☆臭い☆
勢いよく開く扉。山のように重ねられた死体の上で横たわる一人の女性。
「やっぱりあの臭いは……」
猛烈な臭いに鼻が叫んでいる。
腐ったまま放置された死体はみな裸でほとんど原形をとどめていなかった。唯一、それだけ原型を保っていた。
「ここだったのか────」
浴場のすぐ近く。
あの臭いの正体になぜ気が付かなかったのか。
あれだけ嗅いだだろう。私が向かう先には常に死がついてきていた。
その臭いは、感覚は、気持ちは癒えぬ傷となっていたというのに。
一刻も早くここを潰しておこう。
ダメだ、私の心が叫んでいた。殺させろ、と。正当な理由など無いかもしれない。
特に意識せずに手元に燃え盛る炎の剣を握っていた。
本能に身を委ねるのは危険だ。私は冷静になろうと足音のなる方へ視線を向ける。
「助かる」
溢れんばかりの怒りはなぜ湧いてきたのかは分からない。
挨拶すらしていない、他人が死んでいるだけなのに。
隠し部屋を見つけたせいか、若しくは確認しに来たのかは分からないが大量にやってきた護衛兵。
なぜここまでの人員を抱えているのか?
そんなのを気にしている場合ではないか。
私は飛んで近づいて炎を振るう。
『斬る』のではなく『灼く』といった感じだ。だから血が飛ぶこともない。それは斬られるよりもよほど痛いのだろう。無様だ。
見える敵はみんな倒して着地する。炎はさらに燃え上がり煌々と部屋を照らしている。
すぐ飛び出したせいでパウロやシャータインが暴れる機会がなくなってしまった。
「ごめん、次は戦っていいよ」
私が気を使って言うと、
「すまないな。アタシは戦闘が苦手なんだ」
といわれてしまった。
謙遜も良いところだろう。
なんらかの理由であまり手の内を見せたくないと捉えたほうが良いかもしれない。
「でも襲われるよ。最低限の身は守ってね」
私は前を向いたままそう伝える。
そしてサヴダシクに聞く。
(ねぇ、ボスはどこにいる?)
一拍おいてサヴダシクの返答が来る。
(そうですね、ナビゲーションは任せてください)
その頼もしい言葉に従おう。
私が進むべき道を教えてくれる。私にパウロとシャータインが追ってくれる。
現れる敵を、魔物を斬って倒しながら前進していく。
そして怪しい扉の前に立っていた。さっきとはまた違う嫌な臭いが鼻を突き刺す。
「お待ちしておりましたよ、客人様」
ゆっくりと扉が開き臭いがきつくなる。
換気が十分にされずに空気がとどまっているのが分かる。
「覚悟はしてるんだよね」
私は一応聞く。
コイツが目の前にいるだけで腹立たしい。
年齢以上に老けているのだろう。傲慢な態度が癪に障る。
「ドゥフェフェフェフェ」
笑っているが、彼の目は私を捉え続けていた。
「あぁそうでした。ソイと言う名のお主のお仲間は────」
後ろにいたはずのシャータインはいつの間にか彼の背後に回り鋭い一撃を放っていた。
グサッと刺さったそのレイピアは血をまとっていることからも攻撃が通じているのは分かる。
「シャイターン、アナタはそんなに落魄れたのですね……」
シャイターン? 彼女の名前はシャータインのハズだ。
「なぜ?」
レイピアの血を払いレイピアに負けない鋭い視線を彼に送っている。
「情報を集めずして戦を仕掛ける者がいたらその者は愚かですよ」
それはそのとおりだ。
つまり彼は私達が訪れると分かったうえで緻密な計算をしていたのだろう。
「ですがっ!! 計算がブレたのです。アナタが来たから」
指を私に向けてそう叫ぶ。
恨みすら感じさせるような声色は彼の心を色濃く反映させているのだろう。
「能力の二つ持ち、両霊持ち、覚醒者。お前は居てはならないのです」
強い光が視えた。
「処夢 闇黒夢迅」
なぜだ、光に満ちていたはずなのに。
全てを飲み込まんとする闇は鬱陶しいがちゃんと避けておく。
(私も手伝ってもよろしいでしょうか?)
サヴダシクが私に尋ねてきた。
この狭い部屋に四人は正直キツい。
実験用の部屋なのか何処かで見た筒状の水槽が2個ある。あとは横長の机があり身動きを取りづらい。
さらに味方のスキルも避けながら交戦するのだからできれば少数のままでいたい。
広ければ良いのだが────。
「あぁ、そうだ。五輪能力 掃除屋」
彼に向けて大量のヤイバを放つ。
そのついでに両方の壁を砕き破る。
まぁ私はへましないのだ。ちゃんと味方に当たる直前でそれを消すことで味方への誤発をなくす。褒めてほしい。
ありとあらゆる研究の証拠もろとも破壊してしまったが私は悪くない。
まぁもし気にするようなら先に言ってほしかった。
何もかも先に分かっているはずがない。
「わ、私の半生が……」
ズドンと大きな重圧がかかる。
「赦さないですよ」
それに一気に冷めた。それが本気かと。
あの死体を見た時の激昂は消え失せて弱者への貶みの心しかなくなった。
(もう良いよ。広くなった)
彼の放った闇すら吸い込んでサヴダシクが現れる。
「お前の半生などどうでも良い」
満足そうに笑うサヴダシク。
「赦せない……、反省すらなくッ!!」
サヴダシクが私から出た瞬間にまた私の心境は変わった。
赦せないだと? 私のセリフだ。
「他の味方を助けてくる。終わったら来てくれない?」
サヴダシクにそう伝えて返事も聞かずに部屋を飛び出した。
部屋に残されたパウロとシャイターン。
そしてその2人に向けてツバを飛ばしながら叫ぶ彼。
「あのクソガキがいない今!! お前らは居ないも同然です。ビビってるやつしかいないのですから!!」
シャイターンが固まったのはビビったからではない。
間近で見たサヴダシクの正体に気がついたからだ。目の前の彼は『中位堕霊』であり、脅威の個体だ。
だけどそんな彼が気が付かぬ存在。
娘だ、『悪魔女帝』の。
恐ろしい。チカラを隠していることを全く感じさせない。
堕霊への知識は自負している。というのももともと居た国であるヴェラは堕霊を敵視していた。
神に仇なす存在である以上それも当然である。
だから堕霊への対処にも自信があった。
その全てが彼女には通じないだろう。
もしかしたら過大評価な可能性もある。だが、娘などどうでもよく彼女が敵対していないということに何よりも安堵できた。
「悪夢 生命断」
それは悪夢と呼ぶに相応しいものであった。
堕霊を断つのだろうが、人間も同じく断つことができるだろう。なぜならそれは、それが裂くのは────。
私は走っていく。一度通ったから敵はもういない。
赦せぬのはアイツではない。私がいながら味方が殺されていた。
私が悪い。
仲間は死なせないって思っていたのに。護衛のミッションは失敗だ。
そして守りに向かう対象であった人たちは私たちと別の護衛が守っていた。だが魔物に押され気味だった。
「大丈夫!?」
武器を取り出してそのまま魔物の群れを焼き払う。
「あぁ、なんとかな」
疲れたのか座り込んだ男たち。汗だらけだった。
「商団のリーダーは!?」
「あっちだ、食い止めきれてたかはわからない。早く行ってくれ」
私たちは客人である以上ここのマップを完全に把握するのは『魔力感知』を持ってない限り不可能。
私は使えるから多少はわかるのに、油断していた。
魔物の気配を感じ取ることくらいできたはずなのに。
「ありがとう」
私は座り込んだ男にそう伝え奥へと進んでいく。
すると壁をすり抜ける魔物の姿が視えた。
幻覚を使った壁だろう。
その通路の中は密に魔力が溜まっていて詳しく覗けない。知りたいなら入るしかないだろう。
入るよりも先にリーダーに会うべきか?
やっぱりリーダーを先に確認するべきだ。
すぐにそう結論付け、魔物が向かう先へと進んでいく。漏れた魔物は多くないし、リーダーも多少は戦えるようで幾つか魔物の死体があった。
「大丈夫ですか!?」
駆け寄るとふらりとバランスが崩れたようだ。剣を床に突き刺し体を支えている。
「あなたには感謝しきれぬな。助かった、物量で押されると多少キツかった」
息を整えながらそう言っていた。
「休んでいてください。巣を見つけたので」
「感謝する。気をつけてくれ」
そう言って何かを差し出してきた。
「私が持っていても意味がない。これが証拠になるだろう」
それは紙だった。何か長々と記載されている。
「実験の検証結果だ」
これ、いま渡す? 燃えないようにしないといけなくなった。
パッと見た感じ、魔物の増強剤の開発だ。そして魔物を使った『スキル』の追求。
動かぬ証拠にはなるだろう。
「頼んだ、私はもう動けぬのでな」
私は魔物の巣へと向かうのだった。
覚醒者
スキルを進化させた人のこと。または貴族還りを果たした人のこと。
貴族は定員がある。だから間引く必要がある。間引いた者を戻すなど愚か極まりないというのに。
進化していればその方法は何れでも良い。
スキルが魂であるのならば魂も変化するはずだ。それはつまり開花だ。
両霊持ち
天使と堕霊を持っている生物のこと。
両霊に好かれるということは人類にとって都合が良いはずなのき恐れるのだから人間は難しい。
両霊持ちはとても疲れるのだ。味方を見極めなければならないから。だから隠し続けるのだ。
ちょっと時間変えてみました。今後はこれで行こうと思います。
あと、たまに木曜日投稿もしますので、よろしくお願いします。今週は木曜日にもだします!




