☆広がる波紋☆
炎を灯した塔で見たことはにわかには信じがたいものばかりだった。
どの景色もまだ見ていない。それが過去? バカにしている。
「これ、過去かな」
ヴェレーノもそう言っていたから騙されていたという疑惑に拍車がかかった。
「アタイにもこんな過去ない」
荒廃した地と化したステージ。母の死。パウロやマニの死。ヴェラとの戦争では土地や森が荒れたが一面が灰色になることはなかった。
その全ては敗北と密接に関わっていた。こんな過去などあるものか。
ついこの間実家への招待状を破棄したばかりだ。死んでいるわけもない。
鮮明にこびりついた母の死。先にそのシーンが浮かんで来たせいか。
そして船が着港する音が響いた。
ここに来るまでもかなり時間かかったもん。ステージ行きの船の着港の時間が来たみたい。
「帰ろう」
「姉ちゃん、あれって、なんなんだろうね。あの人が死ぬとか出来の悪い冗談だよ」
本当にその通りだ。
あの人が周りの人に恨みを買うわけがない。私も恨みきれてないんだ。
今でも母に謝りたいと思っている。抱きしめてほしいと思っている。
「今から急げばあの船に乗れるぞ」
ラミエルが私たちにそういう。
「大丈夫。こんなの信じないし、私たちはこの島についていろいろと考える必要があると思う」
ラミエルは分かったのか分からなかったのが曖昧な笑みを浮かべている。
そして何日かかけて街にやってきた。行きより日数がかかったのは内緒にしておこう。
二つ、ギルドの前で噂話を聞いた。
1つ目は内容は『ミリヌの国の王族に婚外子がいたらしい』というものだ。
ミリヌとは北方に位置する一番大きな国である。帝王ミリヌ家が支配する国だ。
ミリヌ家は全てに長ける欲張り一家であるそうだ。
(ミリヌ家ですか、不穏ですね)
おしゃべりサヴダシクが私に話しかけてきた。
(なんで?)
(こんなところ孤島まで噂が広まるということはかなり大きな話題性があるということでしょう。帰国したら話を聞くといいかもしれないです)
まあ確かに。このあたりよりもステージのほうが知っている人も多そうだ。
そんな噂のことは覚えていたら聞こう、と考えることをやめる。
そして2つ目は『新たな法律』についてだ。これは既に施行されていて、その内容は増税そして、兵役の完全義務化、堕霊信仰のさらなる弾圧。
兵役の完全義務化はどんな事情があろうとも成人すれば軍に属される。防衛、生産、攻撃の3分割されるようだ。
そして、堕霊信仰の勧誘、集合、礼拝などをした際にはその場で殺せる、というものだ。
とんでもない法案である。
「あら、アナタはオリヴィアさん?」
もんもんと考えていた時に後ろから声をかけられて振り向く。後ろからチャキンという音が聞こえた気がする。
「シャータインさん……?」
「あれは偽名だわ。アタシの名はシャイターン」
「あなたね、姉さんに刺客を送り込んだのは」
マニがいきなりそう問い詰める。私はいつも敵を倒しているせいで誰のことかすぐにはわからなかった。
ん、待てよ。そういえば1人いたかも。
「『宝刀を返せ』って人?」
「ふ〜ん、気づくんだ。そうだよ、彼」
「言っちゃっていいんですか!?」
「うん、どっちにしろ後ろの有名人さんにはバレてるよ。私たちがヴェラの人だってね」
有名人さん、つまりイオアンは気が付いていたらしい。
ていうかコイツらヴェラの人なの!?
「恨んでるでしょう? だから隠しておこうかと思って前は言わなかったのよ」
ヴェラを恨んでいるか? 2択ならば恨んではいない。
身内に死傷者はいないし、私が死にかけたのも恨むほどではない。
何しろあそこでいろいろな戦闘を学んだ。
「私は恨んでない」
「そう。アタシのことは?」
私が答えることにためらっていると、横からイオアンが
「アンタは暗殺者だろう? 暗殺騎士だ」
それを聞きシャイターンは笑う。
「よく知っているな。アタシの暗器にも気がついているな」
「アタイを買いかぶり過ぎだ」
明らかなウソを付くイオアン。そして自ら暗器の存在を仄めかすシャイターン。
「夢望 黒・多影殺槍」
それは私のスキルで歯が立つかどうか。
黒く染まった槍がイオアンを狙って伸びる。
「睡眠能力 神の恵み」
それを容易く砕く。
「アナタ強いね。それを隠してるんだ」
「ほう、アンタも十分だろう」
その二人の間には社交辞令しか含まれておらず、すべての気持ちを飲み込んでいるのだろう。
「アナタはどうしてあんなやつを送り込んできたの?」
「ルタだろう? ルタは私が教えてやった情報を誤認して先走ったんだ。アタシは知らないよ」
ルタという彼が言っていた言葉を思い出す。
「『妖器』ってなに?」
「そうね、『妖器』というのは『妖怪武器』のこと。穢血を断ち、そして求めるもの。12個あるそれらには全てに妖怪の力が封印されているとされるの」
それが『妖器』なんだ。てっきり使用者の力を奪い取るみたいな呪具のようなものかと思ってた。
「えぇとても近いわ」
なんと。シャイターンには人の心を読む力まであるようだ。
「使用者を魅了し、戦地へ送り込み血を求める。いかにも妖しい武器なの」
その時、けたたましいサイレンが鳴り響く。
『封印の決壊が確認されました。急いで避難してください』
その機械的なアナウンスで逃げ惑う人々。
「ふむ、どうやら争っている場合ではないな。ギルドへ行ってみようか」
イオアンがそういう。
そして私達はギルドへ向かうことになった。
北の大国であるミリヌ帝国では。
密会が行われていた。それは秘密国会の略称であり、そこで基本方針以外を決める。
表向きは民主主義のこの国だが、根幹はやはり帝国主義である。
強大なチカラを確保し、世界を牽制し続け、この世界の民は皆恐れていた。
反論して逆鱗に触れれば国は滅びる。大規模爆撃を行われてしまうのだ。
「財政官、うまく行っているのか?」
呼ばれた財政官は静かに立ち上がり、
「はい、おおむね」
「『おおむね』、とな?」
渋い顔をして聞き返す若き帝王に、
「税が足りぬのです。貴族の納税額の減りがひどく……」
ゆっくりと苦虫を噛み潰したようにいった。
「なぜだ」
「はい。免税商品をうまく使って税を逃れているようです」
詳しい話を聞くと、貴族と商人のあいだで免税商品である小麦や米の袋の中に詰めた高税率商品を詰め込む。
米や小麦などの食品は目視検査のみというルールの穴を突いたものだった。
「貴族税の増税は?」
「それも検討していますが、反感を買う可能性も」
「『それも』? 他にもあるのか」
「はい。目視検査から開封検査、触覚検査を行うことや、新たな税の導入。そして支出の減額が挙げられます」
帝王は唸る。
彼は幼くして天才と呼ばれるような知識を有している。だがそれを応用できるほどの経験がなかった。だから、返事もまた決まっていた。
「その一部を審議しよう。支出の減額だけは今我は決められないゆえ」
そして財政官は着席する。
「増税と検査の厳重化は仕方ないだろう」
それは経済をあまり知らぬゆえのミスであった。
書物で得た知識だけでは実際の影響など分かるはずもないのだ。
目先の資金源のみを見て決める。
「そして次だ。防衛官は?」
そして次は軍服を着た偉そうなおじさんが立ち上がって告げた。
「はい。軍事演習をおえ、初等兵士の訓練を中心として活動しました」
軍事演習とは模擬戦でなどあり、軍事力を見せつけるために『軍国祭り』を行う。
『軍国祭り』では最新鋭の武器の試し撃ちや闘技大会などである。
「ミッションはどうなった?」
「それですか……。なんとか仲間が見つけたのですが、嘲笑うかのように目の前で消えたのです」
目的を知らぬ他の者たちは黙っている。
「仕方あるまいか」
落胆した様子の若き帝王にむけて思い出したように、
「しかし、マーサ家の娘が持つとか」
そしてまたこの世界に戦乱が訪れる。
一人の少女と、穢れた男を中心として。その結末は神すら知らないだろう。
天界ガルニア。
ここでは二人の密会が行われていた。深雷ノ五輪と聖神である。
美しい唇を深雷ノ五輪の頬に当てる。そしてつぶやく。
「君にはまた雷国に行ってほしい。君の忠実なるシモベだ。君の姿を見せてやらないと」
その言葉一つ一つが深雷ノ五輪の心に響き、癒されていく。
それは洗脳とも言えるほどの効果を持つ聖神の『神ノ摂理 魅惑ノ甘言』によるものだった。
「……はい」
深雷ノ五輪の意志などありはしない。
ただ純粋に聖神を信じ、従うのだ。
蒼い炎
黒き炎への変化中の色。炎を操るスキルが黒に染まるとこの変色がおこなわれていく。
その炎は僅かに血を求める悪意が宿る。それはかつて効率よく人を殺そうとしたゆえだ。
蒼はとても良い。みんなと違うものが好きなのだ。
暗殺騎士
暗殺を主とするヴェラの騎士団のこと。
その存在は完全に秘匿されていたはずだった。だが敗戦し滅びたヴェラからステージが統治を始めるとそのデータが見つかった。
それはとても強い三刺の騎士によって。三色の騎士が去った後には一つの穴が二つの穴が遺体から見つかる。
三刺の騎士は、伝説は案外身近にあるのだ。身近でなければそんなことを知るはずがないのだから。
夢望 黒・多影殺槍
シャイターンのスキル。神を信じそれは一時神に託された。
だが今となっては醜く染まっている。それは堕霊を宿したからだ。
堕霊の管理化に置かれたスキルは堕ち進化する。
スキルの数だけ天使や堕霊を宿せる。それはそれぞれのスキルを触媒にするからだ。
だからシャイターンは唯一のこの夢望を堕霊に捧げた。
それは確かに希望となった。
睡眠能力 神の恵み
イオアンのスキル。今は眠る。
このスキルは光を操り、五輪までは行かずとも上位天使を宿した故に進化した。
だが二つ進化しているこのスキルは異端とも言える。
中位天使を宿した故だ。そして眠るとき一つのスキルを吸収した。そのときにもう一人の中位天使を得たのだろう。
全くスキルとは不思議である。
神ノ摂理 魅惑ノ甘言
聖なる神のスキル。全ての属性を有する。
遥か古代より生きる彼にとって時間とは苦痛であった。
そのうちにスキルは磨かれていった。故に彼は孤独である。
忠実ではない部下を作ってなお勝手に補正されるこのスキルは悪夢だったろう。
彼はただ強者に出会い、殺してほしいと願う。それに足り得るチカラを得たら解放させてあげるといい。




