☆悪夢☆
() を使って実際は発声していない会話を表現します。考え事や、堕霊や天使と宿り主の会話などです。
ただ、 「」 を使った場合は発声しています。
ステージに帰国してきた。幾年ぶりだろうか? まあ実際は2年ぶりなのだが。
ただなぜ2年間も寝込むことになったのか全くわからない。確かにかなり体に鞭打って無茶な戦いではあった。
ただ過ぎたことの理由など考えていたってもう意味はない。ただあまり無茶なことはしてはいけないということは痛感した。
そして、
「こんにちは! んと、お久しぶりです?」
私はギルドマスターの扉を勢いよく開けながらそう言った。
「待ってたんですケド!!!」
そう叫びながらわたしにハグしてきた。なんなんだ、コイツ。情緒不安定か?
よく考えれば2年間生死を彷徨っていたみたいな話も聞いたから心配をかけたという可能性は確かにある。
「待たせたわね」
私がそう戯けてみせるとフッと優しく笑ってくれた。
「さあお話をしようか」
いつもの席に座って机に散乱したプリントの山から一枚の紙をとる。それを私に手渡してくる。
「この2年間でさまざまな変化があった。その最たる例が、堕霊の討伐例の増加」
詳しく書かれた棒状のグラフ。
「そして内戦の激戦化、終結」
ゾワッとする。最近ゾワゾワしてばかりだと思う。
「どこの国ですか?」
そしてさらにもう一枚のプリントが渡される。
てか前はここまでプリントは流通していなかったというのにかなり量産体制が整ったようだ。
「ルーヴァの西方向に接する国、ドゥーム。主な理由は宗教対立」
国名いっぱい、ややこしいな。
さらっと読んだ感じから考えると、シヴァ派の南部が大陸全体で信仰されているダイス教のサン派を信仰する北部に仕掛けたそう。
ちなみにうちの国はルナ派であともう一つあるのだがあまり有名ではない。
国教としている国数はそこそこ多いが小国が多い。そういう理由でメジャーではないのだ。
「南北内戦の結果、国土が分化したそうだ。ステージとしては認めないという結論で終わった」
ちなみに私が寝始めた3ヶ月後ほどに始まり1年掛けて終戦したのだとか。
「貴女に関係のある話で言うなれば、そうですね。パウロさんと出会った洞窟はお覚えで?」
ふとパウロとの出会いを思い出す。その景色の中にはマラが居た。忘れるわけがない。
「はい」
その返事に頷くギルドマスター。そんな時に、いきなり語りかけられる。
(すみません。サヴダシクです。コイツの名前を教えてくださいますか?)
びっくりした。私の変な様子に訝しげなギルドマスター。
なんとなくコイツらは隠さなければならない気がする。
取り繕うために少しニコリと表情を緩める。そういえば名前知らないかもと思い、名札を見る。
(ウミラさんだよ)
私はサヴダシクにそう教える。堕霊は基本的に言葉を読めない。
(ウミラ、ですか。ありがとうございます)
おかしな堕霊である。特殊な変化を名付けによって起こしたのかもしれない。
(なんで気になったの?)
(いや、単純な興味です。お手を煩わせてしまいました)
そう言われたらそうだと思うしかない。この会話はすぐに終わった。時間にすると20秒くらいか。
「────という事実が分かったのです。だから気を付けるべきですよ。一応今度また派遣されるそうですけどね」
ハッとした時にはもう会話が終わっていた。私は聞き返す勇気などなく頷くしかなかった。
まあ気をつけていればいいだろう。
「そしてこの任務をクリアしてくれれば貴女方を進級させます」
もうか、と思ったがマニたちが頑張っていが私が寝ていたせいで進級ができなかったとか。
「かなり強いです。それでも、やっていただけますか?」
私は頷いた。
今回はアゴーン森林での任務だ。
今回は堕霊と天使を使って戦いたいため、みんなにお願いして私とマニ、パウロの3人で中まできた。
送り迎えだけさせてと言われたのでマリとマルとヴェレーノにお願いした。
マリとマルと同じ速度で空を飛ぶパウロは、逆光で輪郭だけ見える。
「そろそろですね」
パウロの声が直接聞こえる。
そしてレーダーの結果が送られてくる。これはパウロの特殊能力である『接続送付』。
『機械人間』から、『狂化人間型自立機械』に進化することで可能になる。
その探知範囲は目を見張るものでわたしの5倍ほどある。
私だって目を覚ましてからは前と比べて20倍くらいに増えているのに。
となると、やはり100倍という話はあってるのだろう。
精密な情報から敵影を探る。
直ぐに確認した。範囲内に入ったのはターゲットとそして隠れた人間。そしてゴブリン数体だ。
私の『魔力感知』も性能は上がったのだが、諜報員が本気で隠れると探知ができない。パウロに尊敬の念を覚える。
マリに下ろしてもらい、私たちだけで奥へと進んでいく。
だが、あと少しのところでバレてしまう。いきなり慌ただしく移動を始めた。明らかに新人さんだろう。
てか、スパイの捕獲のミッションではない。
棚からぼた餅ということか。いやなぼた餅である。
「始末する?」
私は一応聞く。
「とびきりの技があるんだ。見てて。能力 絢爛水舞!!」
一瞬で地面が泥濘む。水のローブを纏った。
そして綺麗な手を地面に付けた直後、マニが消えて水の塊だけが残った。
そして補足していたスパイの近くに感じる。自ら飛び出した彼女は水でできたカタナを持って背中を斬る。
私が知らないこの2年間で弛まぬ努力を続けたのだろう。そして水が再び集まりマニが現れる。
「情報などくれてやるものか。そのまま冥土へ行けば良い」
首を掴んで空に持ち上げるマニ。そのまま水のヤイバで腹を横に掻っ切る。そして首に突き刺す。
残虐さが際立っている。
ただ、守るためには躊躇などできない。何でもするべきだ。そう考えればこの世界に足を踏み入れたマニは適応しているとも捉えられる。
「めちゃくちゃ強くなったね」
私の口から漏れた言葉にマニは一瞬驚いて、
「でしょ」
とだけ言った。
「じゃあ私のも見てて。五輪能力 掃除屋」
風の刃があらかじめ捕捉しておいたゴブリンに当てて倒す。それを見たマニは感嘆していた。おそらくその有効射程に驚いているのだろう。起きる前の大体13倍といったところだろうか。
基本スキルは弓などと一緒で重力の影響を受ける。さらに風などでも減速、ブレるので基本10メートルくらいは近づいておきたいのだ。
ただ初めて見たパウロは目を見開いて驚嘆していた。照れるよ?
「さあ、今回の主役だよ。いこう!!」
私は走り出す。
今回の敵は堕霊である。
堕霊は天使の力で消滅する。だが、その逆もまた然りなのである。
私の片刃剣は対堕霊特攻が付いているらしい。
そういう理由で私が派遣されたのだ。天使を持っているのは言っていなかったのだが、片刃剣については寝ている間に鑑定されたのだろう。
そしてかなりの近さのところに堕霊を見つけた。堕霊は用心深く、冷静沈着であるため、私たちのことを観測したとしてもすぐには動かないはずだ。
「五輪能力 掃除屋」
風で堕霊の手足を拘束する。慌てて解こうとしているようだが硬い拘束は簡単には解けまい。
そして追い風を起こして速さをブーストする。一分と少しぐらいでついた。
「き、貴様ぁ……!!」
そう睨みながら言っている。だが私の目を見て固まる。動きを止める。
(出ていい?)
サヴダシクが私にそう問う。
(いいよ)
二つ返事で了承する。
「あっ、貴方様はっ…………」
「キミ達は2つ過ちを犯した。僕が憑いているオリヴィア様を見て逃げなかったこと。そしてオリヴィア様を怒らせたこと。キミの主は後悔するよ、骨の髄までね」
別に怒ってないが?
「ああ、それと。まだ消えていないことの三つだね。悪夢 生命断」
紅い刃を呼びそれを首元に突き刺す。
「オリヴィア様。肉体を頂戴してもよろしいですか?」
呆気にとられて頷く。感謝します、と私に一礼してスッと消える。
「嗚呼、やはり良いものですね」
今まで男女の判別ができなかったのに明らかに女性の姿になっている。
漆黒のドレスに紅い装飾がなされていて、メイドのホワイトブリムをつけている。それが黒い髪の毛によく似合う。
「というかその状態で私に憑けるの?」
私がそう聞くと、
「もちろんでございます」
と答えられた。上品にスカートの裾をつまんで一礼される。
その動作から見える背中の黄金色の鞘に収まった紅い剣が綺麗で見惚れる。
「じゃあおいで」
試してみたいことがあったのだった。
サヴダシクに近づきそのまま抱きつく。ふっと姿が消えて私の中に入ってくる。
(なんて素晴らしい、抱擁────)
甘く柔らかい声で私の心に響く。二度とやらないかもしれない。
ただ強制的に戻せるというのは利点だから、たまにくらいなら使うかもしれない。
「……帰ろうか」
私はくるりと身体を反転させて来た道を引き返そうとした。
「ちょっと待って。今のって……」
ぽかんとした顔から迫真の顔で私の肩を掴む。
そのまま私をグラングランと揺らすパウロ。
そしてすぐに気がついて慌てて謝る。
「すっ、すみません!!」
別に気にしていないが?
「大丈夫だよ。さっきの話の続きしてよ」
ホッとしたようだ。落ち着いて、
「今の方は堕霊なのですか?」
「うん、そうだよ」
私は頷く。
「堕霊に名前をつけたのですか……?」
「え、なんで?」
そりゃ仲間なら名前で呼びたい。『おまえ』とか『きみ』とか苦手なのだ。
「あの方は明らかな強者。そんな方が慕うあなた様の人望の深さが伺えます………」
目を輝かせながらそう言ってくれた。
(よくわかってるではないですか!)
サヴダシクも嬉しそうだ。
パウロの反応に「そりゃそうなるよ」みたいな感じで頷いていたマニだったのだが、パウロの私に対するセリフでドン引きしている。
「帰ろうか」
マニがこの空気に耐えかねたのかそう言って来た。
呆気なくこの以来は終わったのだった。
接続送付
『機械人間』が進化することで得る固定スキル。
自分の得た情報を自分が認めた主に送るというもの。そこには仲間愛がある。機械でも元は人間だ。
主くらい選ばせてやれ。また反感を買うぞ。
狂化人間型自立機械
『機械人間』が進化を果たした姿。
機械は劣化のみを待つ、弱き存在と考えられる。
ただ、『機械人間』は魔物に属する。ゆえに進化ができるのだ。
進化の方法は簡単だ。なんでもいい。殺してそのチカラを吸収すれば良い。
その様は異様で、また華やかでもあった。
諜報員
彼らは基本情報を円滑に共有するために雇い主との間に通路を持っている。
視覚や聴覚を共有して敵の内情を探る。
秘匿を探し、破るのが仕事である彼らは一片の慈悲も持たない。
悪夢
堕霊の上位層が使うスキル。悪魔に特効がある。
一人の女帝から派生した堕霊は宿主のスキルを依り代に肉体を得る権利を頂く。
ゆえにスキルが堕霊でも進化するのだ。まだ知る人は多くないが。




