☆赦せぬ☆
サクッと処刑したサヴダシクは恍惚の表情を浮かべながら主様に戻ろうとする。
「ま、まってくれ!」
そんな大事なところを邪魔されたのは不愉快であった。ただシャイターンはサヴダシクのことを、そしてなによりもオリヴィア様のことを理解していたのだ。
それは敬意であり、恐怖でもあった。
「なんだ?」
尊大な態度でそういう。
そういえばシャイターンは元スパイだったはずだ、と思い出す。
この芽は摘むべきか、思考を重ねていく。
「あなた様は、なぜ彼女に────」
とてもいい質問だ。
語り切ることはできないだろうが、シャイターンの言葉を遮るように、
「家出をして、見つけたの。オリヴィア様はとても儚かった。だけどね、見つけてしまったの。穢血を灼く炎をね」
穢血。堕霊はこれを嫌う。すべての元凶なのだから。だが手を出すことはなかった。
この血を、禍根を断つにはやはり根源を絶たねばならない。
それをオリヴィアから見出したのだ。
「それは、彼女の魅力に関するのですか」
魅惑と魅了。そして魅力。どれも似ているが全くの別物である。
『魅惑』は人を惹きつけるモノのこと。
『魅了』は人を惹きつけること。
『魅力』は人を惹きつける力のこと。
「実に素晴らしい着眼点を持っているわ。そうね、魅力というのは対人間において持っているだけで良いわ」
それに続いて、
「犬だろうと猫だろうと魚だろうと、人間への『魅力』を持っているわ。だから保護したいと錯覚させられるのよ」
少なからずみな持っている『魅力』。
人によってはそのチカラを欲するし人によってはそれを嫌う。
「あなたを気に入ったから一つだけ言っておくわ。『愛』は危険よ」
『愛』は危険。これはどういう意味なのかシャイターンには分からなかった。
その様子を少し残念そうにしながらサヴダシクは去っていった。
魔物の巣の内部。
多くの魔物がいるのかと思っていたが、思ったよりいない。
纏った炎は血を求めているのにそれを満たせぬのだ。
「お前はもうすでに、人間ではない」
後ろから現れたのは天使であった。
「失礼だね」
私は振り向いてそういった。
カタナを持ち直して何が来ても良いようにする。
「すまないね、失言だった」
彼からはあまり力を感じなかった。
だけどその意思の強さは上位帯の存在の証拠だ。
「いいよ、許す」
私はそう伝える。
「ふん、君は腹立つやつだね。あいつが気にする理由もわかる。類は友を呼ぶからね」
天使は本来倒すべきではない。
特に倒しても何も得るものがないからだ。
さらに天使を信仰する人も多く、その人たちはとてもしつこいことで有名である。
だけど、私はいま八つ当たりしたくてしょうがない。
「有翼人の仲間が居たな。随分お似合いだ」
「それは褒めてる?」
片刃剣に武器を交換する。エンチャントを若干かけづらいという欠点があり、弱い魔物くらいなら元々使っていて手に馴染んでいる武器のほうが使いやすいのだ。
「まさか。有翼人が褒め言葉だと思う? パウロだっけ、彼女の名前」
八つ当たりではなくなったようだ。
私は正当な理由を持ってこいつを殺せる。
「有翼人が悪口だとは思っていないよ。その言葉にある悪意が許せないんだ」
私の言葉に薄ら笑いを浮かべている。
「貴族だったとは思えないね。まあだからあんな理由で勘当されたんだろうけど」
その言葉の中にも嘲笑が混じっている。
「どうでもいい」
「怒っちゃった? 醜悪な羽根の生えた化け物。身体も弄られたんでしょ」
私の身体はいつの間にか天使の背後に回っていた。
「貴族の汚物は醜いお友達と組んでれば良いんだよ」
そして遅れて闇が炸裂した。
それはあっという間に天使に大きなダメージを与える。
「嗚呼、本当に穢らわしい」
憎悪に満ちた声とともにその闇の中から現れた天使の肌は爛れ侮蔑の表情は怒りに変わっていた。
そして持っているのは黒い刃に美しい装飾がなされている。そして幅のあるブレード。
そして何やら文字が刻まれているようだ。
「これを使うとはね。妖怪武器を」
自慢げな言葉を言い放っている。妖艶なヤイバは私に殺意を抱いている。
「黙ってくれない? アナタは私の友達をバカにしたんだ」
「──そう。聖力 聖なる力」
私は軽く斬りかかるが、それを簡単に弾かれる。
まあそれも当然だと思い、次の一手を考える。
普段は相手に引っ張られるような戦闘であったが、強くなるにはそれも変えなければならない。
自分で戦闘を作っていくという新たな境地。
「五輪能力 掃除屋」
風を起こしてその風を刃状にする。それを飛ばすがどれも決定打にはならない。
肌の傷もどんどん癒えていく。
「三権能力 料理屋!!」
蒼い炎を片刃剣が纏う。それはまさに星の色のようだった。
「蒼……そうか」
独り言をつぶやいてそのまま切りかかってきた。
その攻撃すべてに全身の力を感じる。鍛錬の時間などいくらでもあるのだろう。それが長命のメリットだ。
だが、型が古くなりやすく、対策されている可能性もある。
それは剣術だけでなく、スキルの使い方などにも影響する。煙幕や感知断絶といった搦め手をメインとした戦術は最近になって作られたものだ。
そうすれば強者とも渡り合えるのだ。弱者と強者が乖離したこの世界で。
「そりゃ二つなわけだ」
「どういうこと?」
私は片刃剣で斬りかかる。
その軌道に蒼い炎が一瞬見えてすぐに消える。
それをさらに大きく避けて反撃をされるがそれも炎で防ぐ。
そのまま炎は天使を追いかける。それは執拗に。
「お前喋らせる気ないだろ」
「あら、なんのこと?」
私はとぼけつつ着実に天使に炎を当てて体力を消耗させる。
炎は傷口で燻って少しながらも継続的に天使に疲弊をさせていく。
天使は魔力を削りきければ倒せる。
なぜなら魔力で存在を維持しているからだ。魂を魔力で覆うことでその存在を保つ。魔力がなくなれば保護できなくなり、その存在は拡散され消える。
今度は片刃剣で直接斬りかかる。
「さあ、もう終わらせよう。私は辟易しているんだ」
「聖力 聖なる力!!」
私に向けて放たれたその光を片刃剣で斬り裂く。
悔しそうな表情を浮かべて、
「聖力 聖なる力!!」
光の散弾を飛ばしてくる。
その全てを避けきり、
「私は掃除が得意なんだ」
「は─────?」
天使の耳元でそう言ってやる。
そのまま純白の羽を斬り、胴も斬る。
「遅いよ」
私は跪いたサヴダシクに向けてそう言う。
「申し訳ございません」
彼女は私の言葉全てを堪能しているようだった。無敵の存在だ。
「まあいいや。戻っておいで」
サヴダシクに抱きついてそのまま私の中へと返す。
そしてこの部屋でやることを終える。
マルは狂っていた。
家族を失って危うく敬愛するオリヴィアすら失うところだった。
そんなときにマルとパウロだけを連れてこんな場所に来た。
マニューバでも連れてこれば良かった。彼女がいたらここまで苦戦せずにオリヴィアのところへ応戦に行けたのに。
「獣力発動」
そのスキルにはマラの影がこびり付いていた。
迫りくる魔物をみんな倒して狂気の表情を浮かべている。
「ルーヴァリックだっけ? アンタが俺を案内しろ」
高圧的なその態度はもう仲間を失いたくないという強い気持ちが見え隠れしていた。
「まかせろ」
炎を使って彼はオリヴィアの元へと近づいていく。
それを追いかけながら敵を倒していくマル。
「獣力 黒・甓黎」
岩の塊を召喚してそれを次々に爆発させていく。
何分か走った。ついにマルにもオリヴィアを感知できた。
(どういうことだ? 完全に、変わっていらっしゃる)
オリヴィアはより強くなっていた。
壁をぶち壊してオリヴィアを見つける。
「マル! 無事だったんだね、よかった!!」
オリヴィアは走ってマルに抱きつく。
その喜びをかみしめつつ、
「オリヴィアこそ、無事でよかったよ」
と言う。
そして僅差で逆から壁が砕かれた。
「オリヴィア様!」
オリヴィアはルーヴァリックを回収しながらその開いた穴の方を見る。
そこにいたのはパウロであった。
「パウロ!!」
パウロの後ろには助けきれなかった商団たちが居た。
「ひどい目に遭ったね。帰ろうか」
大きな歓声が沸き上がり、勝利を皆が感じている。
みんなで馬車に乗り込み、商団長を忘れていたことを思い出し捕まえてくる。
長かった屋敷生活も終わりを告げた。
「おかえりなさいませ、バス様」
家の執事の青年が私に向かってそういった。
ニヤニヤとしたその目つき遠くに見え隠れしているバカにした感情。
「お風呂にしますか?」
なぜ私は帰ってきたのだろうか。こんな、クソみたいな家に。
天使のスキル変化
霊力→聖力→聖遺霊→神ノ御力
五輪能力 掃除屋
1、全ての付着物を取り除く。それは物体に限らない。
2、家事全般を道具なしで出来る。
3、物を一時的に亜空間に入れられる。
4、風や水を操る。
5、堕霊へのダメージを上昇させる。
6、傷を癒す。それは接続も含む。さらに人体に限らない。ただ、失った手足を再生することはできない。
三権能力 料理屋
1、包丁や、ナイフ、フォーク、スプーン、皿を自由に創造する。
2、水や炎を操る。
3、モノを自在に斬る。それは、魔力が自分と同等以下な人や物を含む。
4、モノを自在に作る。人の場合は魂を利用して蘇生させる。ただそれは一定以上の関係を築いていなければならず、生来の身体を必要とする。
5、一度見た敵の動きを模倣する。ただ威力は下がる。スキルは含まない。
6、天使へのダメージを上昇させる。
求血の刃
相手にダメージを与えた際に多くの血液を奪う。
血を奪えば多くの命は抗えずに落としていく。それは崇高な血に辿り着くためだろう。
もしかすると奪えぬ血もあるかもしれない。きっと集めるべきではない血なのだろう。そう捉えた。
妖怪武器
別名、妖器である。
ダラニで作られたそれらは高性能を誇るそうだ。
妖狐、大蛇、猫又、木霊、鵺、河童、天狗、海坊主、鳴釜、そして鬼が3つの名を持つ。
それらが各々に対応した性能を持つと言い伝えられていたが、よくわかっていない。
妖怪は本当に存在するのか。それは案外拍子抜けの正体だった。




