道を辿って飛んでいく。
「獣力 黒・甓黎!」
私の足元に壁が作られそれを蹴ってマニに追いつけそうだ。
そして近場にヴァイスが、『御蔭 雫蛇炎剣』を打ってくれたおかげでマニの動きが鈍くなった。
「我は神なり。それ故、汝に罰を。聖遺物 蒼水ノ大槍」
マニを囲うような水のトゲを片刃剣で斬る。
「獣力────」
そんな時に、ドボンと沈んでいくマリの意識。
水中だ。不思議と苦しくない。
頬を撫でる水泡。
(ねぇ、そろそろどう?)
(なにが?)
白い光が見える。その声は聞き覚えがあって。
(あ、忘れた? 僕を、殺した人を)
(誰なの)
証拠がなかったはずだ。
(そんなの決まってるじゃないか。主だよ、オリヴィアだよ)
そうだったのか。
(なんで? もっと、慌てふためくのかと思ってた)
どうでもいい。
(僕が死んだのに?)
だって、お前はソコにいる。とても暗い場所に。
(ならよけいに、だろう?)
覚えていないんだ、私は。
(あいつは黒に染まった。お前は何色に……染まるんだろうな)
マリもまた、変わった。二人は厳しいのだが。
「獣力 血・獣雷」
朱色の雷。その雷はマリの手元で円盤状になり、それが飛んでいく。
「マリは嘘に騙されない。真実も興味ない。オリヴィアがいれば良いんだ」
声高に宣言したマリ。
「出てけ、オリヴィアが悲しむ」
雷の円盤は形を変えつつマニに当たる。
「オリ来て」
いきなり呼ばれて慌てて近づく。
私の片刃剣はあっという間に血雷を纏う。
「さあ、行こう」
マリの言葉に押されるように地面を蹴り、マニに近づく。
「我は神なり。それ故、汝に赦しを。聖遺物 蒼水ノ大槍」
赦しなのかは分からないが、すごい量の雫が空から滴り落ちる。
それは涙のように純粋な水であった。
「我は神なり。それ故、汝に祝福を。聖遺物 蒼水ノ大槍」
水のヴェールが私を包む。悪意のない、純粋な水。
「その体から出よ。お前は神ではない。力の権化だ」
雷を纏った片刃剣をしっかり握る。
涙が私の身体に触れた瞬間激痛が走る。
「睡眠能力 神の恵み!」
激痛を覆うように私の身体の異常が消える。
「夢望 黒・多影殺槍!」
黒色の鎖がマニの身体を拘束する。
ありがとう、と心のなかでつぶやく。
「獣力 黒・甓黎!!」
「獣力 焰刃!」
空に逃れたマニを追おうとした時に地面から岩の塊が出現し踏みやすいように変形する。
そして炎が蛇のようにうねりながらマニにまとわりつく。
「行くよ」
いつの間にか横に居たパウロの背に乗らせてもらう。
水を丁寧に避け、上に身動きを取れずにいるマニの身体を睨み続ける。
「神託 黒・双雷!!」
マニの体の原型を避けるように雷を落とすが、やはり躊躇いがある。
「任せて。私が、妹を助けるんだ」
「はい、任せます」
サヴダシクは命を断ち切る。だから今回はあまり活躍の機会がなかった。
そしてセレイアは私のもとに帰ってきていた。ルーヴァリックも任務を終えたのか勝手に帰ってきている。
────『剣欄 朱雷ノ星鳴』────
朱色の雷が迸り、マニの中に入り込む。
水にとらわれた彼女に話しかける。
「帰ろう」
「ねぇ、私、疲れた」
赤ちゃんのような妹が動くたびに水の鎖が鈍い音を立てる。
「待ってて」
片刃剣がその水の鎖を断ち切る。
「お姉ちゃん」
手に残った水の枷が私の背中に当たる。
とても重く、堅いものだった。
「帰りたい」
後ろに現れた水の塊が巨人の形になる。
「五輪能力 掃除屋」
水を風で散らす。
「出よう」
血
血を制するスキルの総称。とてつもない熱を持つ。
赤は肉体を傷つけ、黑は魂を傷つける。そして朱は精神を傷つけるのだ。
その性質ゆえ、天使や堕霊にもダメージを与える。それは神性の賜物であろう。
神性の賜物はすなわち神の罰であり、世の混沌を映し出す。
美しい朱色の血はきっと世界を塗り替える。その朱の原料は全てを忘れた哀れな獣のスキルになるのだ。
『夢想ノ使者』
異世界からやってきたとされる存在。
永遠に闇を彷徨う。
『夢想ノ使者』は人間だという説もあるが、実態はまるでわからない。
彼なのか彼女なのかすらわからず『夢想ノ使者』としか呼びようがない。
顔などの区別がつかず、部位弱点もない。
『夢想ノ使者』のスキルはまるでわからない。機械的に人を殺すのみだ。
だが、安心するが良い。
黒い炎使いが『夢想ノ使者』を葬り、新たなヒカリを齎したのだから。




