☆貴方の色☆
「「「付与 黒」」」
各々の武器に黒色の光が付着する。
(ルーヴァリック、サヴダシク出れる?)
(すみません。今、私は堕霊の国にいるので無理です)
こいつ……と思ったがまあ仕方あるまい。
(大丈夫ですよ)
現れたルーヴァリックは深々と私に例をした後、値踏みをするように6人の中位堕霊を見る。
「では、楽しみましょうか! 聖遺霊 聖炎ノ溶戮」
六本の槍が創られる。それが中位堕霊に向かって伸びるのだ。
「クソ……」
当たりはしなかったが、中位堕霊に大きなストレスを与えることはできそうだ。
「五輪能力 掃除屋」
風が中位堕霊の腕を斬り落とす。
「お前……」
もう片方の腕で私に殴りかかってくる。だが、なぜだろうか。まったく怖くない。
その理由はきっと、弱いからだ。力に驕っただけの質の悪い強さ。
それはあまりにも幼稚な強さである。
飛んできた拳を素直に受ける。変に防御するくらいなら食らったほうが効率がいい。
「痛くない。マニのほうがよっぽど痛かった」
思い出すあの手のひら。
そして私は拳に風をまとわせて殴り返す。人を殴る嫌な感触が手を包む。
「ねぇ恨んでる?」
「まさか」
聞こえていたようだ。見え透いた虎の尾を踏むなどバカげている。
「まあ良いや。能力 絢爛水舞」
水は黒く濁っていてそれになぜか心が揺れる。
────なんでだろう、私の心の底から力が溢れるのを感じる。
マニ、と名前を呼ばれても上の空で自分の力の制御に精一杯だ。
絢爛さを纏って、雅さをを忘れず、美しさに気を使え、そして体面を保ち続けろ。だって、私は貴族だ────。
(耐えて)
ヨダレを拭う。心から溢れ出るナニかを奥へと押し込む。
「神託 黒・双雷」
パウロの黑は堕霊をどんどん大きなダメージを与えていく。
「睡眠能力 神の恵み」
イオアンがスキルで堕霊の動きを封じて頭を正確に射抜く。そこにラミエルが雷を落とすが、あまり効いていないようだ。
「獣力 黒・甓黎!!」
マルの黑は止まった堕霊らの地面から手を創製して握りつぶす。
「パウロさん!!」
「分かったわ。神託 黒・双雷!!」
なんで、美しいのだろうか。
黒い稲妻が一つ落ちたら堕霊は消えていた。
一瞬で終えた戦闘。彼らはスキルに頼り切った戦闘をしていたのか、完封できた。
一度も武器を取り出すような仕草はしなかったし、おそらくそういうことだ。
そしていきなりイオアンが振り向いてパウロに話しかけた。
「パウロだったか。キミは、貴族の子か? 王族の子か?」
「え……」
パウロはしどろもどろになっている。
「なぜ、羽根を持つのだ?」
パウロは俯く。隠していたのにバレていたのか。
「パウロは『狂化人間型自立機械』です。ヴェラで出会って仲良くなりました」
イオアンを睨むように見ながらマニがそういった。
「なるほどな。嫌なことを言ったな、すまない」
イオアンは素直にパウロに謝罪した。
「大丈夫ですよ」
そして私たちは帰路についた。
ギルドに戻った私たちに歓声が上がった。
「『異国の救世者』だ!」
その声で一気に視線が私たちに注がれる。
「すげぇ!!」
「『六魔』を倒して帰還だって!?」
うぉお!となぜか盛り上がっている。イオアンは慣れているのか手を振っていた。
「本当に、お疲れ様でした。遅れましたが、これが竜討伐の分です」
手のひらに乗る小袋が50個。すべてに10枚の金貨が入っている。
「イオアン本当にいらないの?」
私は一応そう聞いておく。
「いらないよ」
要らないのか。
「一袋持っていくと良い。割り切れないのだ」
ラミエルがイオアンに一つ押し付ける。
「いいのか?」
「良いに決まってるじゃないですか。えっと、49袋だから、1人5袋だったら36袋かな? いや35個か? 1人、ん〜と、あ、7個だぁ!!」
マニがそう言って自分の分の7袋を取る。
「そうか」
ラミエルもまた7個取る。
そしてみんなが7個ずつ手に入れた後また新しい任務を言われるはずだ。
「後でステージ行きの船が入港します。帰国されますか?」
「なんで?」
私はすかさずそう聞く。
「またしばらくは来ないので少ないチャンスですよ。貴方がたは力を持つものですし」
ふむ、どうしようか?
「アタイは構わないぞ」
「ぼくもだな」
「マニも」
ハッとしているが気付かないふりをしてやろう。可愛いやつだ。
睨まれた気がするが知らぬようだ。それはご褒美にもなりうると。
「じゃあまだ滞在でしていてもいい?」
「はい、もちろんです」
そういえば私たちは国賓待遇に近いためホテルは良いものに泊まらさせてもらっている。
「では新任務をお願いしてもよろしいですか?」
「うん」
「まずは記憶流れについて詳しいところへ案内します」
そしていま私は知らない占い師に診てもらっている。
「あなたには知らぬ過去があるようじゃ」
「はぁ……?」
いきなりスピリチュアルな話になった。
「関わってはいけぬ娘と交わっておる。もしお主が禁忌を犯す覚悟を持つのなら魔塔に案内しよう」
『関わってはいけぬ娘』?
(ダメです、貴女様は耐えられない)
(どうしたの?)
(私は、悪くないです)
本当にどうしたのだろうか。
震えている声色が脳に響く。
(黒く、ならないで)
その訴えはとても繊細だ。まるで少女のような。
「でも、私は行きたい。行かないと後悔しそうなんだ」
胸のつっかえはさらに酷くなる。
悪寒がする。その理由なんて分からないし気づけないだろう。
(そう、なら覚悟して、堪えて、堪えて、我慢して……、死なないで)
祈るような、願うような不安そうなそれに私の心に触れる。溢れそうなものを表に出さない。
「死ぬな」
しわくちゃの顔の奥に隠れる瞳は真っ直ぐ私の心を見つめているようだ。
「アンタは強い。無理をしてきた強さだ。鉄の人間だ」
そして子どもを見守るような優しい表情を浮かべて、
「貴方の色を灯せ。島を救うために」
ドゥームの貴族会議にて。
机をたたき勢いよく起立する貴族。
「ドッチ伯爵。どうされましたか」
「どうされましたか、だって?」
憤慨するドッチ。彼の名前はニルク・ドッチという。
国土運営などを任される重鎮だ。彼の態度に文句を言える立場の人間など数えるほどしかいない。
「あり得ない。あれ程民も兵も失ってなおまだ懲りぬのか」
その言葉を鼻で笑って偉そうに立ち上がる枢機卿。
「だからこそだよ。お主はなにもわかってない」
議長は冷静でその態度から普段からこういう会議になっているのが分かる。
「氷の神様に我等は従えばよいのだ。我等は純正な氷民なのだ!!」
歯を食いしばるドッチ伯爵。
ドゥーム──正式名称をドゥーム教王国──は王は機械的に許諾を出すだけだ。
すべての政治に関するものを貴族そして特に宗教の使徒に頼る。
ダイス教のサン派は滞氷ノ五輪を信仰する。
「氷の神様を失望させるではない」
形骸化した王政は頼りにならない。
「失望させるのはどっちなのですか。争いを望むような神なのですか」
「愚弄するか」
彼の怒りをひしひしと感じる。
「だから、愚弄しているのは貴方です。調停の神を信仰する我らが争いを生むなど断じてあってはならない、そうは思わないのですか?」
激昂するかと思ったが、案外調子を変えずに
「美しい、器よな。しかし、それを並べたとて正義とは絵柄が違うのだ。作者が違うのだ」
グラスに入った飲み物をまるで高級ワインのように扱う。
「私とて争いは望まぬ。それは全てを統べることを是とする北の国の得意分野だろう」
彼は大袈裟な動きを取りながらその液体を口に含む。
若い枢機卿なのに知識に富むのはとても厄介だ。
「だが、われらの土地を占領する羽虫を駆逐せねばならぬのだ」
彼がグラスを置くとすぐに側近が飲み物を足す。
「ふむ、とても良い氷だ」
ゆっくりとドッチ伯爵に近づきながらそういう。
「だからそれを溶かさぬように。準備をしろ、そして勝利を捧げるのだ」
短い返事が一瞬でこの広い部屋を満たしてすぐに消えるのだった。
その少し前、ルトナ公爵は酒で鈍った頭で考える。
この国の脅威を破格の安さで請け負ってくれたイオアンとやらに塔の攻略もさせてしまおう。
どうせ死んでもいい人間だ。
国民は黙って税を納めていれば良いのだから必要な人間などいない。
政府がないこの国で立法も裁判も税収もすべてが公爵の思うがままだ。
裏金などする必要もない。みなが恐れ、慄き、最大限のおもてなしを提供してくれる。
そしてそのままギルドにその話を送りつけるのだ。
ここはステージ王国の三大貴族が一つ。邸宅の私室にて。
「部屋で休んでいるといい」
ベッドから出てバスローブを着ながら妻にそういう。そしてその妻は軽く会釈をしてそのまま部屋から出ていく。
ひとときを終えて彼は決める。
(婚外子がなにしようか、なにをしてくるかはわからぬ。だがそろそろ聖血を纏いに行こうか)
そして聖なる血を纏うために彼は貪欲に動く。
彼の行動を正当化するような盤面を用意せねばならない。
(さあ時は頃合い。俺はきっと神と世界を制する)
逸る心を静めながら一生をかけた戦乱の世がまたやって来るのだ。
付与 黒
対堕霊特攻を武器に付与するスキル。どのスキルにも属する故にどのスキルでも発動が可能となる。
堕霊に対抗する術をようやく見つけた。いや、人間は見つけてしまった。
堕霊に立ち向かい死んでいく人も増えた。武器も満足に使えぬくせにそんなものを使うから。
聖血
希望を穢れから見出したもの。
これを纏えば髪をも凌駕し得る。だが、それ相応の代償を伴う。
聖血は主に言う。愛するものを殺すのだ。さすればきっと能力は開花し、覚醒を与えられる、と。
これを壊すには妖器が必要である。だが妖器は大戦で散った。そして黒も非常に有効だ。
魔塔
妖器が封印されているとされる塔。
その力なのかは分からないが、時空をゆがめているようだ。
それに入ればきっと世界に黑が降る。
それは色々なものが寄り憑き堕霊とも関するそうだ。
それはきっと恐ろしい理由を持っている故なのだろう。そう感じるものだった。
五輪
天使の中でも最上位に属する生命の概念を持たぬモノ。
彼らはただ聖神と呼ばれる頂点の命令のみを聞く。
五輪は内政に干渉するようなことはほとんどない。ただ1人を除いて。
その中でも最も聖神に気に入られているのは雷だ。
勝手に信じていれば良いのだ。それだけで救いになりうるのなら。




