☆妖館☆
なぜこうなったのか。
金をゴネる商団のリーダー。怒りを覚えているパウロ、丸まって寝ているマル。
というのもこれといって大きな戦闘はなかった。途中で数匹のゴブリンに襲われたが、それも一瞬で戦闘が終わったのだ。
「カネを払うのはあんたらの手が汚れた時や。ゴブリン襲撃の時もあんたらは馬車から降りへんかったやろ」
馬車の中で無詠唱スキルを使ったからか。
やはりスキル詠唱とは弱点を晒す行為ではあるが、スキルを使うというアピールになるため護衛ミッションでは使うべきらしい。
ニンゲンとはむずかしいモノである。
マラたちが私の友達になる前の野生の頃だって私がスキル使ったというのもわかるだろうに。
「手が汚れたからではないでしょう? 私たちを雇ったからお金がかかるの」
私がそう言うと、
「お荷物を運んだだけやのにか?」
なんなんだ、コイツは。さらに「そうだ、そうだ!」とやじを飛ばす周りのヤツらもいる。
あれ、少しづつイライラしてきたぞ?
「その荷物を発注したのは君だろ」
マルが鋭くそう言い放った。続けて
「まぁ、まだ依頼は終わっていない。僕らは『紅位』なんだ。もっと丁寧にするように心がけるよ」
優しい口調でマルがいい切った。
「せやか、ほんなら届けてもらおか」
そう言ってまた冒険が始まったのだが、これがまたすごかった。
進んでいく森は多種多様な魔物が湧いていた。
そのなかで彼が私たちに詰め寄った理由もわかってきた。
おそらくこうなることを知っていたのだろう。守る気がないならこのまま帰るしかないのだ、と灸を据えようとしたのかもしれない。
そろそろ私達も馬車から出て応戦しなければならないだろう。
「料理屋!」
《アタッカー》の属性を付与する。
うねる炎を拳に宿らせる。そのまま目の前のおなかにたたき込む。
私の拳は簡単におなかを貫き、ぼうっと燃えた炎が傷口もろとも灼き溶かす。
「がっ……」
声を漏らして死ぬゴブリン。ここらへんの一帯はゴブリンすら異常に強い。
「もいっちょ、三権能力 料理屋!!」
紅い炎が地面から吹き荒れる。
そのまま近くにいるゴブリンもろとも焼き払った。
「おい、それって……、三権能力じゃないか!?」
護衛対象の商団の一人が私に向かってそう聞いてくる。
小さな声で耳元に言ってくれたのだが、耳がぐわんぐわんする。
「知らないけど……」
「知らないわけあるかっ!? 堕霊仲間にいるのか!? 見せてくれ!!」
本当にめんどくさい。こうなるから読みが"スキル"で統一されているというのに。
(出てもいいですよ)
本人もこう言うなら出しても良いか。
サヴダシクに許可を出す。するとすぐに黒い霧の中から美しい女性が現れる。
「すげぇな、アンタ……。こんな化け物を仲間にするなんて……」
感嘆の声。だがそれがサヴダシクの逆鱗に触れた。
「化け物ですって?」
あ、スイッチ押したね。
そして過ちに気がついたようだがもう遅い。
「あ、え、あ、その……」
キョドりまくっている彼をサヴダシクに任せて私は進み始めようとする馬車に乗り込む。彼もすぐに気がついたのか焦って飛び乗ってきた。
すぐに出発して何時間か揺られる。
また襲われて撃退する。進むたびに強くなっていく。それを幾度となく繰り返す。
「五輪能力 掃除屋!」
旋風が敵の体皮を切り裂き、殺していく。
私に続いてパウロやマルも頑張って敵を倒している。
「今まで雇った冒険者のなかで一番手際が良くて助かるよ!」
私たちを褒めてくれる。そして私は気がつく。明らかに向こうにも腕の立つものがいる。マルと同じか、もしくはそれ以上だ。
「さてと、最後かな」
私は前方に見える大きな山のような巨人を捉えながらそうつぶやく。
「アイツが……、起きてるなんて聞いてないぞッ!!!!??」
発狂に近いその叫びが聞こえる。おそらく強いことで有名なのだろう。
「避けられないんか!?」
商団の長が馬車の手綱を握る御者にそうきく。
「無理です!! 視認したのが遅かったせいで道が目の前の1本のみです!」
迂回するルートもあったのだろう。これは後悔ですわね。
「アイツと戦うのか……」
あきらめムードの馬車の中で私はイマイチ絶望感を感じていない。
「私が倒せばいいんでしょう?」
私がそうきく。なんて答えが来ても私はアイツを倒すが。
「無理だ、いかに君が強き者であっても」
求めていた返答を聞いて私は馬車から身を投げる。私の行動を止めようとする声も聞こえるがそれを全部無視する。
「マル!」
マルがすぐに私に駆け寄り、背中に乗せてくれた。
首元を撫でると嬉しそうに一つ鳴く。
「三権能力 料理屋」
身長よりも大きな大剣を創り出す。
これでも足りないだろうと思えるほどに相手はでかい。的がでかいと致命傷を与えづらいのか、勉強になった。
その大きな拳を落とせば木々が倒れ、家は崩れるだろう。
被害が出る前に倒したい!
「もう少しだよ」
マルの速度がぐんぐん上がっていく。
馬車はもう遥か後方で横に並走していたパウロはもう前にいて攻撃の準備が整っていた。
「行くよ!」
その勢いのまま地を蹴って巨人の背中に飛び乗る。
ここでも一番背の高い木よりも高い位置だ。
急に動き出す巨人のせいでマルの背中から離れざるを得なくなったが、もう大丈夫だ。
深く剣を刺して大きな穴をつくる。噴水のように噴き出す血が地面を赤くそめていく。
そしてパウロの光線が巨人の頭を貫通する。
「サヴダシク!」
ふっと現れた彼女。
私は揺れる背中から転げ落ちないようにバランスを取る。
「こいつを倒すの手伝って!!」
「わかりました、オリヴィア様」
彼女が召喚した紅い剣が背中を広く斬り裂く。
私は風を使って一気に駆け上がり肩の辺りまで来た。
無理やり風でリーチを伸ばして勢いが不足してもいいように炎をエンチャントしておく。
思いっ切り振りかぶって反対側の脇に向かって振り抜いた!
傷口は良く燃えて巨人の身体が倒れる。
体皮を覆う炎に苦しむ巨人。燃えた拳を振り回して、
「にげて!!!」
全力で叫び私も巨人から離れる。
立膝の状態だった巨人の股下をくぐり抜けた馬車の屋根に飛び降りる。
「アンタすげぇよ!」
馬車の中に飛び入って座る。屋根の上でマルが丸まっているのを感知する。
後ろで崩れ去る巨人が大きな揺れをつくったがもともとすごい揺れる馬車だったのだ。全く気にならなかった。
「でしょ」
私が得意げに相づちをうつ。巨人までいるとなるとこの先の館もかなりヤバそうだが。
「さすが『紅位』だな!」
うむ。私にもその自負があるのだ。簡単にあきらめて死ねるか。なんのために2年間も寝てたと思ってるのやら。
「そして、ここだ」
歓声に揉まれていたせいかすぐついたような感じがする。
馬車を飛び降りるとそこにあったのは怪しげな城。いかにも妖怪がでてきそうだ。
「ここからはダラニという国の領土に入る。下手な行動は慎むように、ね」
いつの間にか横に立っていた老人は嬉しそうに笑う。
紳士的な服装なのに背中にある大きなハンマーがとてもミスマッチしている。
「これが領収書です」
彼に声をかけた商団の長は数枚の紙を手渡し名前を書かせる。
魔法陣が描かれ、彼らの間に複数の破れないルールが結束された。
そして複数の小袋を渡し会計を済ませている。
「あぁ、せっかくです。止まっていきなさい」
私たちを応接間に通しそこで待つように言われた。
内装もかなり不気味であまり長居したくない。
「魔物に守らせている城、か……」
マルがそう言いながら私に近づき近くで丸まった。
「ほんま。あんま長居しとう無いのやが……」
長も嫌そうである。
しかしここに似た内装を何処かで見た。
「菓子でもどうかな? 茶もあるのだが」
コトンと置かれた木のボウルの中にはいくつものケーキがきれいに積まれていた。
そしてきれいな装飾が描かれたポットから綺麗に紅く染まったお茶が同じ装飾のコップへと注がれる。
パウロはそれを一瞥して一つつまみ、お茶を口に含む。
「大丈夫なようです」
私にそう耳打ちして一つ、もう一つと口に運んでいく。
「泊まっていくんだろう? 部屋は用意した」
それぞれをそれぞれの部屋にメイドが連れて行く。
私とパウロとあと一人商団が同じ部屋だった。
マルに一応ルーヴァリックを憑かせておいて万が一の時に備える。
マルは他の商団の人と同じ部屋だった。
本当は彼らの中に私たちが一人づつは居るのがいいのだろうが、「流石に大丈夫」と言われたので良いだろう。
そして一夜を過ごすのだった。
一人、部屋に立っている。
「ドゥフェフェフェフェ……」
笑い声が響く。
カップに入った透明な液体はゆらゆらと揺れている。
実験に使うような器具を買うお金はないらしい。
「まさかああも簡単に倒されるとは、ねぇ」
一人の笑い声が飽和する。
「ゴブリンから育てるのは大変だったのですが……、仕方ないですね。ドゥフェフェフェフェ」
愉しそうな彼に笑みはない。
不気味なこの部屋でただ一人淡々とクスリを創る。
「明日の朝にでも、いや、夜に奇襲でもしましょうかね……」
今はただ乾いた笑いだけをしていれば良い。
いつかはきっと報われるから。
そう考えて怪しげなクスリを調合するのだ。
属性付与
天使を宿すことで可能となる。
基本は《アタッカー》であり、攻撃全般がこれに値する。《ユニーク》となると天使を持たずとも使えるらしい。
ユニークとは元々位の高いスキルのことであり、それより上のランクはなかった。
三権能力
能力の上位互換。堕霊を宿しその身を委ねることで進化するとされる。
進化するのはとても難しくゆえに少数となる。
堕霊は人に興味を持つことが少ない。
能力→三権能力→堕落能力→灰化能力
信託→惡夢→夢望→神惡
冥加→惡力→夢双→無我惡血




