☆無理難題の舞踏☆
投げている武器は完全に物質なようで『魔力感知』に反応しない。そのせいで目に頼らなければ避けられない。
「若かりし頃の恨みとやらは絶たなければならなかったか」
嗄れたその声は明らかに私に向けて言っている。だけど全く記憶にない。
「おっと、その前に邪魔者は消えてもらおうか」
あっという間にヴェレーノの眼の前まで移動して腹を蹴りそのまま何かを胸に刺す。
今からヴェレーノのところまで走っていっても間に合わない。しかも目的が分からない以上は私はここから動けない。
それでも、ヴェレーノのところまで走って行く。一瞬の迷いなど全て投げ捨てるように走る。
崩れていくその身体を目で追う。ドサッと背中から地面に落ちてすぐに私もたどり着く。
胸に刺さった黒い刃を抜いて彼の身体を抱きかかえる。近くの木に寄りかからせて老婆を睨みつける。
「冥加 炎ノ獄」
老婆のカタナは炎を纏った。
いきなり接近してきて下から振り上げるカタナを横に転がって避ける。そのカタナの軌道を炎が爆発する。
「マラ、マリ、マル! ヴェレーノを守って!」
「でもっ……!!!」
「私がコイツを倒せば良いから!!」
マラの言葉を制止して私は老婆と対峙する。
「そうかい。辺りにいる魔物を警戒するとは、のう」
知らんけどね。いるの、ここに?
本当は3人のうち1人でもここにいてほしい。だけど彼らは『獣力 三位一体』でかなり疲弊している。ありったけのチカラを込めたようだ。
となると限界近い彼らをここで消耗し切るよりも一度離れて回復して後で戻ってきてもらったほうが良い、と判断したというワケである。
私に向かって十字に斬る老婆。それを内側に潜り込んで避けて背中を斬る。
「冥加 炎ノ獄」
炎の鳥があらわれて私に向かって飛翔してくる。
それをジャンプで避ける。鳥はUターンして戻ってくる。
めちゃくちゃ驚いた。
「能力 掃除屋!!」
水の塊を炎の鳥にぶつける。水で鳥を包み込み消火する。
「そうかい……」
突き刺す攻撃をしてきた。それは慣れている。何度かもうみたから。
それは熟練の老婆がすることではない。なぜならもう看破されてる攻撃を何度も撃つのは意味ないと今までの経験で思い知ってるはずだから。
しゃがんで避けようとしたが、そこは予測していたようで切っ先を下に向けてきた。
なんとか横に転がり避けて太ももを斬る。
「ククク……。ではゆくぞ!!」
その言葉と同時に後ろにジャンプして構える老婆。
そして次の瞬間の攻撃は今の私では防ぎ切るのは不可能だ。
そう思えるほどに圧倒的手数の攻撃で、威力も高い。そんなワザが腹に、頬に、足に掠めていく。
ほとんどを最小限のダメージに抑えるのが限界だ。そして────
「冥加 炎ノ獄」
私に向けて放たれた大きな火の弾。
「能力 掃除屋!!!」
風でそらそうと突風を吹かせる。だけど受け流しきれない。吹き飛ばされて地面にたたきつけられる。
……なんとか生きてる。思いっ切り余波をあたってしまったがたぶんこれが最小限だろう。とんでもねぇヤツだ。
地面に突っ伏していたい気持ちを堪えて立ち上がる。服は破れて、立ち上がるのもつらい。
擦り傷はなんとかスキルで治しているが次から次へと新しい傷ができていく。
ここまで戦闘が無理難題に感じるのは何時ぶりだろうか。
多分、ギルドに入る前以来だ。
────数年前
目の前にいるのはゴブリン。
赤い"ひふ"のゴブリンは炎系の魔術を使うみたい。それはギルドのおっちゃんに教えてもらった。
何回もいっしょに練習した剣を能力でつくる。
ドキドキする。足がブルブルと、ふるえる。わたしにはゴブリンをたおせるのだろうか?
深呼吸をして走る。そしてゴブリンを斬りつける。
切口から生温かい血が噴き出してわたしの服にかかる。
それに驚いて後ろに引く。
ゴブリンは手元に火の玉を呼びそれを投げつけてくる。
私は避けきれずにそれに当たる。
あつい、あつい、あつい、あつい、あつい、あつい、あつい、あつい……。
被弾した腕を見る。服が焼けて肌が見える。
ゴブリンはそんな隙に石でできた剣を振り回してくる。
私は走ってにげる。
「やめて……」
わたしは泣きそうになる。鼻がツンと痛む。
ぼうっと火の音が聞こえる。
走ったからか足が、お腹の横が、痛い。
火は"ほっぺた"に少し当たって前に着弾する。
いたい、イタい、痛い、イタい、痛い、イタい……。
服の裾で涙をふく。
そのとき、わたしの『魔力探知』はゴブリンの姿をとらえる。
慌ててはしって避ける。攻撃の後隙に剣を突き刺す。
暗い赤色の血が噴き出しさらにわたしに付着する。
たおした、と喜びを感じて、油断していた。
致命傷を避けるようにふしぎな武器がわたしに降りかかる。
さっきの火の玉よりも痛い。
膝をつき、そのまま地面にたおれて釣り上げられた魚のように地面の上で転げまわる。
「さぞかし痛かろうて。殺そうか、殺さぬか」
わたしは痛みでその言葉を聞ける余裕など持っていない。
少しずつ身体の感覚が失われていく。
ひとしきり嗤ったあとに水が飛び散るような音がする。
そして、動けなくなった。
その時の武器はあまり覚えていない。
だけどあの時の恐怖は根幹が覚えている。
良いじゃあないか。私はあの時の"クソババア"を乗り越えるのだ。
「おい、クソババア!! 今から、殺すから感謝してくれよな」
私は声を張り上げる。啖呵を切ったが勝つ算段というか、心を決めた。
あと一回さわれば殺せるか。
あのクソババアには魔力を感じない。隠しているのかもしれないが枯れているのだろう。
わかりやすく言えば同じところからずっと資源を取っていればいつかは出なくなる。そういうことだ。
つまり私のスキルの権能、『ものを自在に切る』というものを使う。
今まで使ってこなかったのにはもちろん理由がある。それは万能ではないということを
斬り刻むには時間と大量の魔力がいる。今はその時間を稼いでいる。
少しづつ対応できているが身体中で限界を感じている。
ボロボロになった服に関しては不幸中の幸いというべきかマラ達のボスの毛皮の服ではない。買いなおせばいいだろう。
左から来る攻撃を弾いて、上から来る攻撃は横に避ける。そして突き攻撃が来た!!
くるりと身を翻して背中に回り触る。溜まった!!!
「決壊」
溜まりに溜まった私の魔力でクソババアの身体は膨らんだ風船がパンッと弾けるように皮膚が千切れる。
血と黒い霧が噴き出してそのまま地面に倒れた。
「そうかい……、あの時のクソガキかね……。殺されるとは、のう……」
そして瞳から光が消える。私は、コイツを倒したのだ。無理難題などではなかったみたいだ。私は倒したのだから。
キレイに踊っていたかはわからないがあまり搦め手はしなかった。素直な戦闘を好むヤツだった。
勝てたことを噛み締めて安心した瞬間、私の身体は崩れたのだった。
無詠唱
全てのスキルは無詠唱でも使える。
ただし威力が三分の二ほどに弱くなる。
使い分ければきっとより高みに行けるのだ。
魔力
スキルを使うチカラの根源。
だが、それがどのように生まれるのかは全く分かっていない。
そんなものを調べる研究者集団は異端とされて差別を受けてきた。
彼らの所属する研究所の名を『魔研所』という。
差別を受けてまで調べる理由は皆知ろうとしなかった。皆が使えるならそれでいいじゃないか。
それでも調べたのは好奇心故だろう。根源にも、根源があるのだから。それは巡るのだから。
魔猟犬
非常に多くの仲間と群れることが特徴の魔物。
知能はないが攻撃力が高く、飢えている。犬が立ち去った土地は草すら残らぬ地になるという。
何百年かに一度大量発生して国が滅ぶ。
それゆえ歴史上最も多く人を殺したのは犬なのだ。
ただの犬だと、油断などしないことだ。
相色の月飾り
蒼と朱の装飾品。対になるその飾りは一つは首に、もう一つは頭につけると言う。
かつてそれは祭りの際に巫女がつけていた。その家系に阿吽の子が産まれたときそれぞれに渡った。
それ以来、まだ交わっていないらしい。それがまた引き寄せ合う時戦乱が生まれる。
前回中途半端になってしまってごめんなさい!!




